わたしの正体不明の甘党文通相手が、全員溺愛王子様だった件

あきのみどり

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第五王子とクッキー作り、の波紋 3

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 喜色全開のフォンジーの笑顔を前にして。身体のこわばりがおさまってくると、ロアナはやっと彼に訊ねた。

「で、殿下……大丈夫なのですか? 今日もここにいらっしゃるなんて……リオニー様は……あ、か、監視は…………」

 ロアナがオロオロと厨房内を慌てて見回すと、入り口付近に見慣れぬ青年の姿。
 暗い色の制服をきた若者は、鋭いまなざしでロアナたちを見ている。
 その物々しい表情を見て、まさか、あの人が……⁉ と、一瞬悲壮な顔をした娘は──直後、なぜかそちらのほうへ一目散に突進していこうとした。──その手を、フォンジーが引き留める。

「待って待ってロアナ! どうしたの?」
「え⁉ あの、あの方に、変な告げ口を側妃様になさらないようお願いしてこようかと……」

 とたん“あの方”へ視線をやったフォンジーが、破顔。

「ごめん、あれは僕の侍従だよ」

 言ってフォンジーは、いきなり侍女に突進されそうになってギョッとしたらしいその青年を招きよせる。

「ロアナ、彼はイエツ。ブルクミュラー家の子で、ぼくの幼馴染」
「あ……さようでございましたか……」

 その家名には、王宮事情にうといロアナでも聞き覚えがあった。
 たしか古くからの名家で、当主は侯爵位を持つ。王宮内にはその一族が王族の補佐役として大勢仕えているという話だが、皆優秀で、下っ端とはあまり関わりがない。
 ロアナは青年に、自分の勘違いを「大変失礼をいたしました」と、詫びて。なるほどこの方が、その噂の一族か、と、しみじみと青年を眺める。
 年頃はロアナより少し下。真面目そうで繊細そうな若者だった。ジロリとこちらを見ている顔は、明らかにロアナに警戒心があるが……まあ、これはおそらくフォンジーに対する忠心ゆえのことだろう。

 と、フォンジーがニコニコと言う。

「これからは王宮内で何かあったら、彼らブルクミュラー家の人間を探すといいよ。すぐにぼくに伝わるからね」

 微笑みかけられたロアナは、「わかりました」と頷いたものの、少し戸惑いも感じた。
 ブルクミュラー家の人々は王宮内のエリート。
 自分のような下っ端が気やすく話しかけられるような気が欠片もしない。
 イエツのほうも、どこか複雑そうな顔で自分を見ている気がして。ロアナはなんだかすこし居心地が悪くなってしまった。

「ええと……それで、殿下。こちらにいらして大丈夫なのですか?」

 ロアナは改めてその問いをフォンジーに向ける。
 あんなことがあった昨日の今日である。イエツが違うにせよ、他に監視がいるのではとロアナは少し怯えた顔。
 だがフォンジーは明るい顔を崩さない。

「大丈夫。今お母様は自主的に謹慎中だから」
「自主的に……謹慎中?」
「そう。ほら、お母様は昨日、イアンガード様とウルツ兄様にいろいろ追及されたからね。ここは一歩引かねば分が悪いと思ったみたい。お父様の寵愛も失いたくないだろうし、しばらくは大人しくしているはずだよ。まあ、監視はいるみたいだけど。それはほら、イアンガード様が二の宮の守りを強化なさったから」

 二の宮の中にまでは入ってこられないよと言われ、ロアナはやっと肩から力を抜いた。
 とりあえず、今すぐにフォンジーが母親に咎められるということはなさそうだった。
 しかし、かといって、この状況が目の前の青年にとって、よくないことであるのには変わりがない。
 ロアナは身を正して、「それで、今日は何をつくるの?」と、楽しそうなフォンジーをいささか不憫に思いながらも。彼を説得しようと、彼に取られていた手を両手で包み、向きなおる。

 これにはフォンジーが数回瞳を瞬いた。
 とっさに握った手がそのままだなと、密かにこそばゆく思っていたが。それを改めて握り返されるとは思っていなかったらしい。

「ええと……ロアナ?」

 照れくさそうな青年に。と、彼女は神妙な顔で言う。

「殿下……このようなことを申すのは大変心苦しいのですが……もうわたくしめなどにはお構いにならぬほうがよろしいかと……」
「え、やだ」

 意を決して言った言葉を、フォンジーは即座に拒否。おまけに悲しそうな顔をされ、ロアナは眉を八の字にする。
 と、後ろで二人の会話を不満げに聞いていたイエツが、フォンジーの落胆を見て険しい顔をした。
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