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しおりを挟むグステルは、家出をする前は公爵令嬢だった。
父は野心家のアムバハイデ公爵。
実家のメントライン家は、現在の王家の傍系血族で、広い領地を持つ裕福な一族である。
そんな衣食住の保証された豊かな実家を捨てて、グステルが実家から遠いこの町で、愛猫と一人と一匹暮らしをいているのには訳がある。
先出の通り、グステルのこの世界での役回りは“悪役令嬢”。
物語がそのまま進めば、王太子の婚約者に据えられるが、そののち彼の前にはヒロインラーラが現れて、彼女は王太子に捨てられる。
まあ、王太子が捨てたくなるのも仕方ない。
彼女はラーラに嫉妬して、大いに悪事を働くのだから。
その辺りは、一読者として物語を読んだ記憶のあるグステルには、冷静に納得ができる。
──が。
それゆえに、グステルは運命を受け入れなかった。
いや──だって絶対にごめんである。
前世では、それなりに分別のある大人として生きた。それが、生まれ変わったらいきなり悪役確定の人生だなんて。
応援したいと思いながら読んだ、物語の善良な女の子をいたぶる役なんて。誰がやりたいだろう。
おまけに悪役令嬢グステルの結末は、これまた悲惨。
好きな男たる王太子には軽蔑されたような目で見られ、目の前で他の女を選ばれたうえ、悪事がバレて父親とともに監獄送りのち、孤独に──獄死。
そんな未来、ありえない。
前世を不慮の死で閉じたグステルの今生の目標は『布団の上で大往生』。
悪役を運命として受け入れ、ただ令嬢として過ごすなんてことは無理だったのである。
ゆえにグステルはここが物語の中の世界だと悟ってすぐに、家を出る決心をした。
その歳──なんと、齢七つ。
しかし生まれてきちんとものを考えられるようになってくると、前世の記憶をばっちり認識できるようになって。この頃のグステルはすでに、幼くして自分を“大人”と捉えるようになっていた。
ともすると、前世の記憶があるなら、その知識を駆使して実家にいたままでも最悪な未来を回避できたのでは──? と思われるかもしれないが……。
父である公爵は強欲な権力者。
地位も富もあり、大勢の人間を動かすことのできる男に、幼児がたった一人で立ち向かい、彼の敷こうとしている令嬢のレールから外れることは容易ではない。
それよりは、そんな父から離れて家出をするほうが、グステルには遥かに簡単で、且つ、未来は明るく思えたのだった。
なにせ、自分がヒロインやヒーローに出会わなければ、その未来は確実に回避できるのだから。
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