11 / 83
“ハイトラーの悪役令嬢”の、やさぐれ 2
しおりを挟む
一瞬、その親密さに、え? とは、思ったものの。彼の腕の中の女性が泣いているのに気がついて、エミリアは心配が先に立った。
彼女は、その顔をよく知っている。
いそいで駆け寄り、声を掛けようとしたエミリアに……しかしドミニクは『近寄るな!』と拒絶の一声。
泣いているドレス姿の女学生の肩をかばうように引きよせて、エミリアには鋭いまなざしをよこす。
その鋭さに、エミリアはとても驚いた。
『……ドミニク……? ……ミンディ?』
そう、彼の腕のなかにいたのは、エミリアの親友ミンディだった。
どうしたの? なぜミンディは泣いているの? どうしてそんな怖い顔をしているの? という戸惑う細い声には、返事は返ってこなかった。
ドミニクはただ彼女を睨んでいて、ミンディはずっと彼の腕の中でハンカチを顔に押し当てて泣いている。
彼とは十三歳からの付き合いだが、怒鳴られたのなんて、初めてのこと。すくんだ身体はこわばったままで、身も思考もうまく働かなかった。
エミリアはただ呆然と、親友の肩を抱いた彼を凝視する。
そんな彼女に、ドミニクは嫌悪のまなざしで指を突き付けた。
敵意のにじむ指先には、エミリアは目を瞠るほかない。
彼は大きな声で、周りに向かって高らかに宣言する。
『わたし、ドミニク・ツェルナーは、エミリア・レヴィンの悪事を告発する!』
その声に、ダンスホールの中にいた人々の視線が、一斉に彼らに集まった。
しかしエミリアは、とっさにはドミニクの言葉の意味が理解できなかった。
『悪、事……?』
ただ呆然と、なんら心当たりのないその言葉を繰り返す。
すると、ドミニクとミンディはその間に、なぜかダンスホール前方の壇上にあがり、まるで政治家が演説するかのような語り口調で、大きく観衆に訴えかける。
『エミリアの、わたし、ドミニク・ツェルナーに対する、強引で執拗な束縛』
『他の娘と話しているだけで、嫉妬をむき出しにし、その娘を攻撃し、怪我をさせたこともある』
『被害を受けた娘は数知れず』
『それを止めようとした親友ミンディ・ハウンにはつらく当たり、先日などは、ついに彼女にも暴力も振るった』
『そもそも、彼女は商人の娘のミンディをさげすんでいて、いつも物を貢がせて搾取している。もうこれは、見過ごすことはできない!』
ドミニクは『見てくれ!』と怒気はらむ声でまわりに言った。
するとミンディが、顔に添えていた手とハンカチを少しだけ下げる。そこに露わになった赤いあざ。エミリアはその痛々しさに驚いたが、もっと驚いたのは、ドミニクがそれを彼女のせいだと周りに訴えたこと。
ドミニクは壇上からエミリアを指さし、周囲からは、嫌悪のまなざしが彼女に集まった。これにはエミリアは唖然。
そんなことをした覚えは微塵もない。
なぜそんなことを言うのだと反論しようとしたが──その瞬間、彼女は横から誰かに突き飛ばされた。
『⁉』
小柄なエミリアは簡単に床に転がって。
床に肩を打ち付けるようにして倒れたエミリアが、ハッとしてそちらを見ると、傍らには怒った顔の男子生徒が仁王立ちしている。
──ミンディ・ハウンの弟、ヨシュアだった。
何をするのと、抗議しようとすると、今度は壇上から泣きじゃくっていたミンディが弱々しい声でまわりに訴えた。
その頬には、涙の粒がホロホロと落ちていく。
『わたし……ずっとエミリアには『いやしい商人の娘なんか、わたしのような力のある家の娘と一緒にいなければいじめられるわよ』と脅されていて……ずっと金銭や高価な贈り物を強要されつづけていたんです……。従わないと、彼女は怒って付き人にわたしを痛めつけさせるんです……!』
この訴えには、エミリアの戸惑いはさらに加速。しかし聞き捨てならないことが一つあった。その瞬間、ただ動揺していたエミリアの中に反旗が上がる。
『何言ってるの! たとえ命じても、ニコラはそんなことには加担しないわ‼』
ニコラ、とは、病弱すぎる彼女が学園で世話になっている婦人。たった今、ミンディが“付き人”と言ったのは彼女のこと。家族も同然の彼女が貶められるのは、断じて許せなかった。
『わたしの家の者は、そんなこと──』
『黙れ悪党!』
『っ』
反論を続けようとした瞬間、そばに立っていたヨシュアが声を張り上げる。その押さえつけるような怒号には、エミリアは思わず身をすくめた。年頃の男子の腹からの声は重く、華奢な身体の彼女にはきつ過ぎた。
『⁉』
──気がつくと、エミリアはいつの間にか、大勢の男子学生たちに周りを取り囲まれていた……。
彼女は、その顔をよく知っている。
いそいで駆け寄り、声を掛けようとしたエミリアに……しかしドミニクは『近寄るな!』と拒絶の一声。
泣いているドレス姿の女学生の肩をかばうように引きよせて、エミリアには鋭いまなざしをよこす。
その鋭さに、エミリアはとても驚いた。
『……ドミニク……? ……ミンディ?』
そう、彼の腕のなかにいたのは、エミリアの親友ミンディだった。
どうしたの? なぜミンディは泣いているの? どうしてそんな怖い顔をしているの? という戸惑う細い声には、返事は返ってこなかった。
ドミニクはただ彼女を睨んでいて、ミンディはずっと彼の腕の中でハンカチを顔に押し当てて泣いている。
彼とは十三歳からの付き合いだが、怒鳴られたのなんて、初めてのこと。すくんだ身体はこわばったままで、身も思考もうまく働かなかった。
エミリアはただ呆然と、親友の肩を抱いた彼を凝視する。
そんな彼女に、ドミニクは嫌悪のまなざしで指を突き付けた。
敵意のにじむ指先には、エミリアは目を瞠るほかない。
彼は大きな声で、周りに向かって高らかに宣言する。
『わたし、ドミニク・ツェルナーは、エミリア・レヴィンの悪事を告発する!』
その声に、ダンスホールの中にいた人々の視線が、一斉に彼らに集まった。
しかしエミリアは、とっさにはドミニクの言葉の意味が理解できなかった。
『悪、事……?』
ただ呆然と、なんら心当たりのないその言葉を繰り返す。
すると、ドミニクとミンディはその間に、なぜかダンスホール前方の壇上にあがり、まるで政治家が演説するかのような語り口調で、大きく観衆に訴えかける。
『エミリアの、わたし、ドミニク・ツェルナーに対する、強引で執拗な束縛』
『他の娘と話しているだけで、嫉妬をむき出しにし、その娘を攻撃し、怪我をさせたこともある』
『被害を受けた娘は数知れず』
『それを止めようとした親友ミンディ・ハウンにはつらく当たり、先日などは、ついに彼女にも暴力も振るった』
『そもそも、彼女は商人の娘のミンディをさげすんでいて、いつも物を貢がせて搾取している。もうこれは、見過ごすことはできない!』
ドミニクは『見てくれ!』と怒気はらむ声でまわりに言った。
するとミンディが、顔に添えていた手とハンカチを少しだけ下げる。そこに露わになった赤いあざ。エミリアはその痛々しさに驚いたが、もっと驚いたのは、ドミニクがそれを彼女のせいだと周りに訴えたこと。
ドミニクは壇上からエミリアを指さし、周囲からは、嫌悪のまなざしが彼女に集まった。これにはエミリアは唖然。
そんなことをした覚えは微塵もない。
なぜそんなことを言うのだと反論しようとしたが──その瞬間、彼女は横から誰かに突き飛ばされた。
『⁉』
小柄なエミリアは簡単に床に転がって。
床に肩を打ち付けるようにして倒れたエミリアが、ハッとしてそちらを見ると、傍らには怒った顔の男子生徒が仁王立ちしている。
──ミンディ・ハウンの弟、ヨシュアだった。
何をするのと、抗議しようとすると、今度は壇上から泣きじゃくっていたミンディが弱々しい声でまわりに訴えた。
その頬には、涙の粒がホロホロと落ちていく。
『わたし……ずっとエミリアには『いやしい商人の娘なんか、わたしのような力のある家の娘と一緒にいなければいじめられるわよ』と脅されていて……ずっと金銭や高価な贈り物を強要されつづけていたんです……。従わないと、彼女は怒って付き人にわたしを痛めつけさせるんです……!』
この訴えには、エミリアの戸惑いはさらに加速。しかし聞き捨てならないことが一つあった。その瞬間、ただ動揺していたエミリアの中に反旗が上がる。
『何言ってるの! たとえ命じても、ニコラはそんなことには加担しないわ‼』
ニコラ、とは、病弱すぎる彼女が学園で世話になっている婦人。たった今、ミンディが“付き人”と言ったのは彼女のこと。家族も同然の彼女が貶められるのは、断じて許せなかった。
『わたしの家の者は、そんなこと──』
『黙れ悪党!』
『っ』
反論を続けようとした瞬間、そばに立っていたヨシュアが声を張り上げる。その押さえつけるような怒号には、エミリアは思わず身をすくめた。年頃の男子の腹からの声は重く、華奢な身体の彼女にはきつ過ぎた。
『⁉』
──気がつくと、エミリアはいつの間にか、大勢の男子学生たちに周りを取り囲まれていた……。
4
あなたにおすすめの小説
婚約破棄で、おひとり様になれるはずだったのに!?
パリパリかぷちーの
恋愛
主人公ルシアン・ヴァイオレットは、「悪役令嬢」として振る舞う孤独愛好家の公爵令嬢。念願だった第一王子アランとの婚約破棄を言い渡されると、内心では歓喜し、大都会の喧騒から逃れて森の奥の廃墟同然の別荘へと引きこもる。ルシアンの目的は、誰にも邪魔されない至高の静寂ライフを満喫することだった。
しかし、彼女の理想郷にはすでに先客がいた。それは、無口で無愛想だがハイスペックな謎の男、キース。実は彼は、王国の裏社会を統べる『影の英雄』と呼ばれる辺境伯であり、ルシアンの孤高の姿に心奪われた重度の隠れファンだった。
悪役令嬢はSランク冒険者の弟子になりヒロインから逃げ切りたい
鍋
恋愛
王太子の婚約者として、常に控えめに振る舞ってきたロッテルマリア。
尽くしていたにも関わらず、悪役令嬢として婚約者破棄、国外追放の憂き目に合う。
でも、実は転生者であるロッテルマリアはチートな魔法を武器に、ギルドに登録して旅に出掛けた。
新米冒険者として日々奮闘中。
のんびり冒険をしていたいのに、ヒロインは私を逃がしてくれない。
自身の目的のためにロッテルマリアを狙ってくる。
王太子はあげるから、私をほっといて~
(旧)悪役令嬢は年下Sランク冒険者の弟子になるを手直ししました。
26話で完結
後日談も書いてます。
お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
あーもんど
恋愛
ある日、悪役令嬢に憑依してしまった主人公。
困惑するものの、わりとすんなり状況を受け入れ、『必ず幸せになる!』と決意。
さあ、第二の人生の幕開けよ!────と意気込むものの、人生そう上手くいかず……
────えっ?悪役令嬢って、家族と不仲だったの?
────ヒロインに『悪役になりきれ』って言われたけど、どうすれば……?
などと悩みながらも、真っ向から人と向き合い、自分なりの道を模索していく。
そんな主人公に惹かれたのか、皆だんだん優しくなっていき……?
ついには、主人公を溺愛するように!
────これは孤独だった悪役令嬢が家族に、攻略対象者に、ヒロインに愛されまくるお語。
◆小説家になろう様にて、先行公開中◆
【完結】ど近眼悪役令嬢に転生しました。言っておきますが、眼鏡は顔の一部ですから!
As-me.com
恋愛
完結しました。
説明しよう。私ことアリアーティア・ローランスは超絶ど近眼の悪役令嬢である……。
気が付いたらファンタジー系ライトノベル≪君の瞳に恋したボク≫の悪役令嬢に転生していたアリアーティア。
原作悪役令嬢には、超絶ど近眼なのにそれを隠して奮闘していたがあらゆることが裏目に出てしまい最後はお約束のように酷い断罪をされる結末が待っていた。
えぇぇぇっ?!それって私の未来なの?!
腹黒最低王子の婚約者になるのも、訳ありヒロインをいじめた罪で死刑になるのも、絶体に嫌だ!
私の視力と明るい未来を守るため、瓶底眼鏡を離さないんだから!
眼鏡は顔の一部です!
※この話は短編≪ど近眼悪役令嬢に転生したので意地でも眼鏡を離さない!≫の連載版です。
基本のストーリーはそのままですが、後半が他サイトに掲載しているのとは少し違うバージョンになりますのでタイトルも変えてあります。
途中まで恋愛タグは迷子です。
婚約破棄を望む伯爵令嬢と逃がしたくない宰相閣下との攻防戦~最短で破棄したいので、悪役令嬢乗っ取ります~
甘寧
恋愛
この世界が前世で読んだ事のある小説『恋の花紡』だと気付いたリリー・エーヴェルト。
その瞬間から婚約破棄を望んでいるが、宰相を務める美麗秀麗な婚約者ルーファス・クライナートはそれを受け入れてくれない。
そんな折、気がついた。
「悪役令嬢になればいいじゃない?」
悪役令嬢になれば断罪は必然だが、幸運な事に原作では処刑されない事になってる。
貴族社会に思い残すことも無いし、断罪後は僻地でのんびり暮らすのもよかろう。
よしっ、悪役令嬢乗っ取ろう。
これで万事解決。
……て思ってたのに、あれ?何で貴方が断罪されてるの?
※全12話で完結です。
若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
長岡更紗
恋愛
侯爵令嬢だったユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
仲睦まじく過ごしていたある日、父親の死をきっかけにどん底まで落ちたユリアーナは婚約破棄されてしまう。
愛し合う二人は、離れ離れとなってしまったのだった。
ディートフリートを待ち続けるユリアーナ。
ユリアーナを迎えに行こうと奮闘するディートフリート。
二人に巻き込まれてしまった、男装の王弟。
時に笑い、時に泣き、諦めそうになり、奮闘し……
全ては、愛する人と幸せになるために。
他サイトと重複投稿しています。
全面改稿して投稿中です。
ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))
あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。
学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。
だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。
窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。
そんなときある夜会で騎士と出会った。
その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。
そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。
表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。
結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。
※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)
★おまけ投稿中★
※小説家になろう様でも掲載しております。
追放された悪役令嬢は貧乏になっても図太く生きますわ!
ワールド
恋愛
貴族の娘として生まれた公爵令嬢クラリッサ。
陰謀の濡れ衣を着せられ、華やかな社交界から追放――そして辿り着いたのは、ボロ小屋と畑だけの辺境村!?
「結構ですわ! 紅茶がなければハーブティーを淹れればいいじゃありませんの!」
貧乏生活でも持ち前の図太さで、村の改革に乗り出すクラリッサ。
貧乏でも優雅に、下剋上でも気高く!
そんな彼女の前に現れたのは、前世(王都)で彼女を陥れた元婚約者……ではなく、なぜか彼の弟で村に潜伏していた元騎士で――?
「俺は見てた。貴女の“ざまぁ”は、きっとまだ終わっちゃいない。」
ざまぁとスローライフ、そしてちょっとの恋。
令嬢、辺境で図太く咲き誇ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる