34 / 83
エミリアの失態 3 再会への熱望
しおりを挟む(……いいなぁ……それに比べてわたしは……)
吐き気にすら打ち勝てず。自力では医館にすらたどり着けず。父の領地に到着そうそうに、領民たちの前で盛大なる粗相……。
(……なんという失態なの──……)
思い出すたび、自分にはがっかりしてしまう。
もし領民たちが、こんな貧弱な者が領主の一人娘だなんて知ったら、彼らはきっと領地の先行きがとても心配になってしまうに違いない。
それは、領民たちにも、領主である父にも、とても申し訳ない。
(こんな情けない話を手土産に帰省する娘なんて……継母様の前で、お父様に恥をかかせてしまうのでは!?)
つい、頭を抱えて苦悩していると。ふいに、そばでふわりと清々しい香りが香った。
「?」
気がつくと、顔のすぐ近くに竜人族の青年の顔。
「どうされた? まだ気分がお悪いか?」
心配そうな目に覗き込まれ、エミリアはすこしドキリとした。
(はぁ……まぁ……なんて端正なお顔立ち……)
鼻筋がとおり、彫りが深い。瞳は大きく顔立ちがくっきりしている。
それは人族と同じような顔の造りではあるものの、やはりどことなく特別な美しさがあった。
エミリアには竜人族の年齢はよくわからないが、人族の見た目で言うと、二十代後半といったところか。
でも、噂によると竜人族はとても長寿らしい。エミリアには彼の年齢の正確なところはよくわからなかった。
大きな身体にはとても風格があるし、とても強そうに見える。でも、よく見ると瞳はどこか優しげで、精悍な顔の中にも柔和さが垣間見えた。
しかし……その柔和さを打ち消すのが、なんといっても、彼の黒髪の間から突き出た二本のツノ。
らせんを巻きながら直状に伸びた黒いツノは、なんともいえないいかめしさ。
瞳の色も人族ではあまり見られない赤黒で、血の色のようだった。
この迫力では、人族の子供が怯えても仕方がないような気もするが……。
今彼を間近に見るエミリアの目には、それがなんとも神秘的に映った。
彼の瞳からそそがれる視線は、何かを訴えてくるように熱心に見えて。
親切心なのだろうが、あまり接近されると、少し緊張するなとエミリアは落ち着かない。
(これは……この気迫は間違いなく強者。弟子になりたい……ああ、でもきっと駄目ね。竜人族の方々と、わたしとでは素材が違うもの……。この方を師として仰ぐには、わたしはひ弱すぎる……しごかれたらきっと一日と言わず、一瞬もたないわね……)
そうでなければぜひ師事したいのにと、エミリア。
彼女は、毎日ニコラに見つからないよう棒切れを剣に見立てて素振りするのが日課。だが、それが三十回と続いたことはない。悲しいかな、体力がもたないのである。
でもきっと、今彼女の目の前にいる御仁は、百回でも二百回でも、もしかしたら千回でも二千でもそれを振れるに違いない、と、想像すると。エミリアの心の中には彼に対するあこがれと尊敬の念が生まれる。
と、同時に、どうあってもこの屈強さには及ばぬのだと思うと、なんだか気が落ち込んだ。
エミリア、ため息。
「……わたしは……わたしの道を行くしかないわ……」
「? ? ど、どうされた?」
自分を見てなぜか嘆くエミリアに、グンナールが心配そうである。
自分の顔をじっと見つめてくる娘に、一瞬胸の高鳴りを覚えたグンナール。しかしその直後、彼女はなぜか、諦めたようなため息を長々と吐いた。
渋い顔の娘に、グンナールは自分が何かまずいことでもしただろうかと不安になる。
彼としては、ぜひともここで彼女との縁を繋ぐ何かを得ておきたい。いや、彼女が言ったような、弁償だの礼だのはいらないが、このままここで別れるのはあまりに口惜しい。
(何か手だては……いっそ、もう一度お会いしたいと申し入れるべきか? いや、それはいくらなんでも性急すぎて怪しいのか……?)
グンナールは迷った。一期一会という状況で、一目惚れを経験した者が当然陥るだろう不安『もう会えなくなるのではないか?』という問題に、彼もぶち当たっていた。
「エミリア嬢、あの……」
と、そのときであった。
「お嬢様!」
病室に、突然何者かが飛び込んできた。
14
あなたにおすすめの小説
婚約破棄で、おひとり様になれるはずだったのに!?
パリパリかぷちーの
恋愛
主人公ルシアン・ヴァイオレットは、「悪役令嬢」として振る舞う孤独愛好家の公爵令嬢。念願だった第一王子アランとの婚約破棄を言い渡されると、内心では歓喜し、大都会の喧騒から逃れて森の奥の廃墟同然の別荘へと引きこもる。ルシアンの目的は、誰にも邪魔されない至高の静寂ライフを満喫することだった。
しかし、彼女の理想郷にはすでに先客がいた。それは、無口で無愛想だがハイスペックな謎の男、キース。実は彼は、王国の裏社会を統べる『影の英雄』と呼ばれる辺境伯であり、ルシアンの孤高の姿に心奪われた重度の隠れファンだった。
悪役令嬢はSランク冒険者の弟子になりヒロインから逃げ切りたい
鍋
恋愛
王太子の婚約者として、常に控えめに振る舞ってきたロッテルマリア。
尽くしていたにも関わらず、悪役令嬢として婚約者破棄、国外追放の憂き目に合う。
でも、実は転生者であるロッテルマリアはチートな魔法を武器に、ギルドに登録して旅に出掛けた。
新米冒険者として日々奮闘中。
のんびり冒険をしていたいのに、ヒロインは私を逃がしてくれない。
自身の目的のためにロッテルマリアを狙ってくる。
王太子はあげるから、私をほっといて~
(旧)悪役令嬢は年下Sランク冒険者の弟子になるを手直ししました。
26話で完結
後日談も書いてます。
お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
あーもんど
恋愛
ある日、悪役令嬢に憑依してしまった主人公。
困惑するものの、わりとすんなり状況を受け入れ、『必ず幸せになる!』と決意。
さあ、第二の人生の幕開けよ!────と意気込むものの、人生そう上手くいかず……
────えっ?悪役令嬢って、家族と不仲だったの?
────ヒロインに『悪役になりきれ』って言われたけど、どうすれば……?
などと悩みながらも、真っ向から人と向き合い、自分なりの道を模索していく。
そんな主人公に惹かれたのか、皆だんだん優しくなっていき……?
ついには、主人公を溺愛するように!
────これは孤独だった悪役令嬢が家族に、攻略対象者に、ヒロインに愛されまくるお語。
◆小説家になろう様にて、先行公開中◆
【完結】ど近眼悪役令嬢に転生しました。言っておきますが、眼鏡は顔の一部ですから!
As-me.com
恋愛
完結しました。
説明しよう。私ことアリアーティア・ローランスは超絶ど近眼の悪役令嬢である……。
気が付いたらファンタジー系ライトノベル≪君の瞳に恋したボク≫の悪役令嬢に転生していたアリアーティア。
原作悪役令嬢には、超絶ど近眼なのにそれを隠して奮闘していたがあらゆることが裏目に出てしまい最後はお約束のように酷い断罪をされる結末が待っていた。
えぇぇぇっ?!それって私の未来なの?!
腹黒最低王子の婚約者になるのも、訳ありヒロインをいじめた罪で死刑になるのも、絶体に嫌だ!
私の視力と明るい未来を守るため、瓶底眼鏡を離さないんだから!
眼鏡は顔の一部です!
※この話は短編≪ど近眼悪役令嬢に転生したので意地でも眼鏡を離さない!≫の連載版です。
基本のストーリーはそのままですが、後半が他サイトに掲載しているのとは少し違うバージョンになりますのでタイトルも変えてあります。
途中まで恋愛タグは迷子です。
婚約破棄を望む伯爵令嬢と逃がしたくない宰相閣下との攻防戦~最短で破棄したいので、悪役令嬢乗っ取ります~
甘寧
恋愛
この世界が前世で読んだ事のある小説『恋の花紡』だと気付いたリリー・エーヴェルト。
その瞬間から婚約破棄を望んでいるが、宰相を務める美麗秀麗な婚約者ルーファス・クライナートはそれを受け入れてくれない。
そんな折、気がついた。
「悪役令嬢になればいいじゃない?」
悪役令嬢になれば断罪は必然だが、幸運な事に原作では処刑されない事になってる。
貴族社会に思い残すことも無いし、断罪後は僻地でのんびり暮らすのもよかろう。
よしっ、悪役令嬢乗っ取ろう。
これで万事解決。
……て思ってたのに、あれ?何で貴方が断罪されてるの?
※全12話で完結です。
若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
長岡更紗
恋愛
侯爵令嬢だったユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
仲睦まじく過ごしていたある日、父親の死をきっかけにどん底まで落ちたユリアーナは婚約破棄されてしまう。
愛し合う二人は、離れ離れとなってしまったのだった。
ディートフリートを待ち続けるユリアーナ。
ユリアーナを迎えに行こうと奮闘するディートフリート。
二人に巻き込まれてしまった、男装の王弟。
時に笑い、時に泣き、諦めそうになり、奮闘し……
全ては、愛する人と幸せになるために。
他サイトと重複投稿しています。
全面改稿して投稿中です。
ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))
あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。
学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。
だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。
窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。
そんなときある夜会で騎士と出会った。
その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。
そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。
表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。
結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。
※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)
★おまけ投稿中★
※小説家になろう様でも掲載しております。
追放された悪役令嬢は貧乏になっても図太く生きますわ!
ワールド
恋愛
貴族の娘として生まれた公爵令嬢クラリッサ。
陰謀の濡れ衣を着せられ、華やかな社交界から追放――そして辿り着いたのは、ボロ小屋と畑だけの辺境村!?
「結構ですわ! 紅茶がなければハーブティーを淹れればいいじゃありませんの!」
貧乏生活でも持ち前の図太さで、村の改革に乗り出すクラリッサ。
貧乏でも優雅に、下剋上でも気高く!
そんな彼女の前に現れたのは、前世(王都)で彼女を陥れた元婚約者……ではなく、なぜか彼の弟で村に潜伏していた元騎士で――?
「俺は見てた。貴女の“ざまぁ”は、きっとまだ終わっちゃいない。」
ざまぁとスローライフ、そしてちょっとの恋。
令嬢、辺境で図太く咲き誇ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる