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第2章 勇者ベレニスの真実
(4)
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オリヴィエら四人の男たちが灰翼蜥蜴のねぐらのある崖の近くまでたどり着いた時には、雨はすっかり上がり、夜が白白と開け始めていた。
魔術で灯したランタンの光がなくても、周囲の様子は見えるようになった。
「あと少しだ」
雨に打たれながら夜通し馬を走らせてきた疲れは、全く感じなかった。
とにかく、一刻も早く妹の無事を確認したかったのだが、彼女は絶対に大丈夫だという妙な確信もあった。
マルティーヌが辿ったと思われる道は正確にあの崖へと向かっており、道中の所々に、斬り伏せられた魔獣の死骸が転がっていた。
そのうちの何体かは、オリヴィエでも少々手こずる強敵であったにも関わらず、すべて一撃で倒されていた。
それが彼女の手によるものであることは明らかだった。
「リーヴィ、上!」
すぐ後ろを走っていたバスチアンが声を上げた。
両側に迫る木々の頂の間を、黒い影が二つ横切っていく。
「くそっ。狩りから戻って来たのか」
「やばいな」
灰翼蜥蜴は夜行性で、深夜に狩りをする習性がある。
今晩は雨が降っていたために、狩りに出た個体は少なかっただろうが、これから続々とねぐらに帰ってくるはずだ。
狩りを終えたばかりの灰翼蜥蜴は気が立っており、危険度が増す。
「急ぐぞ! 崖はすぐそこだ!」
遠くから滝の水音が聞こえるようになってきた。
その轟音に混ざる魔獣の咆哮。
岩が崩れ、木々がなぎ倒されるような破壊音。
灰翼蜥蜴のねぐらの周辺が大騒乱になっている模様だ。
それは、何者かがその場で魔獣と戦っている証拠であった。
風向きが変わり、強烈な獣臭と、生臭い血の臭いが運ばれてくる。
魔獣に慣れているはずの馬たちも、流石に怖気付いて足が進まなくなった。
男たちはその場に馬を置いて走り出す。
「マティ、無事でいろ!」
ようやく木々の間を抜けると、目の前は、昨日より水かさの増した濁流。
急いで右手に視線を走らせると、幅が広くなった激しい滝の左右に、昨日よりさらに大きく崩れた崖が見えた。
その下の地面には、大きな岩と黒っぽい魔獣の死骸が混ざり合って無数に落ちている。
そして、三頭の灰翼蜥蜴が、ある一点を目掛けて入り乱れるように攻撃を仕掛けていた。
「う……そ、だろ」
その壮絶な光景に言葉もなく立ち尽くすオリヴィエの隣で、バスチアンが唸った。
魔獣の灰色の大きな翼に遮られてよく見えないが、おそらく、あの騒乱の中心にマルティーヌがいる。
魔獣たちが執拗に攻撃しているところ見ると、彼女はまだ無事だ。
そう思いたい。
「援護するぞ!」
オリヴィエがそう叫び切らないうちに、一頭の灰翼蜥蜴の首が飛び、胴体が地面に転がり動かなくなった。
続いて残りの二頭も、何が起きたのか見定めることができないまま、いくつかに切り離されて地に落ちた。
「す……ごい」
副団長の命令で矢をつがえようとしたアロイスが、呆然と手を下ろした。
遮るものがすっかりなくなり、魔獣の死骸の折り重なった上に、人の姿が見えた。
身につけているのは、返り血と泥で、元の色が分からないほど汚れたボロボロのドレス。
振り乱した金の髪も暗い色に染まっている。
「マティ!」
「お嬢様! ご無事ですか!」
四人の男たちが慌てて駆け寄ろうとすると、少女が左の掌をこちらに向けて叫んだ。
「来るなぁぁぁ!」
男たちはその声の厳しさに、その場から一歩も動けなくなった。
魔術で灯したランタンの光がなくても、周囲の様子は見えるようになった。
「あと少しだ」
雨に打たれながら夜通し馬を走らせてきた疲れは、全く感じなかった。
とにかく、一刻も早く妹の無事を確認したかったのだが、彼女は絶対に大丈夫だという妙な確信もあった。
マルティーヌが辿ったと思われる道は正確にあの崖へと向かっており、道中の所々に、斬り伏せられた魔獣の死骸が転がっていた。
そのうちの何体かは、オリヴィエでも少々手こずる強敵であったにも関わらず、すべて一撃で倒されていた。
それが彼女の手によるものであることは明らかだった。
「リーヴィ、上!」
すぐ後ろを走っていたバスチアンが声を上げた。
両側に迫る木々の頂の間を、黒い影が二つ横切っていく。
「くそっ。狩りから戻って来たのか」
「やばいな」
灰翼蜥蜴は夜行性で、深夜に狩りをする習性がある。
今晩は雨が降っていたために、狩りに出た個体は少なかっただろうが、これから続々とねぐらに帰ってくるはずだ。
狩りを終えたばかりの灰翼蜥蜴は気が立っており、危険度が増す。
「急ぐぞ! 崖はすぐそこだ!」
遠くから滝の水音が聞こえるようになってきた。
その轟音に混ざる魔獣の咆哮。
岩が崩れ、木々がなぎ倒されるような破壊音。
灰翼蜥蜴のねぐらの周辺が大騒乱になっている模様だ。
それは、何者かがその場で魔獣と戦っている証拠であった。
風向きが変わり、強烈な獣臭と、生臭い血の臭いが運ばれてくる。
魔獣に慣れているはずの馬たちも、流石に怖気付いて足が進まなくなった。
男たちはその場に馬を置いて走り出す。
「マティ、無事でいろ!」
ようやく木々の間を抜けると、目の前は、昨日より水かさの増した濁流。
急いで右手に視線を走らせると、幅が広くなった激しい滝の左右に、昨日よりさらに大きく崩れた崖が見えた。
その下の地面には、大きな岩と黒っぽい魔獣の死骸が混ざり合って無数に落ちている。
そして、三頭の灰翼蜥蜴が、ある一点を目掛けて入り乱れるように攻撃を仕掛けていた。
「う……そ、だろ」
その壮絶な光景に言葉もなく立ち尽くすオリヴィエの隣で、バスチアンが唸った。
魔獣の灰色の大きな翼に遮られてよく見えないが、おそらく、あの騒乱の中心にマルティーヌがいる。
魔獣たちが執拗に攻撃しているところ見ると、彼女はまだ無事だ。
そう思いたい。
「援護するぞ!」
オリヴィエがそう叫び切らないうちに、一頭の灰翼蜥蜴の首が飛び、胴体が地面に転がり動かなくなった。
続いて残りの二頭も、何が起きたのか見定めることができないまま、いくつかに切り離されて地に落ちた。
「す……ごい」
副団長の命令で矢をつがえようとしたアロイスが、呆然と手を下ろした。
遮るものがすっかりなくなり、魔獣の死骸の折り重なった上に、人の姿が見えた。
身につけているのは、返り血と泥で、元の色が分からないほど汚れたボロボロのドレス。
振り乱した金の髪も暗い色に染まっている。
「マティ!」
「お嬢様! ご無事ですか!」
四人の男たちが慌てて駆け寄ろうとすると、少女が左の掌をこちらに向けて叫んだ。
「来るなぁぁぁ!」
男たちはその声の厳しさに、その場から一歩も動けなくなった。
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