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初顔合わせ? 3
しおりを挟む彼女が敬愛する父アルフォンスは、少し前にケガで職を辞した。
長年、騎士として国王に忠心を捧げていた彼が、その職を失うということは、父は生きがいを失ったも同然。
エミリアはそんな父を心底心配していたが、現在学生という身分の彼女は、普段はここから離れた王都の学園寮に住んでいて、父のそばにずっとはいられない。
──だからこそ、この父の再婚は、もだえるほどに嬉しい。
ずっと独り身だった父に、寄り添ってくれる女性が現れたことは、この上ない僥倖だ。
エミリアにとっては、まさに跳びあがりたいほどに嬉しい出来事だった。
もちろんずっと独占していた父に、新たに愛する人ができたことには、ほんの少し寂しさも感じるが……やはりここは、娘として、ぜひとも新しい夫婦の行く末が幸せなものとなるよう尽くしたかった。
ゆえに、新しい義理の兄の反応は非常に気になるところ。
(……お兄様、わたしのこと、気に入ってくださらなかったのかしら……)
困ったことに、心配でじっと見つめてみても、竜人族の顔を見慣れないエミリアには、それはなかなか難解。彼女には義兄が何を考えているのかがさっぱり分からなかった。
義理の兄は、ただ言葉もなくエミリアをじっと見下ろしている。
厳めしいドラゴン顔に見つめられた彼女は、背筋がゾクゾクした。──怖かったのではない。強そうで、心底、猛烈に、羨ましかった。
エミリアは、貧弱な自分をとても恥じている。
幼い頃の夢は父と同じ騎士。
しかし、生まれつきの体質もあって、どうにも身体が強くならない。
そのため強いものへの憧れが強く、この、圧倒的強者の風格を備えた兄を前にしたエミリアはすっかり魅了されていた。心臓の音を耳元に聞きながら、熱望。
(…………どうしよう……お兄様に気に入ってもらいたすぎる……)
それは、先日婚約者と親友に裏切られて以降、はじめて湧いた、誰かに好かれたいという気持ちだった。
ドキドキしながら、エミリアは改めて義兄の様子をうかがった。
義兄は彼女と対面した瞬間から、ずっとエミリアを見つめたまま無言。
厳めしく固まった表情は、不機嫌なようにしか見えず、エミリアは焦ってしまう。
しかしそういえば、先に対面した継母も、エミリアを最初に見た時少し奇妙な反応だった。
出迎えてくれた瞬間はとても嬉しそうだった顔が、彼女に近づいたとたん(え⁉)と眉間にしわを寄せて。絶句した顔が脳裏によみがえり、エミリアは消沈。
(……やっぱり……わたしなんかが、誰かに好かれるなんておこがましいのかしらね……)
思い出されるのは、つい一週間ほど前に彼女がみまわれた婚約破棄劇。
そこで彼女が否応なしに演じさせられたのは、“運命の恋人たちを苦しめる悪役令嬢”という、最低最悪な役回り。
思い出すと、今でも心にずっしり大岩がのしかかってきたようだった。
同族の婚約者にすらそっぽを向かれてしまった自分が、竜人族という屈強な種族の義兄にすんなり受け入れてもらえることがあるだろうか。
それは、あまりにも無謀な望みのような気がして、エミリアはしょんぼり肩を落とした。
(この体格ですもの……お兄様はものすごくお強いに違いない……猛者は、やっぱり猛者がお好きよね……分かるわ……わたしも、ものすごく強いお方が好きよ……こんな……チビの白蛇みたいなやつ論外ですよね……)
“チビの白蛇”
それは、背も低くて、身体も細く、三白眼で、髪が白い彼女を揶揄した言葉。
つい先日、学園で自分が密かにそう呼ばれているのだと知って、エミリアは相当にショックだった。
エミリアの脳裏には、この屈強な義兄の足元でチョロチョロしている子蛇な自分が思い浮かぶ。
……どうかんがえたって、不釣り合いである。
ただ、それでもどうにか頑張りたい。
他でもない、父の幸せにつながる出会いである。
(お父様の再婚に、娘のわたしが水を差すわけにはいかない……)
男手一つで彼女を育ててくれた父には、なんとしても幸せになってもらいたかった。
そのためには、エミリアは新しい家族たちに、必ず好かれなければならない。
どんなに、相手が圧倒的強者でも。自分が相手にされなさそうな小者でも。
エミリアの目に、キッとファザコン魂が燃え上がる。
(……お父様の久々の新婚ライフの安寧のために……わたし……お兄様に、絶対好かれてみせる!)
自信はないが、父のためならいくらでも前のめりになれる娘。それがエミリア・レヴィンという娘であった。
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