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二度あることは三度ある
しおりを挟む俺には今の俺になる前の記憶が二つある。
何を馬鹿なと思うだろう?
だが実際、あるんだから仕方がないだろう。
今世の俺は貴族階級の上の上、公爵家でも筆頭の凄い家柄だ。
俺自身は三男でスペアにもならない立場だったから、家を出される前にと前世の記憶を頼りに魔導具を制作し、それを販売する商会を立ち上げて貰って公爵家の資産の底上げに大きな影響力を齎した。
そのお陰か、政略結婚しろとか騎士になって国に仕えろとか言われずに済んでいる。
今の俺の肩書きは、筆頭公爵家の三男で王都でもトップクラスの商会の会頭だ。
ただし、名前だけ。
俺、まだ未成年だし魔導具制作に忙しいから。
実際、取締役は次兄がついてるし。
・・・・・・うん。なんか凄いことになってしまったけど。
元々俺は魔導具を作るのが好きで書庫で魔導具の本を読んで、独学で色々作っていたんだ。
前世では魔法が無い生活を送っていたので、便利な道具がたくさんあった。
それを魔導具で再現しようとして、最初に作ったのが氷室だった。
この世界は普通に四季があり、当然、夏は暑い。
なのに貴族ってヤツは、暑かろうと服装を崩したりしない。人前では特にだ。
何でノースリーブに短パンじゃあ駄目なんだよぉ!
俺には耐えられなかった。
なまじ前世の記憶があるが故に、この夏の暑さに耐えきれ無かった!
クーラーはさすがにいきなり作れない。
ならば冷蔵庫!
冷凍機能も付ければ、各家庭で冷たいモノを作れるし、食べ物が痛むのも防げる。
氷室は昔からあるが、サイズがデカいし実用的では無かった。
一般家庭には使えない。
基本的に冬のうちに確保した雪や氷を倉庫に置いて、倉庫内を涼しくするもので大きな商会などが使用するものだ。
幸い、自分の得意な魔法が氷魔法だったため、魔石を自前で作りまくって実験しまくり、前世でいうところの業務用大型冷蔵庫サイズが出来上がった。
サイズも金額もおサイフには優しくない物になったが、これからもっと改良して値段もサイズも平民並みに持っていこう。
最初、家族には遠巻きにされて『お前、何やってんだ』という目で見られたが。
完成した試作君3号で早速果実水を冷やし、冷凍庫でジェラートを作って食べさせると、皆が凄い勢いで食いついてきた。
ギラッとした目を一斉に向けられ、思わずちびりそうになった。実際、涙目だった。
この時、俺は7歳になったばかりだった。
長男のギルバートは15歳、次男のアーノルドは13歳。
綺麗な黒髪に夕焼け色の瞳の格好いい兄弟。
俺はというと、銀髪にアイスブルーの瞳。
兄様とも父様達とも似ていないから、たぶん養子だと思う。
誰も何も言わないけど。
二人とも学園の寮に入っていて、たまの休暇に戻ってきては末の弟がヘンなことしてるなあとは思っていたらしい。
ただ、まだ7歳の子供がこんな魔導具を作っているとは思ってもいなかったようで、驚愕の目で見られたが。
「ノクティス、この『冷蔵庫』の設計図はあるかい?」
父様が俺を呼んだ。俺はいそいそと自分の部屋から設計図を抱えてきて父様に渡した。
父様と兄二人が膝を突き合わせて何やら話をしているが、俺はそっちよりも母様に感想を聞きたかった。
「母様、美味しかったですか? 冷たかったでしょう?」
「ええ、冷たくて美味しかったわ。あの『ジェラート』もノクティスが考えたの?」
「ええと、たくさん失敗しましたけど、何とかうまくいきました」
実際は前世の食べ物で俺のレシピじゃあ無いけど、試行錯誤はしたからいいよね?
どうせこの世界にはないものだし。
「ノクティス! その食べ物のレシピも持ってきなさい」
「ひえ、あ、はい」
耳で拾ったらしい父様にジェラートのレシピを持っていくと、再び三人で話し出してしまってすっかり蚊帳の外の俺は、朝から緊張しっぱなしだったので気が抜けて眠くなってしまった。
気付けば父様達の話し声を子守唄にソファの肘掛けにもたれかかって夢の中。
父様を始め、家族皆に生温かい目で見られていたなんて知らずに・・・・・・。
---ああ、これは夢だ。
前世の俺が必死で走っている。
何かに追いかけられて。
何か?
違う。
誰か。
そうだ。
あの日俺は誰かに追いかけられて、逃げて逃げて、そうして・・・・・・。
歩道橋の上から突き落とされた。
「---っ!!」
声にならない自分の叫び声で目が覚めた。
体の震えが止まらない。
いつの間にか自分のベッドで眠っていたようだけど、それを気にかける余裕は無かった。
そうだ。
思い出した。
何で死に際の事を忘れているんだろうって思ってたけど。
そりゃ、こんな記憶、トラウマもんだよな。
前世は18歳の誕生日に殺された。
前々世は---やっぱり18歳の誕生日に羽根をもがれて突き落とされた。
だからか、俺は生まれた時から高いところが苦手だった。
高い高いで大泣きをした。
自室のベランダでさえも怖くて近寄れなかった。
極度の高所恐怖症だった。
俺は前世、地球で生まれて殺された。
前々世はここで生まれて殺された。
---18歳の誕生日に。
今世は前々世と同じ世界で・・・・・・。
ゾクリとした。
まさか、そいつもここに転生してるんじゃ・・・・・・?
気にしてしまったら全てが怖くなった。
だって『二度あることは三度ある』って言うじゃん?
今世は三度目・・・・・・。
俺、また、18歳で殺されるの・・・・・・?
自覚してしまったら、涙が溢れてきた。
18歳を2回繰り返してるんだから、精神的にはおじさんなのに、7歳のこの体に精神が引っ張られるんだろう。
止めたいのに止まらない。
息がうまく吸えない。
「っひ、ひ・・・・・・ぇぐっ」
過呼吸だって分かってるのに、どうにも出来ない。
部屋の外が騒がしくなっても気付かずに、必死に息を吸おうとして。
誰かに口を塞がれた。
「ふ、ぅ・・・・・・っ」
「大丈夫、大丈夫だから・・・・・・」
そういって再び口を塞がれて、呼吸が楽になってきた。
涙でぼろぼろの顔を優しく撫でる温かい手に安心して。
「・・・・・・死にたく、ない・・・・・・」
そう呟いた事は何となく覚えてる。
その後は目の前が真っ暗になって、俺の意識は闇に沈んだ・・・・・・。
あれから10年。
俺は来週、18歳の誕生日を迎える。
この世界は18歳が成人だ。
これで名実共に商会の会頭になる。
---生きていれば。
あの日、俺が何かやらかしたのか、口走ったのか。
やたらと厳重な警備体制が敷かれて、公爵家の騎士団から俺の護衛という騎士が常に5人張り付くようになった。
屋敷内はさすがに護衛は2人だけど。
後、12歳から通うはずの学園に、何故か俺は通わなくていいことになった。
貴族って小さい時から家庭教師がついて勉強するんだけど、俺、知らないうちに学園で学ぶ事を全て修学していたらしい。
そう言えば、毎年年度末に卒業試験みたいな事をやらされてたけど、あれって進級試験だったらしい。
学園と同等の試験で、飛び級も兼ねてたとか。
知らねえよ。
でもまあ、学園に通う事とアレと遭遇するリスクを天秤にかけたら、引きこもり万歳だけどね。
どこで接触するか分からない。
父様達には謝られたけど、全然気にしてない。
「色々危険だから、出来ればずっと家に居て欲しい」
ってすまなそうに言われたけど、俺の方こそごめん。
前々世からの死に際を思い出してから、高所恐怖症に加えて対人恐怖症も患ってしまって、家族や古参の使用人、騎士団の人も接触があった人以外は慣れるまで時間がかかった。
とにかく疑心暗鬼に陥ってしまって、ギル兄様が学園の寮に入る時からひとり寝してたのに怖くて眠れなくなり、見かねた父様と母様が川の字で寝てくれた。
ギル兄様があの後学園を飛び級で15歳で卒業するまでは父様達が。
卒業してからはギル兄様のベッドで添い寝して貰ってます・・・・・・今でも。
アーン兄様もギル兄様同様、飛び級で15歳で卒業して。
ギル兄様がどうしても外せない用事とかで不在になるときはアーン兄様に添い寝して貰う。
さすがにこの歳で夫婦のベッドに乱入は出来ない。
・・・夫婦の夜の営みを邪魔したくない。
何時までもヘタレな弟でごめん。
成長してますます美丈夫に磨きがかかる兄達に比べ、相変わらずひょろっこい、小柄な俺。
はっきり過去世を思い出してから、今世の自分は前々世の容姿に瓜二つだと気付いた。
前世は黒髪に焦げ茶色の瞳だったけど、それ以外は前々世と同じ。
色味が派手じゃない分、平凡の域を出なかったけどね。
商会は、俺が色々便利グッズを生み出しているので売り上げが凄いことになっている。
今は冷蔵庫も小型化して、値段もちょっと頑張れば一般市民も手に入れられるくらいにはなった。
オーブンも作った。コンロも。
温度調節とか火の強弱とかボタン一つでオッケー。
だって薪や火魔法で火加減って難しいじゃん。
厨房だって暑いしさぁ。
夏場は地獄よ。
試作品を設置して使い心地を教えて貰って改良して。
料理人さんにはめっちゃ喜ばれた。
これも今は小型化して一般家庭用サイズになった。
衛生的な面で気になっていたトイレ事情も、便座に、貴族には浄化の魔石を、一般市民には無害なスライムをトイレの中に入れて(もちろん謎技術で)排泄物を処理して貰って・・・。
お陰で匂いも防げて病気も流行りにくくなった。
良きかな。
そんなこんなで生活必需品を色々と世に出し、一方でそれに付随する副産物なんかも売れているわけで。
最初に振る舞ったジェラートや、その後に記憶を頼りに料理やお菓子をレシピに書き起こして試作。
これはイケる!となったものは父様達が特許申請をしてくれた。
そう、この国(世界?)には特許の仕組みがあったのだ。地球の転生者とかいるのかなあ。
ほっといても何割か収入が入るので、未成年だけどそれなりにお金貯まってるよ。やったね!
そんなこんなで迎えた18歳の誕生日当日。
身内だけでお祝いだと屋敷中浮かれてバタバタしているとき・・・・・・。
---俺は拐かされた。
護衛騎士の一人に・・・・・・。
気付いたら街外れの時計塔の天辺で。
いやどうやってここに連れて来たんだとかどうでもいい?事を考えて。
だってそうしないと気絶する。
ここ、時計塔の天辺も天辺、屋根の上!
ベランダでも腰が引けるのに、高すぎて一周回って今は感覚が麻痺しているところ!
「・・・まさかあなたが・・・」
10年前からずっと俺の護衛を担当していた一人。
全然気付かなかった。
そんな素振りも無かった。
「どうして・・・」
「お前のためだ」
「・・・ぇ」
俺の?
え? どういう・・・・・・。
「俺の愛するお前は18歳の誕生日に最高に綺麗なまま死ぬんだ。誰にも穢されないようにお前を殺す」
「・・・・・・意味が、よく・・・・・・」
護衛騎士はニタリと笑った。
その顔は夢で見たアイツと同じ笑い方で・・・。
「---!」
過去の記憶が甦る。
前々世の俺を殺したヤツ。
有翼人だった俺は、コイツに羽根をもがれて崖から突き落とされた。
理由なんて分からない。
何故?
---あの時コイツは『自分のモノにならないなら』と言ってなかったか?
『翔んで逃げないように』
そういって翼をもいだような・・・・・・。
・・・・・・まさか。
前世の記憶がある今なら分かる・・・・・・。
・・・コイツ。
ストーカーだ!!
ああそうか、前々世で一方的に付き纏われ、断っていたら18歳の成人の誕生日に殺されたんだ。
前世も同じように一方的に好意を寄せられて、挙げ句、歩道橋から・・・・・・。
どっちも同じ。
コイツは俺だと知ってて付き纏い、俺の為と言いつつ自分の為に、自分の欲を満たす為だけに俺を殺した。
俺の意思など関係なく、理不尽に。
・・・・・・分かったところで、腹が立つよりも諦めが勝った。
アイツがまだ何か喋っているが耳に入ってこない。
理不尽に奪われた俺の人生、三度目も同じ。
なら、せめて来世ではこんなヤツとは違う世界で、普通に歳をとって穏やかに死にたいと願うだけ・・・。
話して気が済んだのか、おもむろに俺の腕を掴んで、いやらしい笑みを浮かべて言った。
「じゃあまた、来世でな」
---二度とごめんだ。
屋根から放り投げられて、浮かぶのはギルバート兄様。次いでアーノルド兄様。父様、母様。
そして俺を愛してくれた屋敷の人達。
ごめんね。
俺はやっぱり18歳で死ぬ運命だった。
落ちる時に目に入ったのは沈みかけた夕焼け色の空・・・。
ギルバートの瞳の色だった。
俺の大好きな、大切な人。
ほろりと一滴の涙が空に消えていった・・・・・・。
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