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第4章 禍々しい招待状
訓練初日(1)
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翌日早朝。
大量に積まれた丸太の山を背にして、ラヴェラルタ騎士団の若手とヴィルジールの鷹翼騎士団の騎士が、肩慣らしと称して一対一の手合わせを行っていた。
ヴィルジールはマルクの魔力をくらった後も、マルクが監督する若手と行動を共にすることを強く望んだ。
しかし、さすがに丸太魔獣のような特殊な訓練は素人には無理だ。
基本訓練のみ合同で行い、それ以外は部隊長が持ち回りで指導することで、なんとか納得してもらった。
今朝は初日のため、マルクと、この後の指導を担当するアロイスの他に、オリヴィエも鍛錬場に顔を見せていた。
「我が騎士団から実力者を集めてきたつもりだったが、若手相手にずいぶん押されているな」
部下の戦いぶりを見ていたヴィルジールが苦笑する。
ラヴェラルタ側には正式な剣術を学んだ者が少なく、人間ではなく魔獣と戦うことを想定した訓練を積んでいるため、荒っぽく臨機応変な戦い方をする。
一方、正式な剣術の鍛錬を積んできたヴィルジール側は、基本に忠実で正確な剣さばきだ。
純粋な剣の腕前はヴィルジールの騎士たちの方が上だろうが、人間相手ではありえない、意表をつく多彩な攻撃を仕掛けるラヴェラルタの若者たちに翻弄されていた。
ヴィルジールに次いで腕が立つと思われるジョエルですら、五歳以上は若いロラン相手にかなり手こずっている。
「うちの者たちは剣術としてはめちゃくちゃですから、逆に戦いづらいのでしょう。彼らも慣れてくれば対応できると思いますよ」
オリヴィエが王子に気を使って言う。
昨日、セレスタンの回復術を受けた後、ヴィルジールはオリヴィエと騎士学校以来の模擬戦を行った。
オリヴィエにとって久々の正式な剣術での試合だったこともあり、ヴィルジールもそこそこ善戦していたが、もし、オリヴィエがラヴェラルタ流の戦い方をしていたら、きっと瞬殺されていただろう。
それほど、総合的な戦闘力はラヴェラルタが圧倒的に高いのだ。
たった二週間くらいで、どうにかなるものかよ。
この程度のレベルで、俺らと合同訓練したいなんて、よく言い出せたものだ。
マルクは茶番のような手合わせに心の中で毒づきながら、あくびをかみ殺していた。
「マルク副団長。どうした、寝不足か?」
うわ、めんどうくさい。
昨日、さんざんな目に遭わせてやったのに、ヴィルジールが親しげに声をかけてきた。
マルクとしての初対面だった昨日とも、先日マルティーヌとして接した時とも違う、気さくな明るい雰囲気だ。
団長のオリヴィエも、年若い部下に対して、似たような軽い調子で声をかけている。
それが、相手の心を開かせるための手であることは分かっているから、マルクは逆に警戒する。
彼にはいろんな意味で、決して負けられないのだ。
「一ヶ月後の大規模遠征の準備や、戦略会議で毎日忙しいんだよ」
ぶっきらぼうにそう答えたものの、実際は、明け方近くまでヴィルジール対策を練っていた。
前半は、両親に侍女のコラリーを交えた、お茶会対策。
舞踏会への招待をいかに穏便に辞退するかが、いちばんの問題だった。
第四王子がどういう立場なのかが分からなかったため、想定された問答は数十パターンにも及んだ。
母親とコラリーがこだわったせいで、当日のドレスやアクセサリー、化粧を決めるのにもかなり時間がかかった。
深夜を過ぎてからは、兄二人と騎士団内での対策を話し合った。
先日のヴィルジール滞在時、マルク副団長は不在ということになっていたから、言動に矛盾が出ないよう口裏合わせを綿密に行った。
巨躯魔狼を倒した娘の正体がマルクではないかと疑われるはずだから、そのかわし方も。
敵は一人なのに、相手をする自分は令嬢マルティーヌと副団長マルクという、それぞれに秘密を抱えた正反対の二つの立場だからややこしい。
ちょっと気を抜くと、もう片方の人格や設定がぽろりと出てしまいそうで、不安しかなかった。
明け方近くにようやくベッドに入ったものの、頭の中がいっぱいで目が冴えてしまい、ほとんど眠れなかった。
それもこれも全部お前のせい!
むかむかと腹が立ってきて、ヴィルジールを拒絶するように団員たちに目を向ける。
しかし彼はマルクの視界にわざわざ回り込み、笑顔で話しかけてくる。
「しかしすごいな。今日も君からは一切魔力が感じ取れない」
そう言って、マルクの魔力の気配を探ろうとしているのか、少し目を細めた。
相変わらず失礼な男だ。
「お望みなら、また感じさせて差し上げようか」
ヴィルジールを横目で睨むと、彼は苦笑する。
「いや、遠慮しておこう。足腰が立たなくなって、今日の訓練が台無しになると困るからな。さて、私も少し動くとしよう。ジョエル! 交代だ」
大量に積まれた丸太の山を背にして、ラヴェラルタ騎士団の若手とヴィルジールの鷹翼騎士団の騎士が、肩慣らしと称して一対一の手合わせを行っていた。
ヴィルジールはマルクの魔力をくらった後も、マルクが監督する若手と行動を共にすることを強く望んだ。
しかし、さすがに丸太魔獣のような特殊な訓練は素人には無理だ。
基本訓練のみ合同で行い、それ以外は部隊長が持ち回りで指導することで、なんとか納得してもらった。
今朝は初日のため、マルクと、この後の指導を担当するアロイスの他に、オリヴィエも鍛錬場に顔を見せていた。
「我が騎士団から実力者を集めてきたつもりだったが、若手相手にずいぶん押されているな」
部下の戦いぶりを見ていたヴィルジールが苦笑する。
ラヴェラルタ側には正式な剣術を学んだ者が少なく、人間ではなく魔獣と戦うことを想定した訓練を積んでいるため、荒っぽく臨機応変な戦い方をする。
一方、正式な剣術の鍛錬を積んできたヴィルジール側は、基本に忠実で正確な剣さばきだ。
純粋な剣の腕前はヴィルジールの騎士たちの方が上だろうが、人間相手ではありえない、意表をつく多彩な攻撃を仕掛けるラヴェラルタの若者たちに翻弄されていた。
ヴィルジールに次いで腕が立つと思われるジョエルですら、五歳以上は若いロラン相手にかなり手こずっている。
「うちの者たちは剣術としてはめちゃくちゃですから、逆に戦いづらいのでしょう。彼らも慣れてくれば対応できると思いますよ」
オリヴィエが王子に気を使って言う。
昨日、セレスタンの回復術を受けた後、ヴィルジールはオリヴィエと騎士学校以来の模擬戦を行った。
オリヴィエにとって久々の正式な剣術での試合だったこともあり、ヴィルジールもそこそこ善戦していたが、もし、オリヴィエがラヴェラルタ流の戦い方をしていたら、きっと瞬殺されていただろう。
それほど、総合的な戦闘力はラヴェラルタが圧倒的に高いのだ。
たった二週間くらいで、どうにかなるものかよ。
この程度のレベルで、俺らと合同訓練したいなんて、よく言い出せたものだ。
マルクは茶番のような手合わせに心の中で毒づきながら、あくびをかみ殺していた。
「マルク副団長。どうした、寝不足か?」
うわ、めんどうくさい。
昨日、さんざんな目に遭わせてやったのに、ヴィルジールが親しげに声をかけてきた。
マルクとしての初対面だった昨日とも、先日マルティーヌとして接した時とも違う、気さくな明るい雰囲気だ。
団長のオリヴィエも、年若い部下に対して、似たような軽い調子で声をかけている。
それが、相手の心を開かせるための手であることは分かっているから、マルクは逆に警戒する。
彼にはいろんな意味で、決して負けられないのだ。
「一ヶ月後の大規模遠征の準備や、戦略会議で毎日忙しいんだよ」
ぶっきらぼうにそう答えたものの、実際は、明け方近くまでヴィルジール対策を練っていた。
前半は、両親に侍女のコラリーを交えた、お茶会対策。
舞踏会への招待をいかに穏便に辞退するかが、いちばんの問題だった。
第四王子がどういう立場なのかが分からなかったため、想定された問答は数十パターンにも及んだ。
母親とコラリーがこだわったせいで、当日のドレスやアクセサリー、化粧を決めるのにもかなり時間がかかった。
深夜を過ぎてからは、兄二人と騎士団内での対策を話し合った。
先日のヴィルジール滞在時、マルク副団長は不在ということになっていたから、言動に矛盾が出ないよう口裏合わせを綿密に行った。
巨躯魔狼を倒した娘の正体がマルクではないかと疑われるはずだから、そのかわし方も。
敵は一人なのに、相手をする自分は令嬢マルティーヌと副団長マルクという、それぞれに秘密を抱えた正反対の二つの立場だからややこしい。
ちょっと気を抜くと、もう片方の人格や設定がぽろりと出てしまいそうで、不安しかなかった。
明け方近くにようやくベッドに入ったものの、頭の中がいっぱいで目が冴えてしまい、ほとんど眠れなかった。
それもこれも全部お前のせい!
むかむかと腹が立ってきて、ヴィルジールを拒絶するように団員たちに目を向ける。
しかし彼はマルクの視界にわざわざ回り込み、笑顔で話しかけてくる。
「しかしすごいな。今日も君からは一切魔力が感じ取れない」
そう言って、マルクの魔力の気配を探ろうとしているのか、少し目を細めた。
相変わらず失礼な男だ。
「お望みなら、また感じさせて差し上げようか」
ヴィルジールを横目で睨むと、彼は苦笑する。
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