114 / 181
第五章 果てなき旅路より戻りし者
5
しおりを挟む
いつの間にか外の雨は止んでいた。
部屋にいた太陽達は気づかなかったが、その頃、この世界に住む多くの者が同時に目撃したある一つの奇跡があった。
太陽が放った光の祝福は西の館から外に出て、そのまま上空に昇って行った。
それにより一瞬、世界を覆っていた雲が晴れ、数百年ぶりの太陽が天に現れたのだ。
突然明るくなった空に、世界の各地の幾多の種族達が何事かと外に出て天を仰いだ。
美しく晴れ渡る青空と、空に輝く太陽にこの世界の人々は驚愕した。
そして、彼らは西の空に大きく架かる美しい七色の橋の目撃者となった。
それはこの世界の誰もが見た事の無い自然現象だった。
それでも、その美しさに人々は感動し涙を流した。中央の瘴気を祓い、聖気で満たした方がいらっしゃる。そう感じさせる程の美しい光景だった。
西の七色の橋の奇跡。
この日の現象はそう呼ばれ、西の地は聖女の聖地として知られる様になる出来事となった。
◇◇◇
早速北へ向かうと決めた太陽に、アキエスが気になる言葉を発した。
「魔王をすぐ封印するのでは無いのですか?」
「今瘴気を抑えているのは魔王と勇者なんです。ただ魔王を封印するだけでは瘴気の解決にはならないんです」
「ですが、金の能力が発動したという事は貴方様は瘴気や魔王を憎んでるのでは無いですか?」
ドキリとした。
確かにルースを傷つけた魔王を許すつもりは無い。つい先程までは封印どころが引き裂いてやろうと思う気持ちもあった。
でも何故それをアキエスはそれを知ってるんだろう。
思わず顔を強張らせた太陽を庇う様に、悪男が太陽の前に出る。
「何で…お前が知ってるんだ?」
「アヤシイ!」
心外だとアキエスは肩をすくめた。
「我が家では、金の力の源は魔王や瘴気への怒りだと言い伝えられております。悪を憎み嫌う心が魔王を封印すると。なら、普通は金の者は魔王を憎み封じる筈だと思うでしょう?」
「魔王への怒り…」
太陽は愕然と呟き、空と悪男は信じられないという様に互いに顔を見合わせた。
成り行きを見ていた長達もアキエスの発言は初めて知った様で眉を顰めている。
「確かに魔王がキッカケでセーヤは聖女として目覚めたが…」
「…おかしいですね」
「何がだい?」
空とガソルの言葉に、鳥の長が疑問をぶつけた。
「…わざわざ自分に不利になる状況にするか?」
「そんなの!ルース兄貴を人質にしたかったんだろ?」
「あれが、人質の為に攫うように見えたか?」
「!」
空の言葉に悪男も言葉に詰まった。
どちらかといえば本気で殺そうとしている様に見えた。だが、太陽の前でわざわざ口にしたくは無かった。
「何か複雑なご事情がお有りの様ですね。金の者よ。どうぞ貴方の御心のままに。我々人族は貴方の決定に従いましょう」
アキエスは再び頭を下げた。
◇◇◇
敵の本拠地にはきっとあの黒い化け物達がわんさかいるだろう。
そこで急遽、共に北へ乗り込むメンバーが選出された。元々東も南も長と共に戦える者を同行させていたし、鳥族は基本好戦的でいつでも選出できる状況だった。
その為、太陽が北へ向かうと決めてから、数時間で西の渓谷付近には多くの種族で溢れ返っていた。
接近戦に優れた東の銀狼。
後方支援に優れた南のエルフ。
上空戦に優れた西の鳥族。
そして。
何故か多くの人間達が集まっていた。
彼らは何も知らされていないにも関わらず、先ほど現れた美しい七色の橋に惹かれ、ただ集まって来ていた。
そこに敬愛すべき女神の力を持つ者がいる筈だ。そう確信して。
花も緑も咲かない荒れた地。そう噂されていたその西の渓谷は、幾重にも重なった様々な赤が独特の模様を作り出しているとても神秘的な場所だった。
そこに一際大きく美しい赤い鳥に乗った一向がやって来た。その燃える様な赤い翼は人々の目を惹きつけた。ある者は目を奪われ、ある者は息を飲んだ。
赤い鳥の飛んだ跡を、赤と紫の聖気がキラキラと光を放っている。聖気が見える銀狼やエルフは、なかなか見る機会の無い西の鳥族の聖気に見惚れた。
西の鳥族は魔王の配下。女神に嫌悪された嫌われ者。そう考える者は、もうこの場には誰もいなかった。
だって、ほら。その赤い鳥の背には金の髪と瞳を持つこの世界の救世主が乗っているのだからー。
部屋にいた太陽達は気づかなかったが、その頃、この世界に住む多くの者が同時に目撃したある一つの奇跡があった。
太陽が放った光の祝福は西の館から外に出て、そのまま上空に昇って行った。
それにより一瞬、世界を覆っていた雲が晴れ、数百年ぶりの太陽が天に現れたのだ。
突然明るくなった空に、世界の各地の幾多の種族達が何事かと外に出て天を仰いだ。
美しく晴れ渡る青空と、空に輝く太陽にこの世界の人々は驚愕した。
そして、彼らは西の空に大きく架かる美しい七色の橋の目撃者となった。
それはこの世界の誰もが見た事の無い自然現象だった。
それでも、その美しさに人々は感動し涙を流した。中央の瘴気を祓い、聖気で満たした方がいらっしゃる。そう感じさせる程の美しい光景だった。
西の七色の橋の奇跡。
この日の現象はそう呼ばれ、西の地は聖女の聖地として知られる様になる出来事となった。
◇◇◇
早速北へ向かうと決めた太陽に、アキエスが気になる言葉を発した。
「魔王をすぐ封印するのでは無いのですか?」
「今瘴気を抑えているのは魔王と勇者なんです。ただ魔王を封印するだけでは瘴気の解決にはならないんです」
「ですが、金の能力が発動したという事は貴方様は瘴気や魔王を憎んでるのでは無いですか?」
ドキリとした。
確かにルースを傷つけた魔王を許すつもりは無い。つい先程までは封印どころが引き裂いてやろうと思う気持ちもあった。
でも何故それをアキエスはそれを知ってるんだろう。
思わず顔を強張らせた太陽を庇う様に、悪男が太陽の前に出る。
「何で…お前が知ってるんだ?」
「アヤシイ!」
心外だとアキエスは肩をすくめた。
「我が家では、金の力の源は魔王や瘴気への怒りだと言い伝えられております。悪を憎み嫌う心が魔王を封印すると。なら、普通は金の者は魔王を憎み封じる筈だと思うでしょう?」
「魔王への怒り…」
太陽は愕然と呟き、空と悪男は信じられないという様に互いに顔を見合わせた。
成り行きを見ていた長達もアキエスの発言は初めて知った様で眉を顰めている。
「確かに魔王がキッカケでセーヤは聖女として目覚めたが…」
「…おかしいですね」
「何がだい?」
空とガソルの言葉に、鳥の長が疑問をぶつけた。
「…わざわざ自分に不利になる状況にするか?」
「そんなの!ルース兄貴を人質にしたかったんだろ?」
「あれが、人質の為に攫うように見えたか?」
「!」
空の言葉に悪男も言葉に詰まった。
どちらかといえば本気で殺そうとしている様に見えた。だが、太陽の前でわざわざ口にしたくは無かった。
「何か複雑なご事情がお有りの様ですね。金の者よ。どうぞ貴方の御心のままに。我々人族は貴方の決定に従いましょう」
アキエスは再び頭を下げた。
◇◇◇
敵の本拠地にはきっとあの黒い化け物達がわんさかいるだろう。
そこで急遽、共に北へ乗り込むメンバーが選出された。元々東も南も長と共に戦える者を同行させていたし、鳥族は基本好戦的でいつでも選出できる状況だった。
その為、太陽が北へ向かうと決めてから、数時間で西の渓谷付近には多くの種族で溢れ返っていた。
接近戦に優れた東の銀狼。
後方支援に優れた南のエルフ。
上空戦に優れた西の鳥族。
そして。
何故か多くの人間達が集まっていた。
彼らは何も知らされていないにも関わらず、先ほど現れた美しい七色の橋に惹かれ、ただ集まって来ていた。
そこに敬愛すべき女神の力を持つ者がいる筈だ。そう確信して。
花も緑も咲かない荒れた地。そう噂されていたその西の渓谷は、幾重にも重なった様々な赤が独特の模様を作り出しているとても神秘的な場所だった。
そこに一際大きく美しい赤い鳥に乗った一向がやって来た。その燃える様な赤い翼は人々の目を惹きつけた。ある者は目を奪われ、ある者は息を飲んだ。
赤い鳥の飛んだ跡を、赤と紫の聖気がキラキラと光を放っている。聖気が見える銀狼やエルフは、なかなか見る機会の無い西の鳥族の聖気に見惚れた。
西の鳥族は魔王の配下。女神に嫌悪された嫌われ者。そう考える者は、もうこの場には誰もいなかった。
だって、ほら。その赤い鳥の背には金の髪と瞳を持つこの世界の救世主が乗っているのだからー。
23
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
嘘はいっていない
コーヤダーイ
BL
討伐対象である魔族、夢魔と人の間に生まれた男の子サキは、半分の血が魔族ということを秘密にしている。しかしサキにはもうひとつ、転生者という誰にも言えない秘密があった。
バレたら色々面倒そうだから、一生ひっそりと地味に生きていく予定である。
【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました
ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。
タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。
異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました
あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。
完結済みです。
7回BL大賞エントリーします。
表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)
異世界転生~女子高生が男の子に生まれ変わったのだが
松林 松茸
BL
「これは使命だ。多分だけど私だけに与えられた使命だ!だから・・・美味しく頂かなくては・・・」
女子高生の「西口 麗奈」は異世界に男の子「ハイネ」として転生してしまった。
迫りくる美少年、迫りくる亜人種相手に・・・軋むベッドの音、奏でるホーモニー。
体は男、心は女の冒険活劇が今始まる!・・・性的な意味で。
※男性同士の性的描写を含みます。むしろ性的描写を描きたくてこの小説を書いています。
後半は普通にファンタジー内容になりますが性的描写はやはり入ります。苦手な方はご注意ください。
※過去に「小説家になろう」で連載していた小説です。累計アクセス24万超えでした。
お知らせ~平日:17時更新、土日:12時更新に変更します。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる