155 / 181
第六章 運命を壊す者
9
しおりを挟む
早朝。暑い雲に覆われた世界でも、ほんのりと朝の気配が感じられる頃合い。
昨夜の酒の影響を微塵も感じさせず、鳥族達は大きな翼をはためかせ、空に舞った。その背には王女達一行が乗っている。
その様子を、二日酔いでゲッソリしたエルフ達が地上から見送った。この後エルフ達は移動の魔法陣で里に戻る予定だ。
「ルース!落ち着いたら里にも顔を出すんだぞ!」
「はい。行ってきます、長」
ほんのり目元を腫らしたルースが、悪男の背に乗りながらベイティに手を振った。
次の目的地は中央の北寄りの土地だった。
昨日のうちに東の銀狼達に頼んでアキエス達に通達を依頼していたので、王女達が着く頃には合流出来る予定だ。
赤い鳥の集団は遮る物がない大空をぐんぐん飛んで行く。
下に広がる南の土地は、見渡す限り、どこまでも続く豊かな緑が広がっていた。
封印に使った土地はもう遥か後方。振り返れば、遠くに真っ黒に広がる地と金色に光る魔法陣が見えた。
「ルースどうした?」
「何でも無い」
空に声をかけられてルースは顔を振った。
かつてエルフは世界の緑を守る為、世界を巡った。そして今、世界を救う為、緑を犠牲にしている。それがルースを感傷的にさせる。
でも、今、ルースには何を犠牲にしても譲れない者が出来た。
今日できっとカタがつく。ルースは先を行く王女の背中を見つめた。
◇◇◇
「協力に感謝する」
中央の目的地についた魔王は先に着いていたアキエスと対峙した。
「いえ、お会い出来て光栄です。妖精王様」
アキエスとその護衛の数名の人間達が跪き頭を垂れた。
アキエスは人間代表としてココにはいるが、本来は王族が担うべき役割。あくまで代行として弁えている為、各地の代表である長達はアキエスにとって格上だ。
「良い、楽にしろ」
「はい」
顔を上げ立ち上がったアキエスは、魔王の後ろにいた人物を見て、え?と声を上げた。
他の人間達も同様に驚きで目を見開いた。
何故ならアキエスにソックリな金髪に金色の目の男がいたからだ。
「ラリエスにソックリ」
「私の方が良い男でしょ」
「やはりラリエスの様に強いのか?」
「ふん、捻り潰してやります」
キャスの興味を引いたアキエスをラリエスが殺意を込めて睨んだ。
アキエス達は震え上がっている。
「自分の子孫を敵視してどうするの」
「ラリエス、今すべき事に集中しろ」
様子を見ていたルースと空が、見兼ねて仲裁に入った。
空がアキエス達を庇う様にラリエスとの間に入り、その隙にルースはアキエス達にあれが500年前の勇者だと説明した。
ちなみに悪男は長時間飛び続けて、グッタリと地べたに座って休んでいる。
「勇者様!」
彼が500年前に姿を消した勇者だと知ったアキエス達一行は尊敬の目で、ラリエスを見つめた。光の勇者は人間達の中から最強の男が選ばれる。小さい頃から聞かされたおとぎ話の主人公が今目の前にいるのだ。
肝心のラリエスは全く興味が無いようで迷惑そうだ。
「ラリエスよ、アキエスにはこれから世話になるのだ。大事にした方がいいと思うぞ」
「何故ですか?」
ラリエスの様子に空が呆れた様に彼を諌める。
「500年経ってるんだぞ。封印後どうやって生活するんだ」
「そんなの決まってます。キャスと結婚します」
「ラリエス…」
頬を染めるキャスをラリエスが優しく抱擁した。
もう…この阿保は知らん。空は説得をあきらめた。
代わりにルースが封印後のラリエス達のフォローをアキエス達に頼んだのだった。
昨夜の酒の影響を微塵も感じさせず、鳥族達は大きな翼をはためかせ、空に舞った。その背には王女達一行が乗っている。
その様子を、二日酔いでゲッソリしたエルフ達が地上から見送った。この後エルフ達は移動の魔法陣で里に戻る予定だ。
「ルース!落ち着いたら里にも顔を出すんだぞ!」
「はい。行ってきます、長」
ほんのり目元を腫らしたルースが、悪男の背に乗りながらベイティに手を振った。
次の目的地は中央の北寄りの土地だった。
昨日のうちに東の銀狼達に頼んでアキエス達に通達を依頼していたので、王女達が着く頃には合流出来る予定だ。
赤い鳥の集団は遮る物がない大空をぐんぐん飛んで行く。
下に広がる南の土地は、見渡す限り、どこまでも続く豊かな緑が広がっていた。
封印に使った土地はもう遥か後方。振り返れば、遠くに真っ黒に広がる地と金色に光る魔法陣が見えた。
「ルースどうした?」
「何でも無い」
空に声をかけられてルースは顔を振った。
かつてエルフは世界の緑を守る為、世界を巡った。そして今、世界を救う為、緑を犠牲にしている。それがルースを感傷的にさせる。
でも、今、ルースには何を犠牲にしても譲れない者が出来た。
今日できっとカタがつく。ルースは先を行く王女の背中を見つめた。
◇◇◇
「協力に感謝する」
中央の目的地についた魔王は先に着いていたアキエスと対峙した。
「いえ、お会い出来て光栄です。妖精王様」
アキエスとその護衛の数名の人間達が跪き頭を垂れた。
アキエスは人間代表としてココにはいるが、本来は王族が担うべき役割。あくまで代行として弁えている為、各地の代表である長達はアキエスにとって格上だ。
「良い、楽にしろ」
「はい」
顔を上げ立ち上がったアキエスは、魔王の後ろにいた人物を見て、え?と声を上げた。
他の人間達も同様に驚きで目を見開いた。
何故ならアキエスにソックリな金髪に金色の目の男がいたからだ。
「ラリエスにソックリ」
「私の方が良い男でしょ」
「やはりラリエスの様に強いのか?」
「ふん、捻り潰してやります」
キャスの興味を引いたアキエスをラリエスが殺意を込めて睨んだ。
アキエス達は震え上がっている。
「自分の子孫を敵視してどうするの」
「ラリエス、今すべき事に集中しろ」
様子を見ていたルースと空が、見兼ねて仲裁に入った。
空がアキエス達を庇う様にラリエスとの間に入り、その隙にルースはアキエス達にあれが500年前の勇者だと説明した。
ちなみに悪男は長時間飛び続けて、グッタリと地べたに座って休んでいる。
「勇者様!」
彼が500年前に姿を消した勇者だと知ったアキエス達一行は尊敬の目で、ラリエスを見つめた。光の勇者は人間達の中から最強の男が選ばれる。小さい頃から聞かされたおとぎ話の主人公が今目の前にいるのだ。
肝心のラリエスは全く興味が無いようで迷惑そうだ。
「ラリエスよ、アキエスにはこれから世話になるのだ。大事にした方がいいと思うぞ」
「何故ですか?」
ラリエスの様子に空が呆れた様に彼を諌める。
「500年経ってるんだぞ。封印後どうやって生活するんだ」
「そんなの決まってます。キャスと結婚します」
「ラリエス…」
頬を染めるキャスをラリエスが優しく抱擁した。
もう…この阿保は知らん。空は説得をあきらめた。
代わりにルースが封印後のラリエス達のフォローをアキエス達に頼んだのだった。
23
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる
ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。
・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。
・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。
・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。
【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました
ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。
タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。
異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました
あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。
完結済みです。
7回BL大賞エントリーします。
表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
塔の魔術師と騎士の献身
倉くらの
BL
かつて勇者の一行として魔王討伐を果たした魔術師のエーティアは、その時の後遺症で魔力欠乏症に陥っていた。
そこへ世話人兼護衛役として派遣されてきたのは、国の第三王子であり騎士でもあるフレンという男だった。
男の説明では性交による魔力供給が必要なのだという。
それを聞いたエーティアは怒り、最後の魔力を使って攻撃するがすでに魔力のほとんどを消失していたためフレンにダメージを与えることはできなかった。
悔しさと息苦しさから涙して「こんなみじめな姿で生きていたくない」と思うエーティアだったが、「あなたを助けたい」とフレンによってやさしく抱き寄せられる。
献身的に尽くす元騎士と、能力の高さ故にチヤホヤされて生きてきたため無自覚でやや高慢気味の魔術師の話。
愛するあまりいつも抱っこしていたい攻め&体がしんどくて楽だから抱っこされて運ばれたい受け。
一人称。
完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる