婚約破棄された悪役令嬢は、親の再婚でできた竜人族の義理の兄にいつの間にか求婚されていたみたいです⁉

あきのみどり

文字の大きさ
74 / 83

“恩人様”の捜索 2

しおりを挟む

 

 エミリアは夢を見てうなされていた。

 あの恩人様が立っている。
 立派な黒いツノとしっかりした体格に麗しい顔。エミリアは、やっと見つけたと嬉しくなって。しかしその喜びは一瞬にして驚きに転じる。

 恩人様が泣いていた。

 ──困った困った……。
 ──見知らぬ人族の娘を助けたばっかりに、わたしのいっちょうらが○○まみれ。
 ──どうしよう、もう着る服がない……。
 ──どうしたら……、……、…………。

 そのしくしくと涙する青年に、エミリアは、慄いた。

「っもうっ、申し訳ありません‼ お、お洋服はもう用意しておるのです! 今すぐお届けに参ります!」
「!?」

 ……エミリアは、そう力いっぱい叫びながら目を覚ました。
 継子のいきなりの覚醒に、寝台脇にいたグネルがビクッと身を震わせる。と、同時にエミリアは寝ぼけ眼のまま寝台を転がり落ちる。
 まず、べちっと床に落ち、よろよろと立ち上がったはいいものの、そこにあったテーブルに腰をしたたかぶつけてしまい、一回転。目を回しながらも扉を目指そうとする娘、に、グネルは相当ビックリした。

「バルドハートきゅん!?」

 息子にまた『やめろ』と言われそうな呼び方で継子を呼び、慌ててフラフラしているエミリアを支えに走る。
 と、まだ半覚醒もしていなさそうなミントグリーンの瞳が彼女を見る、が……。

「あ……に、に、ニコら……このあいだ買った──恩人様の、恩人様のお洋服は……!?」

 どうやらエミリアは、駆け寄ったグネルをヒヨコ顔の婦人と間違えているらしい。眠そうな目で問われたグネルは困惑。と、エミリアは、今度はフラフラしたまま部屋の中を捜索開始。その表情は、寝ぼけていつつもかなり慌てているようで。オロオロと探し物をする継子をグネルが止める。

「バ、バルドハート、落ち着いて……」
「お、恩人様が……お洋服がなくてこまっておいでなの……お着替えがないとはだかんぼうに……に、にこら……、あれはどこにしまったんだった? タンス……?」
「バルドハート!? そこは寝台の下よ!? そこには多分ないと思うわ!?」
「え……? あ……ら?」

 止められて、ぼんやり振り返ったエミリアは、ここではじめて隣から顔をのぞきこんでくるドラゴン顔に気がつき、数秒沈黙。
 そのウロコに覆われた顔は、ニコラのぽっちゃりフワモコの黄色い顔とは似ても似つかない。

「え……ぐ、ねる、お、かあ、さま……?」

 グネルに気がついたエミリアは、しばし口を開けて彼女を見つめていた。徐々に再起動しつつあるらしい継子の顔にグネルはホッとした様子。が……。
 しかしグネルを見てやっと夢の世界から抜け出したエミリアは、あらんかぎりに目を見開く。正常に再起動した結果、思い出した。

「っ祝宴っっっ!?」
「あ、あら……」
「グネルお母様! しゅ、祝宴は……祝宴は!? いいい今は何時ですか⁉」

 本日は父と新しい継母との再婚式。彼女は父とグネルの祝宴に向かう途中だった。そこで客らをもてなすはずだったエミリアは、すでに部屋の中の灯が灯されているのを見て愕然とする。
 どうやら外はもう暗い。
 事態を察したエミリアの顔色が、みるみる悪くなっていった。
 血の気の引いた顔にグネルは慌てたが、その瞬間エミリアの身体が床に沈む。同時に床からはゴッと痛そうな音。
 エミリアが、床板に膝をしたたか打ち付けていた。

「!? バルドハート!?」
「……わ……わたしは……なんということを………………」

 青くなった顔は傾き、視線は呆然と空を見ている。そこに浮かぶ絶望感に、グネルは大慌てである。




「いいの、いいのよバルドハート、宴なんかいつでも開けるし、あんなものよりあなたのほうがよっぽど大切なんだから!」

 失意のエミリアに、グネルは力一杯そう言ってくれた。
 しかし、グネルが優しければ優しいだけ、気に病むのがエミリアという娘だった。

(グネルお母様……優しい……申し訳、ない…………)

 自分が倒れたせいで両親が宴を楽しめなかったのは明らかだった。
 それなのに、自分はのうのうと夜まで眠っていたとは……。それを考えると、血の気が引くほど情けない。
 その祝宴を、誰よりも楽しみにしていたこともあって。エミリアは、もはや自分を罵るにふさわしい言葉すら思い浮かばぬほど己にがっかりした。
 ただし、祝宴をつぶされたのは父とグネル。戦犯(?)である自分が、自分を責めることもなく心配してくれる彼らに、失意の顔を見せるわけにはいかなかった。
 ここで自分がメソメソしていては、両親たちが気に病むのは目に見えている。
 ゆえにエミリアは、案じてくれる両親たちに『大丈夫です』と笑みをつくった。涙は流さず、頬を持ち上げて、できるだけ身体の回復をアピールし、穏やかに両親たちの気遣いに感謝を伝える。
 貧弱歴の長いエミリアは、健康体を偽装することには慣れていた。
 多少化粧を施し、頑張って胸を張る。力が入らなければ、背中にものさしでも入れて布で固定する。が……今回は幸い問題は精神面。身体のほうはある程度回復していて力は入った。
 ただ、それでもやはり悔やむ気持ちが強くて難儀。
 大きなたらいに水を一杯に入れてよたよたと運んでいるみたいな気分だった。
 もし何かでつまずきでもしたら、一気に水が溢れて泣き出してしまう。そんな危うい気分。

(しっかりしなきゃ……)

 エミリアは、テーブルの上に置いたカゴのなかでスヤスヤ眠っているパールの羽毛を撫でながら窓の外を眺めた。
 もう外はすっかり暗い。
 しかし、例のニワトリ強盗と出会ったあとからずっと眠っていたエミリアは、ちっとも眠れない。心配してくれていた父やグネル、ニコラが部屋から引き揚げていくと、もう元気な振りをするのにも疲れてしまって。エミリアは、イスに座り、魂が抜けたような顔で、ずっと外を眺めていた。

「……情けない。あまりに情けない……」

 立派な娘として認められたいのに、いったいいつまでこの貧弱さで周りに迷惑をかけ続けるのだろうか。
 いや、騎士になろうと決意したとて、そんなにすぐに強く丈夫になれることなどないと分かっている。ただ……それでもやはり、今回の失態には落胆が強い。
 せっかくの、両親たちの晴れの舞台だった。
 愛し合う二人を祝う、最初の宴。ドレス姿のグネルもとても美しかったし、正装した父もとてもステキだった。義兄グンナールもその宴のためにとても尽力していたというのに。
 エミリアは、思わずため息。

「……先は長いなぁ……」

 立派な娘になりたい。
 でも、自分が挑もうとしているものが、とてつもなく遠いもののように感じられた。
 果てしない道の先が少しも見えない気がして、気持ちが落ち込む。
 自分が継兄のように誰かを守れ、父の誇りとなれるようになるのはいったいいつのことになるか……。

「あ……だめだわ。いっそう落ち込んできた……そんな場合じゃないのに……」

 学園に戻るのは一日延期になってしまったが、なんとしても明日中に恩人の青年を見つけなければならない。むろん、今回迷惑をかけてしまった両親にも償いの孝行も必要。
 ともかく大切なことに集中せねばと、エミリアは自分への失意を振り払うように強く首を振り、続けて両頬も気合一発、平手打ち。暗い部屋には何度も痛そうな音がべちべちと響き──。と、そのときだった。
 どこからかコツ、コツ……と小さな音が。

「気合だ! 弱気を滅せよ! 気合──! ……あら?」

 しゃにむに自分の頬を叩いていたエミリアは、はたと手を止めて怪訝な顔。小さく響く音に気がつき、耳を澄ませる。
 するとその音は、どうやら窓の外から聞こえるようで。エミリアは不思議そうな顔で窓のそばへ歩いて行った。……と……。

「……あら!?」

 窓の外を覗いた瞬間、エミリアが驚きの声を上げた。
 二階にあるエミリアの部屋の下に、誰かが灯りを手に立っている。
 小さな光に照らされているのは、こちらを見上げる白い顔。その頭には、闇夜に紛れてしまいそうな黒く立派なツノが確かにあった。
 驚いて息を呑んだ瞬間、闇の中の赤い瞳と目が合った。
 その顔は、さきほど彼女が見ていた夢の中の青年で間違いがない。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

婚約破棄で、おひとり様になれるはずだったのに!?

パリパリかぷちーの
恋愛
主人公ルシアン・ヴァイオレットは、「悪役令嬢」として振る舞う孤独愛好家の公爵令嬢。念願だった第一王子アランとの婚約破棄を言い渡されると、内心では歓喜し、大都会の喧騒から逃れて森の奥の廃墟同然の別荘へと引きこもる。ルシアンの目的は、誰にも邪魔されない至高の静寂ライフを満喫することだった。 しかし、彼女の理想郷にはすでに先客がいた。それは、無口で無愛想だがハイスペックな謎の男、キース。実は彼は、王国の裏社会を統べる『影の英雄』と呼ばれる辺境伯であり、ルシアンの孤高の姿に心奪われた重度の隠れファンだった。

悪役令嬢はSランク冒険者の弟子になりヒロインから逃げ切りたい

恋愛
王太子の婚約者として、常に控えめに振る舞ってきたロッテルマリア。 尽くしていたにも関わらず、悪役令嬢として婚約者破棄、国外追放の憂き目に合う。 でも、実は転生者であるロッテルマリアはチートな魔法を武器に、ギルドに登録して旅に出掛けた。 新米冒険者として日々奮闘中。 のんびり冒険をしていたいのに、ヒロインは私を逃がしてくれない。 自身の目的のためにロッテルマリアを狙ってくる。 王太子はあげるから、私をほっといて~ (旧)悪役令嬢は年下Sランク冒険者の弟子になるを手直ししました。 26話で完結 後日談も書いてます。

お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない

あーもんど
恋愛
ある日、悪役令嬢に憑依してしまった主人公。 困惑するものの、わりとすんなり状況を受け入れ、『必ず幸せになる!』と決意。 さあ、第二の人生の幕開けよ!────と意気込むものの、人生そう上手くいかず…… ────えっ?悪役令嬢って、家族と不仲だったの? ────ヒロインに『悪役になりきれ』って言われたけど、どうすれば……? などと悩みながらも、真っ向から人と向き合い、自分なりの道を模索していく。 そんな主人公に惹かれたのか、皆だんだん優しくなっていき……? ついには、主人公を溺愛するように! ────これは孤独だった悪役令嬢が家族に、攻略対象者に、ヒロインに愛されまくるお語。 ◆小説家になろう様にて、先行公開中◆

【完結】ど近眼悪役令嬢に転生しました。言っておきますが、眼鏡は顔の一部ですから!

As-me.com
恋愛
 完結しました。 説明しよう。私ことアリアーティア・ローランスは超絶ど近眼の悪役令嬢である……。  気が付いたらファンタジー系ライトノベル≪君の瞳に恋したボク≫の悪役令嬢に転生していたアリアーティア。  原作悪役令嬢には、超絶ど近眼なのにそれを隠して奮闘していたがあらゆることが裏目に出てしまい最後はお約束のように酷い断罪をされる結末が待っていた。  えぇぇぇっ?!それって私の未来なの?!  腹黒最低王子の婚約者になるのも、訳ありヒロインをいじめた罪で死刑になるのも、絶体に嫌だ!  私の視力と明るい未来を守るため、瓶底眼鏡を離さないんだから!  眼鏡は顔の一部です! ※この話は短編≪ど近眼悪役令嬢に転生したので意地でも眼鏡を離さない!≫の連載版です。 基本のストーリーはそのままですが、後半が他サイトに掲載しているのとは少し違うバージョンになりますのでタイトルも変えてあります。 途中まで恋愛タグは迷子です。

婚約破棄を望む伯爵令嬢と逃がしたくない宰相閣下との攻防戦~最短で破棄したいので、悪役令嬢乗っ取ります~

甘寧
恋愛
この世界が前世で読んだ事のある小説『恋の花紡』だと気付いたリリー・エーヴェルト。 その瞬間から婚約破棄を望んでいるが、宰相を務める美麗秀麗な婚約者ルーファス・クライナートはそれを受け入れてくれない。 そんな折、気がついた。 「悪役令嬢になればいいじゃない?」 悪役令嬢になれば断罪は必然だが、幸運な事に原作では処刑されない事になってる。 貴族社会に思い残すことも無いし、断罪後は僻地でのんびり暮らすのもよかろう。 よしっ、悪役令嬢乗っ取ろう。 これで万事解決。 ……て思ってたのに、あれ?何で貴方が断罪されてるの? ※全12話で完結です。

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。

長岡更紗
恋愛
侯爵令嬢だったユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。 仲睦まじく過ごしていたある日、父親の死をきっかけにどん底まで落ちたユリアーナは婚約破棄されてしまう。 愛し合う二人は、離れ離れとなってしまったのだった。 ディートフリートを待ち続けるユリアーナ。 ユリアーナを迎えに行こうと奮闘するディートフリート。 二人に巻き込まれてしまった、男装の王弟。 時に笑い、時に泣き、諦めそうになり、奮闘し…… 全ては、愛する人と幸せになるために。 他サイトと重複投稿しています。 全面改稿して投稿中です。

ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))

あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。 学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。 だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。 窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。 そんなときある夜会で騎士と出会った。 その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。 そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。 表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。 結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。 ※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)  ★おまけ投稿中★ ※小説家になろう様でも掲載しております。

追放された悪役令嬢は貧乏になっても図太く生きますわ!

ワールド
恋愛
貴族の娘として生まれた公爵令嬢クラリッサ。 陰謀の濡れ衣を着せられ、華やかな社交界から追放――そして辿り着いたのは、ボロ小屋と畑だけの辺境村!? 「結構ですわ! 紅茶がなければハーブティーを淹れればいいじゃありませんの!」 貧乏生活でも持ち前の図太さで、村の改革に乗り出すクラリッサ。 貧乏でも優雅に、下剋上でも気高く! そんな彼女の前に現れたのは、前世(王都)で彼女を陥れた元婚約者……ではなく、なぜか彼の弟で村に潜伏していた元騎士で――? 「俺は見てた。貴女の“ざまぁ”は、きっとまだ終わっちゃいない。」 ざまぁとスローライフ、そしてちょっとの恋。 令嬢、辺境で図太く咲き誇ります!

処理中です...