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191 横暴の犠牲者
しおりを挟む「あ! 閣下!」
フリードが入室した部屋の前で待機していたヴィムは、ずっと不安げな顔で扉を見ていたが。
そこから王太子らとの面会を終えた大男がのっそり出てくると、青年はすぐさま彼に駆けよった。
「ど、どうでしたか⁉ ステラさんは大丈夫でしたか⁉」
彼が訊ねると、しかしフリードはなんだかひどく不愉快そうな顔で口を結んでいる。
眉間にしわをよせ、駆けよってきたヴィムを一瞥すると、フリードは一言。
「……ひとまず……あやつは無事だ」
「そ、そうですか。よかった……! ……あれ? でも、あの、一緒にお邸には帰らないんですか……?」
ヴィムは、てっきりグステルが彼と共に部屋から出てくるものだと思っていた。
──昨晩のこと。
彼はグステルに『すぐには王城をでられないから手伝って』と頼まれた。
それは、ひとりでは王城から出られそうにないから、兄に迎えにこさせてほしいというような意味だと思っていたのである。
しかし、フリードが出てきた扉からは、彼女が出てくる気配はない。
これにはヴィムは戸惑った。
「閣下……ステラさんは……」
「………………」
そんな不安そうな顔を上から見下ろしていた男は、苦虫をかみつぶしたような顔でしばし沈黙。
彼としても、もろもろ妹を信じて(……というか、意味が分からな過ぎて頭が真っ白になったので)動向を見守ることにしたとはいえ、やはり不可解さは感じている。
彼が再会した妹は、どうやら王太子にはまだ本当の身分を伏せていた。
そこへ“メントライン家の嫡男”として王太子の前に参上したフリードは、当然、彼女について説明を求められることに。
『メントライン家の家人とは聞いたが、いったいどういう素性で、どのような仕事をしているのか』
つまりはそういった話である。
ただと、柔和な顔の王太子は付け加える。
『これは彼女の貴賤を問おうとしているのではなく、自分がきちんと彼女という人を知っておきたいがためのこと』
『わたしが彼女を理解しておくことは、きっと、今後末永く彼女を守ることにつながるはずだ』と。
そう言って、傍らの娘を見つめる王太子の熱いまなざしを見て、ここでやっと他人の気持ちに疎すぎる男フリードも気がついた。
──王太子エリアスは、メントライン家の家人と偽る自分の妹を妃に迎えようとしている。
これにはさすがのフリードも大仰天。
『っ!? な!? ど!?』
なんだか二人が親密だとは感じていたが……まさかそこまでの話とは思っていなかった(脳が追い付いていなかった)男に、これは青天の霹靂。
王家の横暴な連れ去りに怒った彼も、まさか可愛い妹が、そんな理由で王城に連れてこられたのだとは思ってもみなかったのである。
彼は愕然とし、すぐさま王太子に戸惑いをぶつけようとした、が。
しかし驚いていきさつを尋ねようとすると、そんな兄に、妹はやはり厳しい。
勧められて座っていた長椅子から思わず腰を浮かせたフリードを、グステルはきつい目で睨む。
その視線は彼女の隣でフリードを見ていた王太子には気がつかれなかったらしいが……。
妹のきれいに整えられた前髪の下に並んだ双眸は、じっと陰鬱な目で兄を見据える。
それはまるで……余計なことを口にしたら呪ってやるとでも言っているかのようだった……。
そんな妹の厭わしげな視線には、フリードも絶句。
しかし、賢い妹のこと。何か考えがあるのだろうという前提のあった兄は、困惑しつつも、浮かせた腰を席に戻すしかなかった。
妹の目は──恐ろしく冷酷だったのである。
そして兄がそんな妹に怯んでいる間に、彼女は自ら王太子の問いにつらつらと答えていく。
『わたくしはもともと公爵夫人の使用人で、現在は奥方様に命じられ、叔母に会いにきた若旦那様のお目付け役をしております』
笑顔でよどみなく語る顔に先ほどの冷酷さはなかったが、時折『そうですよね?』と、兄には押すような視線を向ける。フリードは、訳もわからず頷くよりほかない。
王太子が公爵家の嫡男に質問しているのに、彼の使用人が何もかもを答えていくようすは、些か不遜で不可解ではあったが……。
このとき人払いされた室内にいたのは、この三名だけ。
当の王太子は、グステルが何をしても眉尻を下げるばかりで、けしてとがめようとはしなかった。
こうして結局、王太子の疑問にはすべてグステルが答え、それをフリードが否定せずにいるのを王太子が確認する、という形で、話はどんどん進んでいった。
ゆえにフリードは、この間、ほとんど言葉を発することはできなかったのだが──そんな場の奇怪さにも、王太子はやはり気がつかなかったらしい。
だが、これは彼が愚鈍だったというわけではなく、彼が何か疑問を持つ前に、その身にぴったりと身をよせた娘が、蠱惑的な視線で、彼の腕にはわせた指先の微々たる動きで、吐息のささやかな甘い響きで。巧みに青年を惑わせていたのである。
その密やかな手腕には、王太子も、それを目の前で見ている大男も気がつくことはない。
“メントライン家のステラ”は、まったく巧みに場を操っていた。
──だからこそ。
場がお開きになり、こうして退出してきたあとも。
朴念仁のフリードにはいったい何がどうなって、自分が外に出てきたのか。それすらまったく分からない始末。
ただ、ひとつ、彼は王太子に命じられていた。
それは、先ほど客間で交わされた話、そして王太子と“メントライン家のステラ”の親密な仲を、外部ではけして口外してはならないということである。
つまり、それは……現在、グステルを心配して彼を見上げている青年ヴィムにも、ということになってしまう。
困ってしまったフリードは唸る。
「……ぐぬ……」
「か、閣下……?」
苦悩するように歯を噛む公爵家の嫡男に、ヴィムが不安げ。
しかしフリードは、今回王城に囚われた妹との橋渡しをしてくれたこの青年には、とても恩義を感じている。
死の淵にあった自分(※ただの胃痛。激しい思い込み)を、王城まで支えて、連れてきてもくれた彼には、本当ならば状況を話してやりたい。
──しかし、王太子の命は、重い。
それに、これは王室としても当然の処置でもある。
難航していたとはいえ、王太子の妃選びはずっと行われてきた。
そんななか、王太子が候補にもなかった娘を見染めたとあれば、国が大きな騒ぎになるのは間違いがない。
しかもその娘は、庶民。……と、いうことになっている。
きっと、相応しくないとか、ならば側室にせよとか、議論が巻き起こるのは明らか。
王太子らとしても“庶民のステラ”を守るために、準備もなく公表するわけにはいかない。それはフリードにも理解できたのである。
彼とて、当然妹を世間の厳しい風評や危険な目にはさらしたくない。
ゆえに、こうしてヴィムに悲壮な顔で訊ねられても、フリードは口をつぐむ。
つぐまざるを得ない。
なぜならば、彼は“ハンナバルト家”の人間。
妹がつかわしたとはいえ、この青年は、ハンナバルト家の嫡男だけではなく、王太子妃候補であるラーラ・ハンナバルトとも近しい。
現状をすべて話すのはためらわれた。
フリードは、もう一度、ぐぬぬ……と唸り、ヴィムに言う。
「……す、すまぬチビよ……ゆるせ!」
「……ぇ……、……ど、どうなさったのですか……?」
なぞに謝ってくる公爵家嫡男が不可解すぎて、ヴィムが怯えている。
これはもしや……事態は彼が考えていたよりももっと深刻なのかもしれないと、青年は非常に非常に不安になる、が……。
そんな彼の前で嘆いている男が、ふいに彼に何かを握らせた。
えっと思って手を見ようとすると、その前にフリードがため息。
「閣下? これは……」
「俺には……もうよく分からん。お前、なんとかしろ」
「ぇ……えぇ……!?」
不可解に謝って来たかと思ったら、今度はあまりにも無責任なる丸投げ。
そんなことを言われても、ヴィムにだってちっとも状況が分かっていないのである。それなのに……。
この公爵家嫡男の無茶ぶりには、ヴィムもただただ唖然とするばかりである。
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かっ…体を張って兄に教育を…!?
tago様
お読みいただきありがとうございます。
笑
グステルも、ちょっとおばさん根性は入ってるもので、手段を選びませんね。
これで彼女が兄を上回るパワーを誇っていたら、多分他にもやりようがあったのかも、しれませんが…w
ご感想に感謝です!
最新話も楽しく拝読いたしました!あー面白かった!
脳筋お兄様サイドも(他人事ならば)微笑ましい……かなwww 干し肉差し出すのもまあ、身体(筋肉)を作るためのタンパク質摂取させたいのかなとは思っていましたが。今度はカルシウムかあ🤣🤣🤣 でもねお兄様、世の中の人々結構な割合でお兄様のような筋肉も上背もなくとも立派に生きておりますのよ…😅
グステルさんに愛が伝わるといいね!中の人おばちゃんな妹、分かってはいるのかな🙄
やす様
お読みいただきありがとうございます!
そう言っていただけるととても嬉しいです( ´ ▽ ` )
お兄様のキャラはなんとなく流れでこうなった(アルマンを踏みつけさせたかった笑)んですが…まさかこんなに脳筋になるとは…w
うーん、中身おばちゃんな妹は、どうも兄の調教に乗り出しそうな気がします。
でも多分そんなに簡単な道のりではなさそうです笑
また楽しい回が書けるよう、そこに早くヘルムートを混ぜてあげられるよう頑張ります!
ご感想ありがとうございました。
ヘルムート様なんて出木杉君…!! お兄様…はワイルド系シスコンになっちゃったw…でも大分グステルさんのせいだ、しょうがないね!お兄様がすっ飛んで来るのをニヤニヤとお待ちしております🤭
皆来てくれたんだし、おかしなハイテンションのグステルさんはちゃんと寝なさい!倒れないでね😨
やす様
お読みいただきありがとうございます。
ヘルムートは、家族もグステルも大事にしようと色々と奔走中ですね。
そしてガサツな兄の愛はグステルに伝わるのか…w
更新頑張ります!
ご感想ありがとうございました!