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しおりを挟む彼女の今生の父、メントライン家の長、アムバハイデ公爵を、グステルは本当に嫌っている。
父は自分の権勢を広げることばかりを考えているような男で、グステルは、彼とは子供の頃からほとんど家族らしい関わりを持ったことがなかった。
たまに会えば、口癖のように『私の娘らしくしろ』『公爵家の者らしく振る舞え』と怖い顔で命令。
そして普段はほとんど顔を見せないくせに、家庭教師だけは両手の数ほども雇い入れ、物心ついてから家を出るまでの数年間、グステルは朝から晩まで休みなく勉強をさせられたものだった。
その苦行の引き換えなのかなんなのか、玩具も煌びやかな装飾品身も、欲しいと言わずとも次々と買い与えさせる。
まあおそらく公爵の娘として恥ずかしくない格好をしろとのことなのだろうが、グステルはずっと、親の傲慢さが垣間見えると思っていた。
『贅沢品を与えているのだから、なんの不満もないだろう』
そんな父の考えが透けて見えるようで嫌だった。と、いうより、呆れた。
グステルの部屋はいつでも贅沢品で溢れかえっていて──まあ、私室のクローゼットからはみ出した分は、グステルはこっそり間引いて売り払い、ちゃっかり家出の資金にしたが。
ともかく。
父は我が子のグステルを、駒のようにしか思っていない。
普通の子供に必要なのは、家族としての愛情だ。こんな『欲しいものはなんでもやるから、不平はいうな』といわんばかりの押し付けじゃない。
グステルには、前世では子供を産み育てた経験もある。
もし、自分の夫が子供にあんなことをする男だったら、絶対にさっさと離婚してしまっただろう。
今生の母も、そんな父にはとっくに愛想をつかし、夫婦仲も冷え切っていて、形ばかりの家族であった。
店にやってきたヘルムートという青年は、父がグステルのことを『心配している』と、言ったが……本当かはかなり怪しい。
『悪役令嬢グステル』が、物語のなかで高慢に育ったのも、ヒロインに横暴に振る舞い、王太子に縋ったのも。絶対に、あの薄情な父親の影響や、彼が娘にかけ続けた重いプレッシャーが影響している。
はっきり言って、今生では、あの太々しい顔を、もう二度と見たくない。
ただ、そもそもグステルが、『自分が“悪役令嬢”なのだ』と、気がついたのは、父の言動がきっかけだった。
初めは、前世の記憶がありつつも、自分の新たな人生と少女期に読んだ物語とを結びつけることはほとんどなかった。
ただ、『そういえば、昔似たような名前の令嬢ものの本を読んだことがあるなぁ』くらいに思っていた。
けれども、年齢を重ねていくと、次第に自分の周りで小説のなかで、悪役令嬢の過去として語られた出来事が起こっていく。
それを『何かがおかしい』と思ったグステルが、よくよく小説の内容を思い出してみると、自分の周りに、小説と同じ名前の人間ばかりがいることにも気がついた。
しかしそれでもまだ、紙の上に広がっていた世界が、自分の目の前に実際にあることには半信半疑だったが──。
すべてが確信に変わったのは、王太子の誕生祭の宴に招かれた時。
宴の主役たるその少年は、金髪に碧眼。
名も端正な顔立ちの特徴も、小説とまったく同じ。服装や、お付きの侍従の名まで同じときては、グステルとしてもまさかと思わざるを得なかった。
そして、極め付けがグステルの父の言葉である。
ゴッテゴテに着飾らせた彼女を宴に連れて参加した父は、国王の隣にいるその少年を見てグステルに言ったのだ。
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