【コミカライズ企画進行中】ヒロインのシスコンお兄様は、悪役令嬢を溺愛してはいけません!

あきのみどり

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62 ヘルムート、ドジっ子疑惑

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 次の日、店を訪れたヘルムートを出迎えたグステルは、彼の姿を見てギョッとした。

「ど、どうなさったんですか⁉︎」

 頬にも両手にも何やら仰々しい手当てが施されている。あちこちに白い医療用のガーゼを貼り付けられて、何より表情に哀愁が漂いまくっていた。これにはグステルもいったい何事だと慌てた。

「お怪我なさったんですか坊ちゃん⁉︎」

 思わず怪我した子供を見た気持ちで駆け寄ってしまって。つい、以前と同じように呼ぶと、途端ヘルムートの瞳が恨めしそうにこちらを見る。

「……また……そんなふうに……」
「あ、す、すみませんつい痛々しくて……い、いえ、それよりも……」

 グステルが八の字に眉尻を下げ、どうして怪我をしたのか訳を尋ねると。ヘルムートは悲しそうな顔で短く。

「……ただ転んだだけです」

 と、答えた。
 その言葉にグステルはびっくり。
 ……そんなことってあるだろうか。
 人間わりと転んだりしないものである。どこかのうっかりヒロインならまだしも、そうそう日常的には転ぶものではない。グステルだって、前世を合わせても、幼少期と、それと学生時代に一度雪の日にすっ転んだくらいのもの。

(それなのに……こんな立派で機敏そうな若者が……頬に傷を作るほどのこけっぷりを……? ヘルムート様……もしや……見た目より鈍臭くていらっしゃる……?)

 グステルはそんな疑惑にやや戸惑い、(それに……)と、ヘルムートの手に視線を落とす。

「転んで……手の甲に怪我を……?」
「…………」

 指摘すると、ヘルムートはうっという顔で手の甲をさっと隠す。
 その様子に、グステルの不可解さは深まった。
 普通、人は転びそうになった時、咄嗟に転倒を防ごうと手のひらを地面に突く。その場合、怪我をするのは手のひらで。
 青年の苦虫を噛み潰したような表情もあって。これは何か事情がありそうだと黙って彼を見上げていると。その視線に耐えかねたのか、ヘルムートは恥ずかしそうな顔でそっぽを向いた。

「?」

 赤い頬を不思議に思っていると──なぜか彼の後ろで使用人の青年が深々とため息をついている。そこに、大いなる呆れが見える気がするのは気のせいだろうか……。

(……? なんだろう……なんだか自分にも関わりのあることのような気がするけど……?)

 従者の青年の呆れの視線が、なぜか自分にも向けられているような気がして。グステルは不審な気持ちでいっぱい。ヘルムート越しに、彼の後ろの青年ヴィムに視線を送る。
 何かあったんですか? と怪訝に尋ねるような視線に。それを受けた青年が一瞬物いいたげな顔をした。が、その瞬間、ヘルムートが二人の視線を遮るように、身を横にずらしグステルを見る。

「それより。例の件なのですが」
「あ……は、はい……そうでした……」

 言われて、そうだったとグステル。彼は今日ここに遊びにきたのではない。
 グステルは改めて彼に挨拶し、店の奥の椅子を勧めた。
 それから店の入り口に“準備中”の札を出して……。正直……そうしていながらも、ヘルムートの傷や従者の視線の訳が気になったが……。

(まあ……年頃の男の子は大人に隠し事も多そうだしね)

 グステルは、そう納得することにした。
 もちろんこの場合の“年頃の男の子”は齢二十四のヘルムートで、“大人”は十九歳のグステルである。ヘルムートの呼び方を改めても、心の中ではまだまだ互いの捉え方がおかしいグステルであるが……ともかく。

 相手が追求して欲しくなさそうなことをいちいち詮索するほど、グステルもデリカシーのない人間ではない。

(もしかしたら本当に、ヘルムート様が見た目に反してドジっ子で、それを恥じておいでなだけかもしれないしね……)

 ならばそれをいちいち指摘しては気の毒。若者にもプライドというものがあるだろう。
 手当てもしっかり施してあるようだしとグステル。(痩せ我慢かもしれないが……)ヘルムートもさして痛そうにしてはいないのでここはひとまず見なかったことにしようと思った。

 さて、そんなこんなで。グステルは、傷負いの青年と例の件──いかにして、彼女が父、メントライン家の家長と会うかという件についての話を進めることになった。
 ヘルムートはここ数日でかなりグステルの父と公爵家について調べてくれていて、今日はそのお披露目となった。
 黒髪の青年は、怪我のことなどまるでなかったかのような冷静な素振りで口火を切る。(※そんな彼に、思春期の若者感を勝手に感じ、グステルがひっそり、かわいいなぁとほっこりしている)

「──調べによると、公爵は今領地にいらっしゃいます。王都の町屋敷にいるのは、例の偽物と、公爵の妹のグリゼルダ殿。この方は、あなたの叔母にあたる方ですね」

 その言葉に、グステルが瞳を数回瞬いた。

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