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その出会い 5 エミリアの悲憤
しおりを挟むなんだかよく分からないが、ずいぶん反応が大げさな人だなぁと顔をしかめつつ、エミリアは考えた。
(この方は……なぜそんなにドミニクのことを詰問なさるの……?)
この男の目的はパールではなかったのだろうか。
でもそういえば、彼は今、ドミニクを捨てたと言ったエミリアに、『あやつ』と言った。それはなんだか、ドミニクを知っているような口ぶりに聞こえる。
(え……まさか……この方……ドミニクの知り合い……!?)
エミリアはギョッとして思わず男を凝視。
「まさか……あなたはあのろくでなしのお知合いですか⁉」
「!? 貴様……ろくでなしろくでなしと繰り返すな! そのように罵っておきながら、なぜあやつにそれを返さぬ!?」
「う……!」
胸に抱いたパールを指さして責められたエミリアは怯む。
もちろん、ゲレオンが示したのは、その羽毛の向こうのペンダント。
しかし、それが分からないエミリアは思い切り動揺。
関係を切ったはずの男からの贈り物を、いつまでも手元に置くのはおかしいと責められて、同じく二コラにも愛鳥を手放した方がいいのではとさんざん言われたことを思い出した。
すると、エミリアはなんだかとても悲しくなってきて、ミントグリーンの瞳からほろりと一粒涙を落とす。
「だ、だって……大事なんですもの! 大事なんですもの‼」
「!?」
突然ニワトリを抱きしめ泣き出したエミリアに、ローブの男はギョッとしたようだったが。彼女はかまわず悲壮な思いを吐露。
それは、彼女がずっと抱えていた思いだった。
「あんな奴に渡したら、この子がどうなるか分からないではありませんか! 面倒を見ず、野に放たれるだけならまだしも……」
「の……野に放つ……? (ウロコを……???)」
「も、も、もし……もし食べられたりしたら!? どうしたらいいんですか!?」
「た……食べる!? (ウロコを!?)」
男の困惑には気がつかず、エミリアは不安の渦中。ポロポロと涙があふれてくる。
だってドミニクには、ミンディがついている。
あの日以降の彼女の陰湿さを考えると、エミリアはとても不安なのである。
エミリアが可愛がるパールがドミニクに渡ったとき、ミンディがパールを大事にしろと言うわけがない。
父の結婚式のために学園を離れた今回。やめろと言われてもパールを連れて戻ったのは、不在中に彼女たちに何かされないようにでもあった。
ゆえにエミリアは覚悟している。
明日、学園に帰る時は、父にパールを預けていく。
学園に連れて戻っては、安心できないのだ。
愛鳥に何かあってからでは遅い。
ミンディたちに何かされるのではと不安に思い続けるより、こののどかな男爵領で、パールには平和に過ごしてもらいたい。
その、別れのつらさも怒りに乗せて思い出してしまったエミリアは、あごをあげて「あー!」と、まるで幼子のような顔で泣く。
「お、おい……」
「そんなことになったら……そんなことをされたら……」
パールを抱きしめながら、エミリアは身が震える。胸の中にあった恐れと怒りと悲しさがどんどん膨らんで、身がはちきれそうだった。
「っパールに手を出したら! みんなまとめて一生鳥が食べられない身体にしてやるっっっ!」
エミリアは涙を散らしながら、力いっぱいの怒号で宣言。
と、その瞬間のことだった。
「!」
彼女の悲憤に唖然としていたゲレオンは。その刹那、周囲の空気が変わったのに気がついて目を瞠る。
娘が抱いたニワトリの尻が輝いている。
……いや、羽毛の向こうでペンダントの中身が光っているのである。
途端、彼らの周りには暴風が。
「ぬ」
エミリアの身から急激に流れ出したものが、まわりの空気を巻き込み鋭い流れを生んでいた。
それはゲレオンにとっては小竜が癇癪を起した程度の風にしか感じられなかったが、まわりはそうもいかぬよう。彼らのまわりにあった木々は、その魔力圧に煽られて、枝を痛そうに揺らし、葉を散らす。
ゲレオンは眉間に厭わしそうにしわを寄せ、パールの尻の下の輝きを睨む。
「……溜めこんでいた魔力を放っているのか!? おいやめぬか! その間癪を止めろ! 山がはげる!」
「パールを食べようとしたら、ゆ、ゆ、許さないぃぃっっっ!」
しかし泣きながら怒っているエミリアには、己が何をしているかの自覚もない様子。
ゲレオンの命令はその耳に届かず、彼女はとにかく愛鳥を守ろうとするようにパールを固く抱きしめている。
おそらくそれは、彼のことを、変なニワトリ強盗と勘違いしていることも余計に悪かったようである……。
絶対に渡さない! と、しゃがみこんで令嬢団子化したエミリアに、ゲレオンは──困り果てた。
「!? 聞け!? ま、まったく……! 子供はこれだから……!」
舌打ちした彼は、暴風の中にいる彼女の背に手を伸ばし、その風を止めさせようとした──が。
「……何を、やっておいでですか……?」
……それはまるで、耳から毒を流し込んでくるような地獄の響き。
エミリアを止めようとしたゲレオンは、その低い低い声にギクリと動きを止めた。
「!?」
うしろを振り返ると、その顔についてしまいそうなほどの間近から、誰かの瞳が彼を見据えていた。
血のような色の、怒りに燃えた、鋭い瞳。
その射すくめるような眼光に、ゲレオンは思わず身を凍らせた。
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