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エミリアの嫉妬 1
しおりを挟む「あの……それでお嬢様、お腹は大丈夫ですか……?」
「っ絶対ドミニクに贈ったものよりも、もっとずっといいものを見つけてお兄様の喜んだ顔をこのまぶたに焼き付けてや──え……? お腹……?」
憤慨していたエミリアは、訊ねられて己の胃のあたりに手をやる。
「あら? うん? もうそんなに苦しくない……? ……わ?」
気がついて、エミリアは、あれ? と、みぞおちをさする。
なんだかいつの間にか身体がとても軽かった。
いつもなら、食べ過ぎると次の日までは胃が重かったものだが。下手をすると、数日は胃の不快感に悩まされる。
「……でもそれもやむなしと思っていたんだけれど……? 胃薬、すごく効いたみたい……」
その胃薬は、いつもエミリアの症状が強すぎてあまり効能を感じられない。しかし、今日は。床で団子になっている間に、かなり胸やけも胃も、すっきりしている。
「え……あんなに食べたのに? ドミニクの顔を思い出して怒ったから消費されたのかしら……? それともお薬を変えた?」
「(泣いたの間違いでは……?)いえ……いつもと同じ胃薬ですが……」
「そうなの?」
エミリアは不思議そうに首をかしげていたが。まあ、いいわと、嬉しそうにはにかむ。
胃のあたりを撫でていた手は、その上で揺れていたペンダントをつかまえて。
「これなら思う存分グンナール様への贈り物と、昨日のお方へのお詫びの品を探せるわ」
「え? 大丈夫なんですか……?」
彼女の急回復にニコラはまだ不安そうだったが、エミリアはいそいそと出かける支度をはじめる。
が、その顔が、ふと真剣な表情に。
「……ねえニコラ……グンナール様を……お買い物に誘ってはだめかしら?」
「? 兄上様を、で、ございますか?」
「うん。だって、仲良くなりたいし、お好きな物を選んでもらった方が喜んでいただけるかもしれない……それに、グンナール様はクロクストゥルムにはまだ不慣れでいらっしゃるから、ご案内したいの。……ご迷惑だと思う……?」
エミリアは、「竜人族の方のお好みがよくわからないし」と、照れ照れ指をいじっている。
その瞳には、どうしてもグンナールと仲良くしたいという想いが輝いていた。
しかし、その問いかけに、ニコラはやや口ごもる。
「うーん、そんなことはないとは思うんですけど……」
「?」
ニコラが少々難色を示したのにはわけがあった。
エミリアは体調不良もあって知らないが……先ほどの騒動のあと、グンナールは邸内で危険な真似をしたグネルに猛抗議。
建物も、調度品も、なんでも竜人族にあわせて頑丈にできている国元とは違い、ここではもっと自嘲しなければならないと、彼は大いに母を叱っていた。
正直なところ、使用人一同はそれが非常にありがたかった。
新しい奥方は竜人族。しかも火の性質とあって、皆、迂闊なことは言えない、できないと、恐々としている。怖くて誰も文句など言えないというわけである。
そりゃあそうだ。あんな、継子への熱愛で大きなダイニングテーブルを天井まで吹っ飛ばすような奥方は、取扱注意にもほどがある。
しかし、そこへきて息子たるグンナールが、きっぱり『皆のそばで危険なことをするな』と彼女を叱ってくれた。
おまけに彼は、食堂の事後処理の指示、壊れたもののリストアップ、新しいテーブルの手配(新領主の願いを聞き入れて、頑丈で丈夫なやつ)などを、一手に引き受けてくれた。
おまけにすべての費用を『母のせいですから』と、負担してくれるという。
これには男爵邸内でのグンナールの株は急上昇。
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彼女ははじめ、彼のことは『あまり愛想のない青年だな』と、いう印象をもったが。
ことに淡々と対処する姿は、とても頼もしかった。
長年エミリアを守ってきた彼女としては、令嬢にいい義理の兄ができて、本当に良かったと胸をなでおろすばかりである。
──ただ。
そのような経緯もあって、ニコラは、今青年がとても疲れているのではないかと心配した。
叱られたグネルは『だって……』『バルドハートきゅんがすごく可愛かったから……』と、かなり不服そうにごねていた。
そんな母子の様子を思い出したニコラは、案じる。
「……お兄様は……今とてもお疲れかもしれません……。パールにもストーキングされていましたし……」
「……、……え?」
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