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しおりを挟む「ちょっと、ステラ! あんたまたユキが隣に──きゃ……!」
「……?」
開いた扉から入ってきたのは一人の女性。
勢いよく店内に入ろうとして、そこに立っていたヘルムートにぶつかりそうになる。
彼女の口から短い悲鳴が上がると、青年も驚いたようで。咄嗟に彼が身を引いたので実際にぶつかることはなかったが、やってきた娘は青年に気がつくと、喚き散らすような金切り声を上げた。
「ちょっと! ぶつかるところだったじゃない!」
いかにも気の強そうな女性の高い声。
だが、それだけならまだ良かったのだが……。
彼女が怒鳴った瞬間、彼女の腕の中にいた何かがビクッと身を震わせた。
その何かは、鋭い声に驚いたのか、彼女の腕のなかで四肢をばたつかせて大暴れ。そのまま彼女の腕から飛び出した。
「あ! だめ!」
その光景に、グステルがハッとする。
「ユキ!」
片方の前脚を大きく振りかぶり、青年に跳びかかっていく白猫を見て。グステルはとっさに、目の前にいる青年の腕を引っ張った。そしてもう片方の腕は庇うように彼の胸の前に差し出していた。
次の瞬間には、差し出したほうの手の甲に鋭い痛み。
驚いた猫の鋭い爪がグステルの肌をかすっていき──そこには三本の赤い筋が残された。
「っメントライン嬢⁉︎」
その傷を見て、青年は大きく目を見開いてグステルの肩を引く。その顔色は真っ青だ。
──が。
「──ああ、びっくりした……」
愛猫に襲われたほうのグステルはといえば、まったく落ち着いたもの。
息を吐き、そして自分の手を負傷させていった猫が、スタコラさっさと自宅のほうへ逃げていくのを見ると、眉間にしわを寄せて「ユキったら……」ともう一度ため息。
手の甲の傷にはまるで関心がないのか、見もしない。
そして彼女はそばで驚いている青年に向き直り、申し訳なさそうな顔をした。
「すみませんでしたお客様、お怪我はありませんか?」
彼女にかばわれたヘルムートには怪我はなく、それを見たグステルは心底ほっとしたのか、ふにゃりと表情を崩し、よかったぁと笑う。そこに、ここまでヘルムートに厳しい顔をしていた彼女の素が、ほんの少しだけ出た。
商売人として、お客に怪我をさせるなどもってのほか。
しかも彼は侯爵家の嫡男。もし怪我させていれば、ユキも自分も大変な罰を与えられていたかもしれない。
自分はともかく、ユキはグステルにとってとても大切な存在。
家族を捨てた彼女にとっては、唯一の家族である。
突然のことに驚いたが、最悪の事態は防ぐことができた。
そう安堵したグステルが八の字眉毛で戸口のほうを見ると、そこでは栗色の髪の娘が瞳をぱちぱち瞬かせて立っていた。
おろした髪にミモザの花のような黄色いリボンをつけた、見るからに気の強そうな御令嬢。
「もう……イザベルお嬢様ったら……急に怒鳴ったりしては危ないですよ。ユキはああ見えて、とても臆病なところがありますから……」
たしなめられた大家の娘イザベルは、ムッと頬を膨らませる。
「何よ! だってその男が私にぶつかってこようとするから!」
令嬢はきっとヘルムートを睨む。
「私が悪いんじゃないわ!」
令嬢は、フンと鼻を鳴らしてそっぽを向く。やれやれとグステル。
「いきなり店に飛び込んできたのはお嬢様のほうだったような気がしますが……ともかく、高貴な御身のためにも、前方にはいつでも気をつけてくださいね」
憤慨している令嬢にそう言って。グステルは、そばで無言で佇んでいる青年を見上げた。
店を出ようとしていた彼を見送るためにそうしたのだが……青年は動かず。
「あら? お客様……?」
そうキョトンと手を持ち上げて、自分の頬に添えたグステル──の手の甲には、ユキによってつけられた引っ掻き傷が。
わずかに血の流れた傷を見て青年は、ついといったふうに声を荒げた。
「何がよかったですか! 血が出ているではないか!」
「う?」
唐突な指摘に、グステルはぱちぱちと瞬きしている。
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