166 / 181
第六章 運命を壊す者
20
しおりを挟む
良かった。何とか新しい名前を受け入れてもらえた様だ。
周囲の群衆の大歓声を聞いて、太陽はホッと安堵の息を吐いた。
皆、口々に「トワ!」と叫んでる。中には子供につけると叫んでる人もいた。
とりあえず、どんな形でもいいので語り継いでもらえればありがたい。
役目は終わったとばかりに、太陽はソソクサとその場を降りた。あとはアキエスと妖精王に任せる予定だ。
金の者がいなくなれば、実質、次の実力者は妖精王しかいない。しかも長年この世界を守る為に我が身を犠牲にしてくれた人だ。それを知った今、世界の人々はきっと彼を英雄視してくれるだろう。
「あとはお願いします」
頷いて妖精王とアキエスが壇上に上がっていく。この後は2人から、この世界でこれから起こり得る自然災害に対応する組織について話をしてもらうつもりだ。
新しい組織には金の者は関わらない。
あくまでこの世界でこれから生きていく者達で立ち向かうべき問題だからだ。
「セーヤすっげーカッコ良かった!」
「ヒカリがパー!」
悪男が興奮しながら近寄って来た。ショーキの言葉が意味不明だが、とりあえず、ありがとうとお礼を伝えた。
その後ろからルースと空も近寄って来た。
「セーヤ。とても素敵だったよ」
「ありがとうございます」
恋人の賛辞に、太陽が照れた様に笑った後、ルースの背後にいた空に話しかけた。
「空」
「何だ?」
太陽が天に向かって指を指す。その先には雲一つ無い青空が広がっていた。
「な?お前の瞳の色!綺麗だろ?」
明るい陽射しの中、太陽の金の髪が煌めく。風に乗って金の者特有の香りが空の鼻をくすぐった。
「あぁ…とても綺麗だ」
光の中で笑う太陽を空は眩しそうに見つめた。
◇◇◇
太陽はこの後、ルースと一緒に南のエルフの里へ向かう予定だ。そこで伴侶の儀を行い、2人は正式に伴侶となる。
太陽は純粋な人間では無くなるから、金の能力を使えるのは、きっと今日が最後だ。
大きな事を成し遂げたという誇らしい気持ちと、少しの寂し様を抱えて、太陽はラリエスやルース達と共に足早に控え室へ向かった。
その途中にソレは目に入った。
控え室より更に奥へ向かう廊下に何かが落ちていた。
「あれ何?」
「セーヤ様はここに。私が見てきます」
太陽の言葉に反応したのはキャスだった。
廊下の先に落ちていた物を拾い上げ、「う!」と呻いてそのまま廊下にうずくまった。
「キャス!」
ラリエスがキャスに駆け寄り触った瞬間、同じ様に呻き声を上げて膝をついた。
その様子に空が叫んだ。
「瘴気か!?何故?」
キャスとラリエスに向かって走る空に、太陽、ルース、悪男も続いた。
キャスの手にした紙が禍々しい気配を帯び、それがキャスを蝕んでいる様だった。そのキャスに触れたラリエスにも伝染している。
「ちっ!」
空が手の平に青と銀の光の粒を集め、2人の身体に聖気を流した。身体に巻きついていた瘴気が浄化されていく。
反動でキャスが手にしていた紙が床に落ちた。
白い紙には人物の様な絵が描かれている。
「あ!あれセーヤの紙じゃねえか」
「オレかいたヤツ」
悪男がその紙を手に取り、同じく聖気を流して紙についていた瘴気を祓った。
紙についた瘴気は大した事は無かった。瘴気の元はその紙から落ちた小さな物体だったからだ。
ソレは床に落ちるとコロコロと床を転がった。濃い瘴気をまとったまま。
ソレに見覚えのあった太陽は、慌ててソレを追いかけた。
「セーヤ!ダメだ!それは瘴気の塊だ!」
ルースが太陽に追いかけるのをやめるよう引き止めたが、構わず追いかけた。
何故なら転がったソレは、太陽が左の薬指にしている緑の指輪とお揃いの物だったから。
太陽の指輪は今自分でしている。
なら、目の前を転がっていくソレは無くした筈のルースの物。
ソレを手にした瞬間、太陽は派手に転んだ。それでも手にした指輪は離さない。手の平から禍々しい瘴気が太陽に襲いかかってきた。
「うぐ…」
激しい痛みや吐き気が襲ってくる。瘴気に包まれる前に、早くこの指輪を浄化しないと…。
「セーヤ!危ない!」
少し離れた所からルースの声がした。
指輪に集中しすぎていた太陽は気づかなかったが、ちょうど倒れたすぐ側の角から人影が出て来たのだ。
いきなり目の前に影が差した。
見上げるといつの間にか目の前に大男が立っていた。
濁り澱んだ目が太陽を捉えていた。
『よお…かわい子ちゃん』
「…そんな…まさか」
死んだ筈の大男ラドだった。
ーーー
次話、第六章の最終話です。
太陽、最大のピンチです。
周囲の群衆の大歓声を聞いて、太陽はホッと安堵の息を吐いた。
皆、口々に「トワ!」と叫んでる。中には子供につけると叫んでる人もいた。
とりあえず、どんな形でもいいので語り継いでもらえればありがたい。
役目は終わったとばかりに、太陽はソソクサとその場を降りた。あとはアキエスと妖精王に任せる予定だ。
金の者がいなくなれば、実質、次の実力者は妖精王しかいない。しかも長年この世界を守る為に我が身を犠牲にしてくれた人だ。それを知った今、世界の人々はきっと彼を英雄視してくれるだろう。
「あとはお願いします」
頷いて妖精王とアキエスが壇上に上がっていく。この後は2人から、この世界でこれから起こり得る自然災害に対応する組織について話をしてもらうつもりだ。
新しい組織には金の者は関わらない。
あくまでこの世界でこれから生きていく者達で立ち向かうべき問題だからだ。
「セーヤすっげーカッコ良かった!」
「ヒカリがパー!」
悪男が興奮しながら近寄って来た。ショーキの言葉が意味不明だが、とりあえず、ありがとうとお礼を伝えた。
その後ろからルースと空も近寄って来た。
「セーヤ。とても素敵だったよ」
「ありがとうございます」
恋人の賛辞に、太陽が照れた様に笑った後、ルースの背後にいた空に話しかけた。
「空」
「何だ?」
太陽が天に向かって指を指す。その先には雲一つ無い青空が広がっていた。
「な?お前の瞳の色!綺麗だろ?」
明るい陽射しの中、太陽の金の髪が煌めく。風に乗って金の者特有の香りが空の鼻をくすぐった。
「あぁ…とても綺麗だ」
光の中で笑う太陽を空は眩しそうに見つめた。
◇◇◇
太陽はこの後、ルースと一緒に南のエルフの里へ向かう予定だ。そこで伴侶の儀を行い、2人は正式に伴侶となる。
太陽は純粋な人間では無くなるから、金の能力を使えるのは、きっと今日が最後だ。
大きな事を成し遂げたという誇らしい気持ちと、少しの寂し様を抱えて、太陽はラリエスやルース達と共に足早に控え室へ向かった。
その途中にソレは目に入った。
控え室より更に奥へ向かう廊下に何かが落ちていた。
「あれ何?」
「セーヤ様はここに。私が見てきます」
太陽の言葉に反応したのはキャスだった。
廊下の先に落ちていた物を拾い上げ、「う!」と呻いてそのまま廊下にうずくまった。
「キャス!」
ラリエスがキャスに駆け寄り触った瞬間、同じ様に呻き声を上げて膝をついた。
その様子に空が叫んだ。
「瘴気か!?何故?」
キャスとラリエスに向かって走る空に、太陽、ルース、悪男も続いた。
キャスの手にした紙が禍々しい気配を帯び、それがキャスを蝕んでいる様だった。そのキャスに触れたラリエスにも伝染している。
「ちっ!」
空が手の平に青と銀の光の粒を集め、2人の身体に聖気を流した。身体に巻きついていた瘴気が浄化されていく。
反動でキャスが手にしていた紙が床に落ちた。
白い紙には人物の様な絵が描かれている。
「あ!あれセーヤの紙じゃねえか」
「オレかいたヤツ」
悪男がその紙を手に取り、同じく聖気を流して紙についていた瘴気を祓った。
紙についた瘴気は大した事は無かった。瘴気の元はその紙から落ちた小さな物体だったからだ。
ソレは床に落ちるとコロコロと床を転がった。濃い瘴気をまとったまま。
ソレに見覚えのあった太陽は、慌ててソレを追いかけた。
「セーヤ!ダメだ!それは瘴気の塊だ!」
ルースが太陽に追いかけるのをやめるよう引き止めたが、構わず追いかけた。
何故なら転がったソレは、太陽が左の薬指にしている緑の指輪とお揃いの物だったから。
太陽の指輪は今自分でしている。
なら、目の前を転がっていくソレは無くした筈のルースの物。
ソレを手にした瞬間、太陽は派手に転んだ。それでも手にした指輪は離さない。手の平から禍々しい瘴気が太陽に襲いかかってきた。
「うぐ…」
激しい痛みや吐き気が襲ってくる。瘴気に包まれる前に、早くこの指輪を浄化しないと…。
「セーヤ!危ない!」
少し離れた所からルースの声がした。
指輪に集中しすぎていた太陽は気づかなかったが、ちょうど倒れたすぐ側の角から人影が出て来たのだ。
いきなり目の前に影が差した。
見上げるといつの間にか目の前に大男が立っていた。
濁り澱んだ目が太陽を捉えていた。
『よお…かわい子ちゃん』
「…そんな…まさか」
死んだ筈の大男ラドだった。
ーーー
次話、第六章の最終話です。
太陽、最大のピンチです。
25
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました
ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。
タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。
異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました
あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。
完結済みです。
7回BL大賞エントリーします。
表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
塔の魔術師と騎士の献身
倉くらの
BL
かつて勇者の一行として魔王討伐を果たした魔術師のエーティアは、その時の後遺症で魔力欠乏症に陥っていた。
そこへ世話人兼護衛役として派遣されてきたのは、国の第三王子であり騎士でもあるフレンという男だった。
男の説明では性交による魔力供給が必要なのだという。
それを聞いたエーティアは怒り、最後の魔力を使って攻撃するがすでに魔力のほとんどを消失していたためフレンにダメージを与えることはできなかった。
悔しさと息苦しさから涙して「こんなみじめな姿で生きていたくない」と思うエーティアだったが、「あなたを助けたい」とフレンによってやさしく抱き寄せられる。
献身的に尽くす元騎士と、能力の高さ故にチヤホヤされて生きてきたため無自覚でやや高慢気味の魔術師の話。
愛するあまりいつも抱っこしていたい攻め&体がしんどくて楽だから抱っこされて運ばれたい受け。
一人称。
完結しました!
竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる