1 / 24
プロローグ
しおりを挟む黒いドレスに身を包み、黒いベールを被る。そのベールの先では、夫が眠る棺が運ばれていた。
シルヴァリー夫人と呼ばれた私は、結婚後1年も経たず、未亡人となってしまった。
没落貴族だった私は、運良くレナード・フォン・シルヴァリー伯爵に見初められ結婚した。夫にはまだ8歳になったばかりの息子がいて、どうかあの子の母親になってほしいと頼まれた。
もちろん「喜んで」と応えた私だが、正直息子のことなどどうでも良かった。私は両親から聞かされた没落する前の貴族暮らしに憧れていた。聞けば聞くほど、なぜ本来貴族令嬢であるこの私が貧乏暮らしをしているのかと、腹立たしさと世間への憎しみを抱いていた。
なんでもいい、私に相応しい地位を手に入れたかった。継母など息子をいじめるのではと周りには警戒されたが、いじめるのも面倒なほど息子のことはどうでも良かった。
結婚した当初「私を本当のお母様だと思ってね」と心にもないことを言う私の本心を見透かしたように、息子の薄紫の瞳は冷たかった。
それが「ロゼッタ・シルヴァリー」という、前世で私が読んでいたラノベのキャラクターだと、今この瞬間思い出した。
呆然とパニックを繰り返す私を、周りは夫が急死したからと思ってくれたようだった。実際、夫の死は青天の霹靂でまだ受け止めきれないでいることは事実だ。
しかし、そのショックにより思い出してしまった。ここはあのラノベの世界だと。
葬儀の傍ら、私から離れたところでじっと棺を見つめている少年。まだ幼い顔立ちを残す銀髪の少年は私の継子、リゼル・フォン・シルヴァリー。
ラノベの中では、所謂悪役令息だった。ヒロインに一方的に目をつけ、有無を言わさず攫って地下室に監禁した。それまでも多数の女性を攫っては自分の好きなようにし、気に入らなければ殺すということを繰り返していた。
そんなリゼルは物語のヒーローであるアルフレッドによって断罪。火炙りにより処刑された。
生前の私は、悪役が大好きだった。アニメでもラノベでもゲームでも、とにかく悪役推し。悪ければ悪いほど良い!
生前最後の私の最推しはリゼル推しだった。女に酷いことをするなど、なんて最低なやつだ。同情の余地はまったくない。最高だ。
しかし、処刑台の炎の中で死に絶える直前「なぜ、皆俺を侮辱する……!」と呟いた言葉が妙に胸に残った。本人のしたことを考えれば、処刑は妥当だ。同情はできない。
よく悪役が悪の道に進んでしまった過去など描写されることも多いが、リゼルは何も語られなかった。本人のセリフからも、過去篇や作者による裏話もなかった。
何が彼をこうさせてしまったのか。彼を救う手立てはなかったのか。そんなことを考えて、二次創作でも書こうかと思っていた。
それを書くまでもなく、私は突然の病により死んでしまったのだが。
だが、まさかリゼルの過去がこうして明らかになるとは思わなかった。恐らく父親の突然の死と、継母から冷たい態度を取られ続けたことが原因で歪んでいってしまったのだろう。
ラノベの挿絵で見たリゼルより、今の彼はずっと小さい。なんてあどけなく可愛らしいのだろう。推しという気持ちよりも、母性本能がムクムクと湧いてきた。
今ならば違う未来に導くことができるかもしれない。どうにかしてあげたいという、イチ読者としての願いが叶う。
それ以上に、この可愛い息子があんな惨たらしい処刑をされるなど考えたくもなかった。
この子を悪役令息になどさせない。
リゼルは、私が守る。
402
あなたにおすすめの小説
追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす
yukataka
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。
婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。
拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。
無能だと思われていた日陰少女は、魔法学校のS級パーティの参謀になって可愛がられる
あきゅう
ファンタジー
魔法がほとんど使えないものの、魔物を狩ることが好きでたまらないモネは、魔物ハンターの資格が取れる魔法学校に入学する。
魔法が得意ではなく、さらに人見知りなせいで友達はできないし、クラスでもなんだか浮いているモネ。
しかし、ある日、魔物に襲われていた先輩を助けたことがきっかけで、モネの隠れた才能が周りの学生や先生たちに知られていくことになる。
小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿してます。
【完結】婚約者と仕事を失いましたが、すべて隣国でバージョンアップするようです。
鋼雅 暁
ファンタジー
聖女として働いていたアリサ。ある日突然、王子から婚約破棄を告げられる。
さらに、偽聖女と決めつけられる始末。
しかし、これ幸いと王都を出たアリサは辺境の地でのんびり暮らすことに。しかしアリサは自覚のない「魔力の塊」であったらしく、それに気付かずアリサを放り出した王国は傾き、アリサの魔力に気付いた隣国は皇太子を派遣し……捨てる国あれば拾う国あり!?
他サイトにも重複掲載中です。
奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!
よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。
悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています
窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。
シナリオ通りなら、死ぬ運命。
だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい!
騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します!
というわけで、私、悪役やりません!
来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。
あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……!
気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。
悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!
普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜
神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。
聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。
イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。
いわゆる地味子だ。
彼女の能力も地味だった。
使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。
唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。
そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。
ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。
しかし、彼女は目立たない実力者だった。
素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。
司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。
難しい相談でも難なくこなす知識と教養。
全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。
彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。
彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。
地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。
全部で5万字。
カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。
HOTランキング女性向け1位。
日間ファンタジーランキング1位。
日間完結ランキング1位。
応援してくれた、みなさんのおかげです。
ありがとうございます。とても嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる