【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

文字の大きさ
151 / 181
第六章 運命を壊す者

しおりを挟む
 翌日、鳥族達の背に乗り王女達一行は西に向かった。今回は勇者ラリエスも魔王とキャスも一緒だった。

 魔王の瘴気を可能な限り抑える為、王女、勇者、魔王は同じ鳥族に同乗した。キャスは代わりにルースや空が護衛して、北の大地を飛ぶ。

「緑と青!キャスに触ったら許しませんよ」

 離れた所からラリエスが威嚇してくる。ずっと見つめてくる圧が暑苦しい。

「え…と、聞いてもいいかな?」
「何だ?」
「彼の…どこがいいの?」

 ラリエスのあまりの束縛ぶりにルースがキャスに尋ねた。彼の束縛はうっとうしいレベルだ。

「…私は元々冒険者なので、そこらの男には簡単には負けない」
「まあ、そうだろうね」

 王女の護衛につく位だし。

「私が勝てない相手が唯一彼だった」
「まぁ、そうだろうね」

 勇者は1番強い者が選ばれる訳だし。

「私なんか赤子をひねる様だった」
「…え~と、お似合いだね」
「ありがとう」

 キャスにラリエスのどこに惹かれたのか聞いてもサッパリわからなかった。どうやら彼女は自分より強い男が好きなのだろう、という事はわかった。

「おい!キャスが赤くなってるじゃないか!緑!お前何をした!」

 隣を並走して飛んでるラリエスが再び威嚇してきた。言葉遣いまで変わって、鬱陶しさが増している。

 しまった。彼女に関わるべきじゃ無かった。ルースは後悔した。

「君と彼女がとてもお似合いだねって言ったんだよ」
「何だと?当然だが、緑よ!お前はよくわかってますね!特別に私の事を名前で呼ぶ事を許しましょう!
「…………どうも」

 ルースはラリエスの名前呼びをゲットした。



 今回の北の魔物は始めから強い瘴気を帯びていた。攻撃も真っ黒な瘴気を帯び、不気味な奇声を上げていた。

 それは、まるで太陽達一行に怒り狂っている様にも見えた。

「私達が生きてるとわかって、あのクソ女が怒ってるんでしょう」

 ラリエスが背中に背負った剣を一振りすると、強く輝く金の光が魔物達を一閃した。断末魔を上げながら多くの黒い魔物達が身体を引き裂かれ、消えていった。

 その攻撃に王女がラリエスを諌める。

「ラリエス、全てを倒す必要は無いわ」
「アレは闇堕ちした魔物です。既に死んだも同然」
「それでも…元に戻るかもしれないじゃない」
「相変わらずですね」

 ラリエスは肩を竦めると剣をしまった。少なくとも今の一太刀で、周囲の魔物は瘴気もろともいなくなった。

 そのまま一行は西へ入った。



◇◇◇



 西の砂漠には、既に長を含む数人の鳥族達が人型の状態で待機していた。

 昨日王女が北へ飛び出した時に、ルース達が翌日に砂漠で落ち合う約束をしていた為だ。

 互いに上空で落ち合いながら、魔王が鳥族の長に礼を述べた。

「赤よ。この度の協力に感謝する」
「魔王様…いえ、精霊王様。鳥族の今があるのは、昔アンタが守ってくれたお陰。今度はアタイらが恩を返す番です」

 周囲の鳥族達も盛り上がっている。まるでお祭り騒ぎだ。その様子を見ていた魔王が、フッと口元を上げた。

「我は…赤のその明るさが好きなのだ」
「魔王様!」

 美形な魔王の微笑みに何名かの鳥族が心を鷲掴みにされた。



 そして、広い砂漠の上に魔王は1人降り立った。

 魔王が降りたった場所が少し瘴気を帯びた。

 ここに今から魔王の抱える瘴気の約3割を移すのだ。

「行くぞ」

 魔王の足元から禍々しい気配が砂漠に染み込み、広がっていく。美しかった砂の海が、徐々に黒い気配に変わり、広大な範囲に広がっていった。

「ラリエス」
「任せてください」

 王女の合図で、王女と勇者の髪と瞳が輝き出す。並んだ2人の前方に巨大な光の魔法陣が現れた。

 古代の言葉で書かれているのか、周囲の者には読み解け無かった。王女と勇者の口から、歌の様な呪文の様な言葉が流れ出てくる。

 魔法陣の周囲が強く金色に輝き、内側に向かって線が走ってゆく。その光が全ての魔法陣を走った時、魔法陣がゆっくりと、瘴気に支配された砂漠に落ちていく。

 魔法陣が完全に砂漠に落ちる前に、魔王の身体が黒いシルエットに変化した。

 前にルースを襲った時とも違う。背中に半透明な羽根を持った、優美な姿だった。そのままふわりと宙に浮かび上がる。

 それと行き違いに、光の魔法陣が砂漠に落ちた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました

ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。 タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。

異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました

あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。 完結済みです。 7回BL大賞エントリーします。 表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

塔の魔術師と騎士の献身

倉くらの
BL
かつて勇者の一行として魔王討伐を果たした魔術師のエーティアは、その時の後遺症で魔力欠乏症に陥っていた。 そこへ世話人兼護衛役として派遣されてきたのは、国の第三王子であり騎士でもあるフレンという男だった。 男の説明では性交による魔力供給が必要なのだという。 それを聞いたエーティアは怒り、最後の魔力を使って攻撃するがすでに魔力のほとんどを消失していたためフレンにダメージを与えることはできなかった。 悔しさと息苦しさから涙して「こんなみじめな姿で生きていたくない」と思うエーティアだったが、「あなたを助けたい」とフレンによってやさしく抱き寄せられる。 献身的に尽くす元騎士と、能力の高さ故にチヤホヤされて生きてきたため無自覚でやや高慢気味の魔術師の話。 愛するあまりいつも抱っこしていたい攻め&体がしんどくて楽だから抱っこされて運ばれたい受け。 一人称。 完結しました!

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

処理中です...