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グンナールとニワトリ 4 動悸
しおりを挟むその光景に、エミリアはしばしポカンとしていた。
あまりにも軽々と飛んでいったテーブル。あんな重たそうなものが、重力に反して天井に接触することがあるだなんて思ってもみなかった。だって継母は尾をたったひと振りしただけ。
ちょっと、目を疑う光景。凄すぎて、あっけにとられる力であった。
(あ……ニンジン……)
気がつくと、エミリアが皿の端によけておいたニンジンが空を舞っている。……苦手なのである。
でも、せっかく継母が用意してくれたニンジンなのだから、最後に覚悟を持って挑もうと思っていた。
ついつい高く飛んでいったオレンジ色の物体を目で追って、
(……、……落下地点に先回り出来たら、食べられるのかしら……)
……なぁんてことをぼんやり考えていた。と、そんなとき、ふいに横から誰かに腕をひっぱられた。
あれと思ったが、しかしその誰かを見るよりも先に、目の前でグネルの頭にテーブルが落ちてきた。
その光景にギョッとして、思わず悲鳴がでそうになる、が──。
けれども、グネルを心配する間もなく、テーブルは彼女の頭に触れた瞬間真っ赤な炎に包まれた。
そのまま一気に消し炭となってしまったテーブルに、エミリアはあんまりにもびっくりして。
さらにグネルは、そんな衝撃的なことが頭上であったにもかかわらず平然としている。その頑丈さが信じられなかった。
彼女が父に謝りながらエミリアに背を向けた一瞬、その後頭部が見えたが、豊かなたてがみのある頭には傷一つなかった。
これにはエミリアは呆然。
かたわらから呼ばれて顔を上げた時も、継母のことで頭がいっぱいで。
義兄がこわばった顔で自分を見ていることにも、ぜんぜん気がつかなかった。
『エ、エミリ……?』
『す、すごすぎる……すごすぎます! 見ましたかグンナール様!? テ……テーブルが……テーブルが天井にぶつかりましたよ!』
興奮気味の言葉にグンナールが目を丸くする。
しかし、継母の強さに夢中のエミリアは、あまり彼の顔を注意深く見てはいなかった。
もしここで、グンナールが人態だったのなら。
赤面した顔色が彼女に彼の異変を伝えたかもしれないが……このときのグンナールの黒いドラゴン顔は、その異変をエミリアには伝えなかった。
エミリアは顔を真っ赤にして天井を指さしている。
『あ、あんな重い物が! 天井に! お母様にぶつかったのに、一瞬で消し炭に!』
『エ、エミリア、怪我は……』
『ありがとう存じます! ございません! な、なんという尾……尾力? で、しょうか! お強すぎる……お、お母様……す、すごい……!』
エミリアは、グンナールの腕の中からグネルに熱視線。その瞳は尊敬の念がきらめいていた。
グンナールに抱きかかえられていることには気がついていないのか……もしくは気にしていないのか……。
これにはグンナールはなんだか複雑。
とはいえ、ひとまずこの思いがけない接触には、彼の心臓が持ちそうになかった。
『…………そうか』
グンナールはとりあえず固い口調でそう言って、無言でそっとエミリアを膝から降ろし、彼女から離れる。
と、義兄の膝から降りたエミリアは、すぐさまグネルの元へ駆け寄っていった。
笑顔でグネルを称賛する娘の背後で、グンナールはいまだおさまらぬ動機に悩まされている。
* * *
「はあ……難儀だ……もういっそ、領地に連れて帰ってしまいたい……」
「コケ?」
邸の裏手の林の中で、グンナールはニワトリ相手に深々ぼやく。
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