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165 開幕戦が相手違い
しおりを挟む「うっ⁉」
部屋に入ろうと一歩踏み出しかけていたグステルは、そのあまりの眩しさに、思わずのけぞって足を止めた。
……いや、その娘は、おそらく年齢的に言えば、グステルやイザベルとあまり変わらぬ年頃。少女と形容する歳でもない気もするが。
けれども彼女の愛くるしい顔立ちは、どこかあどけなさがあって初々しい。
まるくてぱっちりとした青い瞳には、くるりと長いまつげ。しっとり色白の肌はきめ細やかで、頬は優しい薔薇色。うっすら額を飾るうぶ毛すら、光り輝いているようだった。
唇の色がまた絶妙で。淑女の艶やかさと、少女の愛らしさのちょうど境めをすくいとったような牡丹色。
黒髪は空気をまとって広がっているが、けして奔放なわけではなく。しっかり手入れのされた波打ちが上品に彼女の肩から背を飾っている。ゆるやかなカールに沿ってつやが柔らかに輝き、耳のうしろにはコロンと可愛いカップ咲きの薔薇の髪飾り。それがまた惚れ惚れするほどによく似合っている。
グステルは、思わず身を凍らせる。
(え……お、お姫様だ……お、お姫様がいるわ……)
でなければ、花の妖精かと疑ってしまうような可憐さ。これはイザベルの喧嘩相手としては予想外の人選。
(え……イザベル様はいったいどなたに喧嘩を売っておいでで……?)
てっきりエドガーがいると思っていたグステルは困惑。
それになぜだろうか。どうしてなのか、グステルは、彼女を見た瞬間、なぜか身体が動かなくなった。驚きのせいだろうか? 全身にぞわりと鳥肌を感じ、部屋の中に入る足が動かない。
(なぜ……? あのお嬢ちゃまを見ていると……なんだかとても不安になる……)
グステルは、思わず自分の服の胸元を片手で握りしめる。
こんなに天使のような女の子を見て、自分が恐れを抱くの不可解で。……しかし、その顔を凝視していたグステルは、ふと気づく。
(あら……この方、誰かに……似ているような……)
目元だろうか、鼻の形だろうか。確かに誰かに似ている気がするが……と、グステルは、その“お姫様”の顔に食い入るように見入った。──が。
ここでイザベルの怒鳴り声。
「もう一回言ってみなさいよ! 私がなんですって⁉」
「おう……」※グステル
その挑みかかるような声に、うっとグステル。耳をつんざくような声に、ありがたくも身のこわばりが抜ける。
「イ、イザベル様! ステイステイ!」
ぼんやりしている場合ではなかった。
麗しい乙女の登場にすっかり魂が抜けかけたが、場の雰囲気は険悪。
しかし、イザベルに怒鳴られたにも関わらず、相手の娘はそれを向かい打つように鋭いまなざしで長椅子を立つ。その顔はあくまでも可憐だが、真っすぐにイザベルを射抜くまなざしには、はっきりと『来るなら来い』と、書いてあった。
(ひぇぇ……)
ふんわり愛らしい見た目にも関わらず、どうやらこちらもなかなか好戦的なお嬢ちゃまらしい……と、察したグステルは、とても慌てた。
このままでは、彼女たちの舌戦が白熱することは確実で。そのうち堪忍袋の緒がかなり短いイザベルが、客に手を出してしまうかもしれない。背筋の凍ったグステルは、慌てて居間へ飛びこんでいってイザベルを羽交い絞め。
「あ! ちょっとステラ! あんた、邪魔しないで!」
「はーいはいはい。お嬢様はちょっとあっちでユキでも撫でて落ち着きましょうねぇ~」
言ってグステルは、イザベルの抵抗を受けつつ彼女を部屋から引きずるように連れ出した。
イザベルはなかなかパワフルだが、そこは長い付き合い。と、同時に、そこで女たちの争いを恐々として眺めていた男性使用人に、ひとまず残された客のもてなしを頼む。
こんな恐ろしい争いにはきっと彼も巻き込まれたくはないだろうが。彼は兄に給料を貰っているのだろうから(ちゃんとやれ)という視線で刺しておいた。
そうしてグステルは、猛烈に迷惑そうな王子様猫にイザベルを押し付けて(※イザベルにユキのブラッシングをさせて)、慌てて居間に戻ったが。
もうその時には、あの愛らしい令嬢ふうの客は、すでそこにはいなかった。
男性使用人の話では、あの直後、彼女は何も言わず、そのままさっと帰ってしまったらしい。
これにはグステルも、何がなにやら。
「え……結局、なぜあのような事態に……?」
困惑したグステルが訊ねると、すっかりふてくされていたイザベル(※毛だらけ)は、頬を膨らませて言う。
「………………わかんなかった」
「……え? え? え……⁉」
これにはグステルも、唖然である。
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