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24 困った令息 ④
しおりを挟む目の前には贅を凝らした廊下。背後にも同じ光景が続く。
ヘルムートは、途方に暮れていた。
そのどちらに進み、もしくは戻り、妹を探せばいいのか。わからず立ち尽くしていると、突然背後から声。
『……おや、おぼっちゃま。どうなさいました?』
廊下には自分以外誰もいないと思っていたヘルムートは、びっくりして思わず『わ⁉︎』と大きな声で叫んでしまった。
──かけられた言葉の口調は落ち着いていて。咄嗟に相手が大人かと思ったのもあった。
王宮でウロウロしている姿を大人に見咎められれば、すぐ家の者たちに報告されてしまう。それでつい身をこわばらせ、振り向くことをためらったヘルムートだったの、だが……。
身を縮こませる彼の肩の後ろから、突然にゅっと白い何かが顔を出す。
『え』
──白い猫。
白い布製の三角の耳にまるい顔。糸で作られた両眼がヘルムートを見ている。白猫は、両手をぴょこぴょこ動かして彼に話しかけてきた。
『こんにちは、もしかして迷子かにゃん?』
ヘルムートはポカンと目を丸くする。
『ぇ……?』
……気がつくと、白猫の平和な顔の後ろに、ニッコリ笑ってこちらを覗き込む少女の顔があった。
チェリーレッドの長い髪に金色の髪飾り。ライラックの花のような薄い紫色のドレスを着ていて、同じ色の上等な靴を履いていた。
少女はくりくりとしたチョコレート色の瞳でヘルムートを見ながら、白猫のぬいぐるみを手に持ちその両腕をコミカルに動かしている。
年齢は七歳の妹ラーラと同じくらいに見えた。
身構えていたヘルムートは、なんだ……と、拍子抜けしたような気持ちで安堵する。
と、こちらを見ていた少女は彼を見上げて、まるで大人のような口調で言うのだ。
『あらま……なんてかわいい坊ちゃん。お困りでしたら、おばさんお手伝いできますよ』
『? おば……?』
ほがらかな言葉にヘルムートは一瞬ぽかんとした。
自分たちの周りには、『おばさん』などと形容されるに相応しい年齢の女性はいない。
いるのは自分と、自分の半分ほどしか背丈のない少女だけ。
そもそも、年上の自分に向かって『坊ちゃん』『かわいい』はないだろうとヘルムートは怪訝に思って眉を疑問に歪める。
だが、目の前の少女は大人びた顔で腕を組み、『王宮には迷子センターなんて……ないか』と、何やら難しい顔をしている。
言っていることもわからないしで、変な子だなと思ったが。困って辺りを見回しても保護者らしき者はいない。
ここでヘルムートはハッとして青ざめた。
(……もしかしてこの子も迷子なのか⁉︎)
十二歳の自分だって迷ってしまったくらいだ。
少女はどう見てもまだ十にも満たない年齢。
現在絶賛行方不明中の妹のことも重なり、この広い王宮で彼女も彷徨っていたのだろうかと心配になった。
ヘルムートは少女の前に跪き、幼い顔を覗き込みながら問いかけた。
『君、もしかして迷子なの? 父君か母君は……?』
『父?』
と、少女はいかにもうんざりという顔で冷笑を浮かべながら、廊下の先を指さす。
『私めの父なら、今は向こうでどっかのお貴族様とおしゃべり中です。どうやら内容がものすごく悪いことみたいで“子供はあっちに行ってろ”と追っ払われました。まあ……こちらとしても別に聞きたくもありませんから、私めはありがたく王宮探索をしておるところです』
『は……?』
少女は、先ほど猫語でヘルムートに語りかけてきた時の愛らしい声とは打って変わった乾いた声で、げんなり『ははは』と笑っている。
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