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第2章 勇者ベレニスの真実
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マルティーヌは身の丈に合わない大剣を片手で軽々と一振りして魔獣の血を払うと、薄藍色の空をきっと見上げた。
そこには大型の灰翼蜥蜴が、様子を伺うように円を描いて舞っていた。
どんな体勢になろうとも、首を長く伸ばし、黄色い大きな目でしっかりと人間の娘に照準を定めている。
マルティーヌも魔獣から目を逸らさない。
両手で剣を握ると、ゆっくりと体の前に構えた。
しばらく睨み合いながら、灰翼蜥蜴が徐々に高度を下げてくる。
そして、周囲の木々と同じほどの高さまでくると、大きく羽ばたいて体を翻した。
巨大な魔獣の腹が彼女の頭上をかすめたところで、大きく屈曲する。
長い首が進行方向と逆に曲がって身をくねらせ、二本の牙が彼女を正面から襲う。
「マティ! 危ない!」
大きく開かれた魔獣の口が目の前に迫るギリギリで、マルティーヌは足下の魔獣の死骸を蹴り、高く跳んだ。
空振りかと思われた牙はさらに進行方向を変えた。
かわりに彼女のいた場所に向かって、棘のある巨大な尾が鞭のようにしなった。
「な……っ!」
男たちが息を飲んだ次の瞬間、太い尾が真っ二つになった。
胴体と切り離された尾を必死に繋ぎとめようとするかのように、血液と体液が糸を引く。
牙は囮。
魔獣は毒を持つ尾で人間を仕留めようとしたが、マルティーヌは完全にその攻撃を見破っていたのだ。
動力を失った尾が水しぶきをあげて川に落ちた時、マルティーヌの姿は大きくバランスを崩した灰翼蜥蜴の背にあった。
長剣の切っ先を二枚の翼の間に突き刺し、それを手がかりに背中にしがみついている。
魔獣は落とされた尾と背中に刺さる剣の痛みでもがき苦しみながら、必死に羽をばたつかせ背中の人間を振り落とそうとしていた。
「やあぁぁぁぁ!」
聞こえてきた大声が悲鳴なのか気合いなのか、男たちには分からなかった。
彼女が振り落とされたように見えた時、魔獣の長い首の根元が大きく下にずれた。
羽ばたきがぴたりと止み、宙を掻いていた手足も止まり、何もかもが一瞬、空中で静止した。
まずは首、直後に胴体が。
切断された魔獣の体は、二つの地響きを立てて仲間たちの死骸の上に落ちた。
その壮絶な光景を背に、マルティーヌは何もない土の上に着地した。
大きく肩で息をつくと、さらに明るく染まった空を見上げる。
もうそこに、黒い影はなかった。
「ああ。終わっ……た」
マルティーヌの手から長剣が落ちた。
終わったのは数時間にも及ぶ死闘と、そして、虚構であった辺境伯令嬢としての自分。
大きな達成感と、開放感が心地よかった。
「マティ!」
「お嬢様!」
向こうから必死に駆け寄ってくる、兄のオリヴィエと顔見知りの団員たちの姿が白く霞んでいく。
急激に身体が冷え、全身から力が抜けた。
男たちが何かを叫んでいるようだったが、もう言葉として認識できなかった。
そこには大型の灰翼蜥蜴が、様子を伺うように円を描いて舞っていた。
どんな体勢になろうとも、首を長く伸ばし、黄色い大きな目でしっかりと人間の娘に照準を定めている。
マルティーヌも魔獣から目を逸らさない。
両手で剣を握ると、ゆっくりと体の前に構えた。
しばらく睨み合いながら、灰翼蜥蜴が徐々に高度を下げてくる。
そして、周囲の木々と同じほどの高さまでくると、大きく羽ばたいて体を翻した。
巨大な魔獣の腹が彼女の頭上をかすめたところで、大きく屈曲する。
長い首が進行方向と逆に曲がって身をくねらせ、二本の牙が彼女を正面から襲う。
「マティ! 危ない!」
大きく開かれた魔獣の口が目の前に迫るギリギリで、マルティーヌは足下の魔獣の死骸を蹴り、高く跳んだ。
空振りかと思われた牙はさらに進行方向を変えた。
かわりに彼女のいた場所に向かって、棘のある巨大な尾が鞭のようにしなった。
「な……っ!」
男たちが息を飲んだ次の瞬間、太い尾が真っ二つになった。
胴体と切り離された尾を必死に繋ぎとめようとするかのように、血液と体液が糸を引く。
牙は囮。
魔獣は毒を持つ尾で人間を仕留めようとしたが、マルティーヌは完全にその攻撃を見破っていたのだ。
動力を失った尾が水しぶきをあげて川に落ちた時、マルティーヌの姿は大きくバランスを崩した灰翼蜥蜴の背にあった。
長剣の切っ先を二枚の翼の間に突き刺し、それを手がかりに背中にしがみついている。
魔獣は落とされた尾と背中に刺さる剣の痛みでもがき苦しみながら、必死に羽をばたつかせ背中の人間を振り落とそうとしていた。
「やあぁぁぁぁ!」
聞こえてきた大声が悲鳴なのか気合いなのか、男たちには分からなかった。
彼女が振り落とされたように見えた時、魔獣の長い首の根元が大きく下にずれた。
羽ばたきがぴたりと止み、宙を掻いていた手足も止まり、何もかもが一瞬、空中で静止した。
まずは首、直後に胴体が。
切断された魔獣の体は、二つの地響きを立てて仲間たちの死骸の上に落ちた。
その壮絶な光景を背に、マルティーヌは何もない土の上に着地した。
大きく肩で息をつくと、さらに明るく染まった空を見上げる。
もうそこに、黒い影はなかった。
「ああ。終わっ……た」
マルティーヌの手から長剣が落ちた。
終わったのは数時間にも及ぶ死闘と、そして、虚構であった辺境伯令嬢としての自分。
大きな達成感と、開放感が心地よかった。
「マティ!」
「お嬢様!」
向こうから必死に駆け寄ってくる、兄のオリヴィエと顔見知りの団員たちの姿が白く霞んでいく。
急激に身体が冷え、全身から力が抜けた。
男たちが何かを叫んでいるようだったが、もう言葉として認識できなかった。
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