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しおりを挟むヘルムートの提案で、父に会うため、まず父と別居中だという母に会いにきたグステル。
腐っても父は公爵。グステルのような庶民はもちろん、いくら次期侯爵とはいえ、付き合いもないヘルムートがいきなり尋ねていって容易く会えるものではない。
おまけに、彼はラーラの兄。現在、偽の娘を立ててまで、王太子妃の座を巡って争っているに等しい家の、その嫡男と、父が喜んで会うとはとても思えなかった。
つまり、彼女たちがここにきたのは、母に父との橋渡しを頼もうということである。
仲違いしているとはいえ、夫婦は夫婦。それに、いくらなんでも母ならば、血を分けた娘が本物だとわかるはずと希望をかけた。
……とはいえだ。
グステルは、本当は、必要なことと分かっていても、母に会うのはやはり少し気が引けた。
一度は自分の生命のために母のもとを逃げ出した身である。
幼少期のグステルは、母とはほどほどの距離感だった。
貴族の令嬢出身の母は、グステルが生まれるとすぐ習わし通りに乳母と世話係をつけていたから、さほどべったりしていたわけではないのだ。
母はどちらかというと、跡継ぎの兄のほうの教育に熱心で。物語では、その辺りも“悪役令嬢グステル”を悲しませ、彼女が孤独を感じ、周りに辛く当たる要因の一つでもあったわけだ、が……。
しかし、その物語に転生者として飛び込んだグステルは、もうその頃中身がとっくに大人であった。
ゆえに母の放任にも特に寂しいとは感じず、執着もしなかった。
そうして物語では母に愛される兄に嫉妬し、母をわざと煩わせ母には疎まれるはずの時期を、グステルはケロリとして過ごし。その影響か、今生で彼女は母にはあまり嫌われなかった。
まあ、ただかといって、母にものすごく愛された……というわけでもなかったが。
それでも兄より関心は薄くとも、それはそれなりに母にも愛しまれていたとは思っている。
だからこそ、グステルは今、母に罪悪感を感じるのかもしれないなと思った。
あの頃は生き延びることで必死だったが、後々考えると、彼女は母親から幼い娘を失わせている。
ゆえに、覚悟を決めて母と再会するのなら、彼女とは真剣に、神妙な態度で再会したい、と、考えていた、……のだが……。
その予定は最初から狂いまくった。
──“彼”のせいで。
「…………」
公爵家別邸のエントランス。貴族の邸にしてはこじんまりとした空間の真ん中で、夫人への取り次ぎを共に待つその“彼”を、グステルは呆れをにじませて眺めている。
と、そんな彼女を、その男から隠すように立っていたヘルムートが、苦々しくいった。
「……、……何故、お前がついてくる……」
渋い顔の青年が睨んでいるのは、彼らの前で、周囲に集まってきた娘たちに愛想を振り撒きまくっている彼の友人エドガー。
ヘルムートはとても嫌そうだが、グステルがその青年をぽかんとした顔で見つめるのも仕方がない。
現れたエドガーは、出迎えてくれた公爵家の使用人女性たち全員からすでに名前を聞きだし、初見のはずの彼女たちと見つめあったり手を握ったり……。
出会って秒で女性たちに馴染み、囲まれ楽しそうにしているエドガーを見たグステルは思った。
……この世界にも、コミュ力お化けがいるんだなぁ……と。
まあ、そんなグステルの呆れはともかく。
突然現れた友人に、ヘルムートは怒りも露わ。……そりゃあこんな大事な場面で、いきなり傍で合コン始められたら怒っても仕方がないよね、と、グステル。
ヘルムートは、そんな呆れる女好きの友の目からグステルを背に隠すように立ち、どうしてお前がここにいると視線でエドガーを刺すのだが……。
しかし睨まれた当人はといえば、ヘルムートのトゲトゲしさもなんのその。悪びれることもなく平然と友の厳しい顔を笑うのだ。
「ははは、どうしたヘルムート。また眉間にしわが寄っているぞ。怖い顔はやめろよ、お嬢さん方が怖がってしまう」
ねえ? と、娘たちに同意を求めるように流し目を送る友人に、ヘルムートがカチンとした顔。
「……いったい誰のせいだと……!」
「なんだよ、別にいいだろ。お前が公爵夫人を尋ねるというから一緒に来てやったんだ。色男の訪問客は一人よりも二人のほうが喜ばれるんだぞ?」
……グステルは感心した。いくら親しいからといって、よくもまあ、あんなに真剣に怒っている相手に向かってああも平然と軽口が叩けるものだ。飄々とした青年エドガーに、グステルは珍獣を見る思い。と、そんな友に辟易したヘルムートが憤慨し、さらにエドガーに詰め寄る。
「っだから……! 何故お前がそれを知っている⁉︎ 私はこの訪問のことは極秘で進めていたはずだ!」
それは本当に、甚だ疑問であった。
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