176 / 192
175 グステルの知らない、王太子の異変
しおりを挟む「状況から察しまするに……王太子様が、殿下に無礼を働いた私を捜索なさっていた件に関係しているのではないかと」
言って、グステルは王妃の反応をうかがった。
だが、王妃はスッと瞳を細めただけ。
「……ほう」と、言ったきり、やはりこちらもグステルの様子を見定めようとしているかのような目をしている。
これはなかなか強敵かもと思いつつ、グステルは愛想のいい笑顔を絶やさずに続けた。
「そこで何かとんでもない誤解が生じて、口さがない者が、王妃様に『殿下がどこの馬とも知れぬ娘に熱を上げている』……なんて無責任な発言を申して王妃様を心配させたのでは……?」
王妃なんて大物が、このタイミングでグステルの前に出てくるのならば、考えられるのはそれくらい。
まさか国の母ともあろう女性が、自分の王子に無礼を働いたからといって、町民をいちいち呼び出し、直々に審問するわけがない。呼び出されるからにはそれ相応の理由があるはず。
それにこの対面は、どこか内密に行われている節がうかがえる。
連れてこられた部屋も立派ではあるが、王妃が国民と面会するにしてはいささか簡素で狭い。
彼女の服装も、王妃の着物としてはやや地味。
世間では時折王族の贅沢が取りざたされるが、王族は着飾ってなんぼ。国民は、自国の王や王妃が立派であれば喜ぶし、そうであってこそ自分たちの国にも誇りを抱ける。
もちろん、それも程度の問題はあるだろうが……ともあれ、今グステルの前で着席した王妃の出で立ちは、紺鼠のワンピースドレスに暗色の長いローブ。目立たないように配慮しているのは明らかだった。
(いや……これは、もしかしたら王妃の使いあたりを装いになるおつもりだったのかも)
しかしそれはグステルがすでに王妃の顔を知っていたことで意味をなさなくなった。
彼女を見つめる王妃は、気品の漂うくちびるにうっすらと柔和な微笑みを浮かべているが、そつのない笑顔には隙がない。申し訳ないが、グステルは非常に面倒なことになったと思った。
(これはどこかで変な誤解が生じたのね……)
メントライン家の問題が、今日ある程度決着がつくだろうと思っていたのに、これはとんだ邪魔がはいったものである。
王妃に笑顔を向けながら、グステルは心の中で嘆き、この事態をどう切り抜けようかと思考を巡らせる。
……しかし、彼女は知らない。
その王太子が、彼女が考えているよりも余程深く彼女との再会を熱望し、それはすでに彼の周りの人間にまで影響をおよぼしているということを。
事実、王妃がこうして息子の遣わした捜索隊から横取りしてまで、王太子が探している娘と先に面会を果たしたのは、そんな息子の異変にすっかり動揺してしまったからなのである。
将来の国王たる彼女の息子の一挙手一投足には、多方面から注目が集まる。
その王太子が誰かを熱心に探していれば、当然それは誰だという話になるし、ましてやそれが若い娘なら。憶測が憶測を呼ぶ大事件。
現在、王太子の執心ぶりを目撃した者たちは、皆口々に、王太子がその者を妃に迎えるつもりなのではと噂していた。
もちろん王宮内では王太子の私事に口を出すのは禁じられている。
しかし、ここのところの王太子は、普段のほがらかさが嘘のよう。つねにまわりに如才なく気を配っていた青年が、ある一つのものに心を奪われたようにぼうっとしている。
その瞳はどこか遠くを見るように切なげで、彼が胸のうちに大きな悩みを抱えているのは誰の目にも明らかだった。
そんな王太子を見てしまった人々の興味は尽きず、皆黙っていられないのである。
はじめは捜索を命じられた騎士兵士たちの間で。そのうち口の軽い誰かが他の者にそれを漏らし、それは瞬く間に王宮内に広がった。
今ではそれは社交界にも伝わりつつあり、王妃としては、これはは由々しき事態。
王宮の女主人としても、王太子の母としても。彼女は対処に乗り出さざるをえなかったのである。
96
あなたにおすすめの小説
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
谷 優
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。
前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。
前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。
外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。
もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。
そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは…
どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。
カクヨムでも同時連載してます。
よろしくお願いします。
死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について
えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。
しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。
その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。
死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。
戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。
嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。
しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い!
声が出せないくらいの激痛。
この痛み、覚えがある…!
「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」
やっぱり!
忘れてたけど、お産の痛みだ!
だけどどうして…?
私はもう子供が産めないからだだったのに…。
そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと!
指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。
どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。
なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。
本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど!
※視点がちょくちょく変わります。
ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。
エールを送って下さりありがとうございました!
(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?
水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。
私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。
悪役令嬢になったようなので、婚約者の為に身を引きます!!!
夕香里
恋愛
王子に婚約破棄され牢屋行き。
挙句の果てには獄中死になることを思い出した悪役令嬢のアタナシアは、家族と王子のために自分の心に蓋をして身を引くことにした。
だが、アタナシアに甦った記憶と少しずつ違う部分が出始めて……?
酷い結末を迎えるくらいなら自分から身を引こうと決めたアタナシアと王子の話。
※小説家になろうでも投稿しています
婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた
夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。
そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。
婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。
死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?
神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。
(私って一体何なの)
朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。
そして――
「ここにいたのか」
目の前には記憶より若い伴侶の姿。
(……もしかして巻き戻った?)
今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!!
だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。
学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。
そして居るはずのない人物がもう一人。
……帝国の第二王子殿下?
彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。
一体何が起こっているの!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる