婚約破棄された悪役令嬢は、親の再婚でできた竜人族の義理の兄にいつの間にか求婚されていたみたいです⁉

あきのみどり

文字の大きさ
3 / 83

初顔合わせ? 3 

しおりを挟む

 

 彼女が敬愛する父アルフォンスは、少し前にケガで職を辞した。
 長年、騎士として国王に忠心を捧げていた彼が、その職を失うということは、父は生きがいを失ったも同然。
 エミリアはそんな父を心底心配していたが、現在学生という身分の彼女は、普段はここから離れた王都の学園寮に住んでいて、父のそばにずっとはいられない。

 ──だからこそ、この父の再婚は、もだえるほどに嬉しい。

 ずっと独り身だった父に、寄り添ってくれる女性が現れたことは、この上ない僥倖だ。
 エミリアにとっては、まさに跳びあがりたいほどに嬉しい出来事だった。

 もちろんずっと独占していた父に、新たに愛する人ができたことには、ほんの少し寂しさも感じるが……やはりここは、娘として、ぜひとも新しい夫婦の行く末が幸せなものとなるよう尽くしたかった。
 ゆえに、新しい義理の兄の反応は非常に気になるところ。

(……お兄様、わたしのこと、気に入ってくださらなかったのかしら……)

 困ったことに、心配でじっと見つめてみても、竜人族の顔を見慣れないエミリアには、それはなかなか難解。彼女には義兄が何を考えているのかがさっぱり分からなかった。
 義理の兄は、ただ言葉もなくエミリアをじっと見下ろしている。
 厳めしいドラゴン顔に見つめられた彼女は、背筋がゾクゾクした。──怖かったのではない。強そうで、心底、猛烈に、羨ましかった。

 エミリアは、貧弱な自分をとても恥じている。
 幼い頃の夢は父と同じ騎士。
 しかし、生まれつきの体質もあって、どうにも身体が強くならない。
 そのため強いものへの憧れが強く、この、圧倒的強者の風格を備えた兄を前にしたエミリアはすっかり魅了されていた。心臓の音を耳元に聞きながら、熱望。

(…………どうしよう……お兄様に気に入ってもらいたすぎる……)

 それは、先日婚約者と親友に裏切られて以降、はじめて湧いた、誰かに好かれたいという気持ちだった。

 ドキドキしながら、エミリアは改めて義兄の様子をうかがった。
 義兄は彼女と対面した瞬間から、ずっとエミリアを見つめたまま無言。
 厳めしく固まった表情は、不機嫌なようにしか見えず、エミリアは焦ってしまう。

 しかしそういえば、先に対面した継母も、エミリアを最初に見た時少し奇妙な反応だった。
 出迎えてくれた瞬間はとても嬉しそうだった顔が、彼女に近づいたとたん(え⁉)と眉間にしわを寄せて。絶句した顔が脳裏によみがえり、エミリアは消沈。

(……やっぱり……わたしなんかが、誰かに好かれるなんておこがましいのかしらね……)

 思い出されるのは、つい一週間ほど前に彼女がみまわれた婚約破棄劇。
 そこで彼女が否応なしに演じさせられたのは、“運命の恋人たちを苦しめる悪役令嬢”という、最低最悪な役回り。
 思い出すと、今でも心にずっしり大岩がのしかかってきたようだった。
 同族の婚約者にすらそっぽを向かれてしまった自分が、竜人族という屈強な種族の義兄にすんなり受け入れてもらえることがあるだろうか。
 それは、あまりにも無謀な望みのような気がして、エミリアはしょんぼり肩を落とした。

(この体格ですもの……お兄様はものすごくお強いに違いない……猛者は、やっぱり猛者がお好きよね……分かるわ……わたしも、ものすごく強いお方が好きよ……こんな……チビの白蛇みたいなやつ論外ですよね……)

 “チビの白蛇”
 それは、背も低くて、身体も細く、三白眼で、髪が白い彼女を揶揄した言葉。
 つい先日、学園で自分が密かにそう呼ばれているのだと知って、エミリアは相当にショックだった。
 エミリアの脳裏には、この屈強な義兄の足元でチョロチョロしている子蛇な自分が思い浮かぶ。
 ……どうかんがえたって、不釣り合いである。

 ただ、それでもどうにか頑張りたい。
 他でもない、父の幸せにつながる出会いである。

(お父様の再婚に、娘のわたしが水を差すわけにはいかない……)

 男手一つで彼女を育ててくれた父には、なんとしても幸せになってもらいたかった。
 そのためには、エミリアは新しい家族たちに、必ず好かれなければならない。
 どんなに、相手が圧倒的強者でも。自分が相手にされなさそうな小者でも。

 エミリアの目に、キッとファザコン魂が燃え上がる。

(……お父様の久々の新婚ライフの安寧のために……わたし……お兄様に、絶対好かれてみせる!)

 自信はないが、父のためならいくらでも前のめりになれる娘。それがエミリア・レヴィンという娘であった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

婚約破棄で、おひとり様になれるはずだったのに!?

パリパリかぷちーの
恋愛
主人公ルシアン・ヴァイオレットは、「悪役令嬢」として振る舞う孤独愛好家の公爵令嬢。念願だった第一王子アランとの婚約破棄を言い渡されると、内心では歓喜し、大都会の喧騒から逃れて森の奥の廃墟同然の別荘へと引きこもる。ルシアンの目的は、誰にも邪魔されない至高の静寂ライフを満喫することだった。 しかし、彼女の理想郷にはすでに先客がいた。それは、無口で無愛想だがハイスペックな謎の男、キース。実は彼は、王国の裏社会を統べる『影の英雄』と呼ばれる辺境伯であり、ルシアンの孤高の姿に心奪われた重度の隠れファンだった。

悪役令嬢はSランク冒険者の弟子になりヒロインから逃げ切りたい

恋愛
王太子の婚約者として、常に控えめに振る舞ってきたロッテルマリア。 尽くしていたにも関わらず、悪役令嬢として婚約者破棄、国外追放の憂き目に合う。 でも、実は転生者であるロッテルマリアはチートな魔法を武器に、ギルドに登録して旅に出掛けた。 新米冒険者として日々奮闘中。 のんびり冒険をしていたいのに、ヒロインは私を逃がしてくれない。 自身の目的のためにロッテルマリアを狙ってくる。 王太子はあげるから、私をほっといて~ (旧)悪役令嬢は年下Sランク冒険者の弟子になるを手直ししました。 26話で完結 後日談も書いてます。

お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない

あーもんど
恋愛
ある日、悪役令嬢に憑依してしまった主人公。 困惑するものの、わりとすんなり状況を受け入れ、『必ず幸せになる!』と決意。 さあ、第二の人生の幕開けよ!────と意気込むものの、人生そう上手くいかず…… ────えっ?悪役令嬢って、家族と不仲だったの? ────ヒロインに『悪役になりきれ』って言われたけど、どうすれば……? などと悩みながらも、真っ向から人と向き合い、自分なりの道を模索していく。 そんな主人公に惹かれたのか、皆だんだん優しくなっていき……? ついには、主人公を溺愛するように! ────これは孤独だった悪役令嬢が家族に、攻略対象者に、ヒロインに愛されまくるお語。 ◆小説家になろう様にて、先行公開中◆

【完結】ど近眼悪役令嬢に転生しました。言っておきますが、眼鏡は顔の一部ですから!

As-me.com
恋愛
 完結しました。 説明しよう。私ことアリアーティア・ローランスは超絶ど近眼の悪役令嬢である……。  気が付いたらファンタジー系ライトノベル≪君の瞳に恋したボク≫の悪役令嬢に転生していたアリアーティア。  原作悪役令嬢には、超絶ど近眼なのにそれを隠して奮闘していたがあらゆることが裏目に出てしまい最後はお約束のように酷い断罪をされる結末が待っていた。  えぇぇぇっ?!それって私の未来なの?!  腹黒最低王子の婚約者になるのも、訳ありヒロインをいじめた罪で死刑になるのも、絶体に嫌だ!  私の視力と明るい未来を守るため、瓶底眼鏡を離さないんだから!  眼鏡は顔の一部です! ※この話は短編≪ど近眼悪役令嬢に転生したので意地でも眼鏡を離さない!≫の連載版です。 基本のストーリーはそのままですが、後半が他サイトに掲載しているのとは少し違うバージョンになりますのでタイトルも変えてあります。 途中まで恋愛タグは迷子です。

婚約破棄を望む伯爵令嬢と逃がしたくない宰相閣下との攻防戦~最短で破棄したいので、悪役令嬢乗っ取ります~

甘寧
恋愛
この世界が前世で読んだ事のある小説『恋の花紡』だと気付いたリリー・エーヴェルト。 その瞬間から婚約破棄を望んでいるが、宰相を務める美麗秀麗な婚約者ルーファス・クライナートはそれを受け入れてくれない。 そんな折、気がついた。 「悪役令嬢になればいいじゃない?」 悪役令嬢になれば断罪は必然だが、幸運な事に原作では処刑されない事になってる。 貴族社会に思い残すことも無いし、断罪後は僻地でのんびり暮らすのもよかろう。 よしっ、悪役令嬢乗っ取ろう。 これで万事解決。 ……て思ってたのに、あれ?何で貴方が断罪されてるの? ※全12話で完結です。

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。

長岡更紗
恋愛
侯爵令嬢だったユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。 仲睦まじく過ごしていたある日、父親の死をきっかけにどん底まで落ちたユリアーナは婚約破棄されてしまう。 愛し合う二人は、離れ離れとなってしまったのだった。 ディートフリートを待ち続けるユリアーナ。 ユリアーナを迎えに行こうと奮闘するディートフリート。 二人に巻き込まれてしまった、男装の王弟。 時に笑い、時に泣き、諦めそうになり、奮闘し…… 全ては、愛する人と幸せになるために。 他サイトと重複投稿しています。 全面改稿して投稿中です。

ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))

あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。 学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。 だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。 窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。 そんなときある夜会で騎士と出会った。 その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。 そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。 表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。 結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。 ※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)  ★おまけ投稿中★ ※小説家になろう様でも掲載しております。

追放された悪役令嬢は貧乏になっても図太く生きますわ!

ワールド
恋愛
貴族の娘として生まれた公爵令嬢クラリッサ。 陰謀の濡れ衣を着せられ、華やかな社交界から追放――そして辿り着いたのは、ボロ小屋と畑だけの辺境村!? 「結構ですわ! 紅茶がなければハーブティーを淹れればいいじゃありませんの!」 貧乏生活でも持ち前の図太さで、村の改革に乗り出すクラリッサ。 貧乏でも優雅に、下剋上でも気高く! そんな彼女の前に現れたのは、前世(王都)で彼女を陥れた元婚約者……ではなく、なぜか彼の弟で村に潜伏していた元騎士で――? 「俺は見てた。貴女の“ざまぁ”は、きっとまだ終わっちゃいない。」 ざまぁとスローライフ、そしてちょっとの恋。 令嬢、辺境で図太く咲き誇ります!

処理中です...