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しおりを挟むそれを打ち明けた時、青年は言った。
「……ならば、私と結婚いたしましょう」
そのいたって真面目という言葉を聞いて。
グステルは、驚きのあまり、一瞬まぬけにも、え? と、床につんのめって転びそうになった。
「……、……ん……? 坊っちゃん……? あら? 私の聞き間違いでしょうか……?」
なんとか体勢を立て直したものの、動揺はおさまらず。唖然と尋ねると、身長の高い彼は、キョトンとした顔で彼女を見下ろした。
「おや? 聞こえませんでしたか?」
「⁉︎」
どうやら身長差のせいで聞こえなかったと思われたらしい。グッと顔を近づけられて、グステルは驚いて及び腰。
そんな娘に、青年は重ねて言う。
「私はあなたに、私の妻になってくださいと言いました」
それを聞いた、グステルは……顔をギョッと強張らせる。
「……坊ちゃん? 私の話……ちゃんと聞いておられました……⁉︎」
思わず青年の耳と正気を疑ってしまって。グステルはつい、幼い子に話しかけるような口調になってしまった。
なにせ、グステルは見た目は十九歳だが、前世の歳と合わせると、もう年齢は六十過ぎ。
目の前にいる青年は二十代半ばという頃。
きちんと説明したつもりだったが、どこかで齟齬があったのだろうと、おろおろしながらも無理やり納得し。グステルは、彼にもう一度説明すべく、その青紫の瞳を教師のような顔で見上げた。
途端、なぜか青年が何かを思い出したような顔で破顔したが、そんなことには構っていられなかった。
「あのですね、私は“悪役令嬢予定者”なんです。お坊ちゃんの大切な妹様を陥れる運命を持つ、それはそれは恐ろしい人間です。しかも、転生者なので、中身はもうあなたの祖母のような歳で……」
そう言いかけると、青年ヘルムートは異議ありげにグステルの言葉を遮る。
「お待ちください。何度も説明していただかなくとも結構です。が──異論がございます。あなたはなぜそこで、前世の年齢を今の歳に足すのでしょう」
「え……だって……」
生真面目な反論に戸惑うと、青年はこんこんと続ける。
「そもそも転生自体は不思議なことでもないのでは? 女神の教えでは、人の魂は世界を循環するものです。女神は死した魂の生前の記憶は消すと言われていますから、前世の記憶があるのは珍しいことですが……。生命あるものは皆、その理に沿っていると考えると、あなたの生まれ変わりは決しておかしいことではありません。──ならば、年齢を足して考えるのは、まったく意味のないことでは?」
「う、うーん……」
自分が転生している自覚はあっても、そんなふうに天の理なんて大きなことを考えたことはなかった現実主義者グステルは言葉に詰まる。
「し、しかしですね、坊ちゃん……私の持つ前世の記憶によると、私があなたの傍──というか、あなたの妹君とそのお相手たる王太子殿下のそばへ近づきますと、私は大変悲惨極まりない死を迎えねばならぬのです」
故に、絶対に、あなた達の傍には帰りたくないと訴えると、ヘルムートは微笑んで、「ですから」とくる。
「それは、あなたが、王太子殿下を愛し、妹と対立するから……ということでしたよね?」
「そうです。嫉妬に狂います。極悪非道です」
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