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エミリアの熱望
しおりを挟む昼食のあと、自室に戻ったエミリアは、その想いを持て余していた。
「……、……どうしようニコラ……お兄様に……好かれた過ぎる………………」
エミリアは、天井をみつめながら、義理の兄グンナールに想いを馳せる。
「竜人族の方々って……信じられないくらいお優しいわ……まるで天使様みたい……」
「はあ……まあ……それはわかりましたけど。それより先に、胃薬のんでくれません?」
エミリアがメルヘンなことをつぶやきながら、呆然と大の字で転がっている寝台のよこでは、ニコラがため息交じりに薬と水のはいったコップを差し出している。
エミリアは、あのあとの昼食会で、グネル手製の料理を案の定食べ過ぎた。
それで結局こうして胸やけにやられ、寝台に転がっているというわけなのだが……それは別に、グネルの料理のせいではない。
彼女は前もって夫に聞いて、エミリアが食べられる料理を用意してくれた。
薄味で、脂身や油分も控えめなランチはとても美味しかった。
ようは……エミリアが、張り切りすぎて、食べ過ぎたのである。
「っだって‼ 食べたかったんだもの! 食べたかったんだもの!」
叱るようなまなざしのニコラに、エミリアは力一杯ぴぃっと嘆く。
永らく学園寮の、若者向け脂っこいスタミナ料理にうんざりしていたエミリアは、自分のことを思って作られた料理に泣くほど感激してしまった。
ゆえにエミリアは青ざめていても後悔はないという表情。満足げにゲッソリする顔は、青ざめていて、なんだか不気味である……。
「いいの! 本望なの! ……それよりニコラ……お兄……いえ、グンナール様に、わたしが好かれるには、どうしたらいいの……?」
訊ねながらエミリアは、胃を片手で押さえたまま寝台の上に起き上る。
無理するなと言いたいニコラではあるが、三白眼の上目遣いがあまりにも真剣で。ヒヨコ顔の婦人はため息。
しかし、学園ではすっかりやさぐれていた娘が、こうして意欲的なことは、とてもいい傾向かなとも思った。
なんであれ、新しい意欲は、過去の悲しみを薄れさせてくれるだろう。
ニコラはそうですねぇ……と、腕を組んで考える。ただ困ったことに……。
「わたし、姉妹しかいないんですよ。男兄弟というものは……ちょっと未知の領域ですね……」
「ああそうだったわね……。わたしもきょうだいがいたことがないからよくわからないのよね……」
エミリアは少し途方に暮れた。
わからないがゆえに、正面切って『好きになってくれ!』と頼んだわけだが……。
そう自分が言った時のグンナールの反応を思い出し、エミリアは悲しげ。
「グンナール様……あのときすごく複雑そうなお顔をなさっていたわね? あれはやっぱり……嫌ってこと……?」
エミリアはしゅんと肩を落とす。
「うーん……そう決めつけるのは早いと思いますけど……」
「だって、お兄様と呼ぶなって言われてしまったのよ? もしかして、人族お嫌いなのかしら。まあ、私も嫌いだけど」
そこでドミニクらの顔を思い出してしまったらしいエミリアは、一瞬嫌そうな表情を浮かべた。
しかし、それはすぐに消える。
とにかく、今のエミリアには、ここで継母と義理の兄グンナールに好印象を残しておくことが急務。
休みをもらったとはいえ、学園もそういつまでも休んではいられない。
おまけに、昨夜の“恩人”も探し出し、洋服の弁償もしなければならないから、なんだか思いがけず忙しいのである。
「お父様のお式もあるのに困ったわ……昨日のお方は鳥類の皆さんに力を借りるとして……。好かれたいわ……グンナール様にとにかく好かれたい……!」
拳を握って力一杯熱望する令嬢に、ニコラは少し呆れながらも「どうしましょうねぇ」と、こちらも困り顔。まあ、彼女としても、可愛い令嬢が義理の兄と仲良くしてくれるのはいいことだと思う。
なんといっても、竜人族は屈強な種族。心強い味方を得れば令嬢にとっては心の支えになるだろうし、その支えがあれば、彼女はドミニクらの裏切りの痛手を忘れてくれるかもしれない。ニコラとしても、どうにかしてその願いを叶えてやりたかった。
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