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しおりを挟む彼の瞳は同情的で、あくまでもグステルを誘拐された娘だと思っているふうではあるのだが……。
グステルとしては、せっかくこちらから穏便に物語を離れていったというのにという気持ちだ。
自分で苦労して築き上げた生活を崩されるのが怖かったし、身元が割れて家に連れ戻され王太子らと出会ってしまうのも怖かった。
その先に待つのは、自分と家族の死。
怖くないわけがない。
しかし、どう調べたのか、彼はどうやら彼女が『グステル・メントライン』であると確信しているふう。
(いったいどうして……? 私……この坊ちゃんと面識ないわよね……?)
確信に満ちた瞳を不思議に思ったし、ここへきた理由を問いただしたかったが。グステルは、ここで本人と認めるわけにはいかない。
とにかくさっさとお帰りいただくのが一番だとグステルは思った。
けれども、貴族の彼を、“ただの町民”であるていの自分が、無理やり店から押し出すわけにもいかない……。
(どうしよう……もういっそ、私のほうがなんとか理由をつけて出ていくか……)
対策を考えていると、男が再び硬い顔で話しはじめた。
「そうですか……お忘れになられているのでしたら戸惑いも当然です。ならば、本日はご挨拶だけにさせていただきます」
「いや、あの……ですから……」
どうしたものかと頭の痛いグステルに、身を正した青年は自分を示すように胸に手を当て微笑んだ。
(う……かわい……)
麗人の微笑みに、グステルが怯む。
「先程申しました通り、私の名前は、ヘルムート・ハンナバルト。ハンナバルト家の嫡男です」
(……存じ上げております……)
心の中でそうげっそりしていると、青年は、なぜか物言いたげな顔でじっとグステルを見る。
同情の眼差しの中に潜む、小さな落胆。
その色に気がついたグステルは戸惑った。
「え、あの……?」
じっと自分の反応を見ていた青年は、グステルが困惑の眼差しを返すと、小さくため息をつく。とても侘びしげな音に、グステルの戸惑いは深まる。
「やはり……覚えていらっしゃらないか……。私とあなたはお会いしたこともあるのですが……」
その言葉に、グステルは、え? という顔。
これは本当に、覚えがなかった。
(? え? そ、そんなこと……あった?)
実家にいる時も、現在も。できるだけ物語の登場人物には近寄らぬようにしてきた。
そうとは顔に出さぬよう気をつけながら記憶を探っていると。青年は思い直したように微笑む。
「しかし、あなたが無事でいらっしゃったことが何よりです。このことをお知らせしたら、ご家族はきっとお喜びになるでしょう」
「!」
嬉しそうな言葉を聞いて、グステルの心臓が凍りつく。
「っやめてください!」
咄嗟に父の顔を思い出し、思わず叫ぶと青年が驚いたような顔をした。
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