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28 困った令息 ⑧
しおりを挟むそうして少年ヘルムートは、訳もわからぬまま少女にどこかへ連れて行かれた。
庭から王宮内に戻り、廊下をどんどん奥に進んで。
辿り着いたのは、王族たちの控えの間へ続く扉の前。
しかしそこには屈強な衛兵たちが立番をしていて虫一匹通さぬという構えである。
廊下の角から、こっそりそちらを覗き見たヘルムートは、思わず困惑顔で少女を見た。
『──え──……ま、まさか。あちらには妹はいませんよ……だってあっちは王族の方しか入れないし……』
しかし娘は、いかにも当たり前という顔でいう。
『とはいえ、ラーラ嬢はこの世界のヒロインですから。そこはミラクルが起こってしまって当然と申しますか……ヒロインは偶然ヒーローに出会ってしまうのがセオリーです』
『? せ、せおりー……ですか……?』
聞きなれない言葉の連続に戸惑っていると、少女の目がきらりと光る。
『もうすぐ王宮では宴の時間でしょう? もちろんそこには本日の生誕祭の主役であり、ヒーローたる王太子殿下も参加なさいます。でも、殿下は来賓たちが会場に移動する間、きっと休憩なさっています。だって殿下は式典の間中ずっと皆の前にいて、あれやこれやと儀式をこなしておいででしたからね。きっと少年はお疲れです。──そこに、きっと妹君もいらっしゃると思います』
少女は自信満々でそう言った。
しかし、ヘルムートは正直心の中ではそんな馬鹿なと思っていた。
王太子といえば、次の国王。いくらヘルムートたちが貴族として生誕祭に招かれたとはいえ、それは数多いる貴族たちのうちの一人としてにすぎない。
そんな自分達が、ましてや幼い妹が。気軽にお世継ぎに会えるわけがない。
というか、物理的に無理なのでは? とヘルムート。
今彼らが見ている扉の前のように、王族たちのプライベートな空間には、それなりの警備がついている。
立ち塞がる衛兵たちの逞しさを目の当たりにした少年には、とてもではないが、あの向こうに自分の小さな妹がいるなんてことは思えない。
だが、そんな彼の戸惑いを知ってか知らずか。少女はスサッと手のひらを掲げる。
『あ、ちなみに。僭越ながら、わたくし一応公爵家の娘でして。王家の傍系血族にあたるので、王宮では割に顔がきくのです』
『そ、それはそうかもしれませんが……』
ヘルムートはあくまでも困惑していたが、少女はそんな彼を安心させよとするように、にっこり微笑んで。彼の手を引き、衛兵のほうへズンズンと歩いて行った。手を引かれるヘルムートはとてもハラハラしたが……。
と、彼らを見つけた衛兵たちが、おや? という顔。
『そこにおられるのは公爵の御息女の……どうかなさいましたか?』
衛兵も、一応要人の家族の顔は頭にあったのだろう。特に警戒されることもなく二人の子供に対応してくれる。
『あの、私たち迷子を探しているのですが……ここに、ヒロインラーラ……あ、いえ、かわいい女の子が迷い込んできませんでしたか? きっと王太子殿下と一緒にいると思うのですが……』
その謎の決めつけに、ヘルムートは今度は胃がキリキリした。
自分の妹が、どうして天下の王太子殿下といるというのだろう。そんなわけがないじゃないか、と、彼は思ったが……。
グステルが尋ねると、衛兵は、ああと隣の同僚の顔を見る。
『そういえばさっき、中から出てきた侍女が、王太子殿下がどこだかの小さな御令嬢をお連れだと言っていなかったか?』
『ああ……遠目にしか見ていませんが、確かお嬢様と同じくらいの歳の子です。たぶん今は、殿下と中でおしゃべり中だと思いますよ。ええと、ほっそりしていて、黒髪にピンクのリボンをつけた青い目の……』
『!』
その特徴を聞いて、ヘルムートがハッと息を呑んだ。そして彼は少女を見つめて声をあげる。
『い、妹です‼︎』
少年の喜びと驚きが爆発した瞬間だった。
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