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第4章 禍々しい招待状
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アロイスとクレマンの共闘を、昨日間近で見た若手らの動きには、明らかな変化があった。
丸太の山は効率よく削られ、負傷者も少ない。
自然と、仲間に対しての励ましや、注意喚起の声を掛け合うようにもなっていた。
信頼関係はまだ強固ではないし、それぞれに迷いや遠慮があるため、昨日よりスピード感は落ちているが、訓練を積めば克服できるだろう。
午後からは、五、六人のチームに分けて、リーダーを指名してもいいかもしれない。
彼らに戦略を立てさせるのは……まだ早いか。
思った以上の若手の成長を満足しながら眺めていると、隣にすっと人が立った。
マルクは、その人物がこちらに近づいてくる気配を早々に察知していたのだが、気づかないふりをしていた。
隣に立たれてもなお、無視を決め込んでいた。
しばらく二人並んで無言のまま立っていたが、しびれを切らしたのかヴィルジールが話しかけてきた。
「今日は魔獣側にはならないのかい? マルク副団長。できれば間近で、君の動きを見てみたいのだが」
名前を呼ばれてしまっては、さすがに返事をしない訳にはいかない。
マルクは丸太魔獣から視線を外すことなく、必要最低限の言葉でそっけなく答える。
「状況次第だ」
つまりそれは、ヴィルジールが見ていなければという意味だ。
彼が見ているとは思ってもいなかったから、昨日は久々の丸太魔獣ではしゃぎすぎた。
もうこれ以上、自分の実力を知られたくない。
だから彼がいる限り、自ら剣を取って指導に当たるつもりはなかった。
「昨日の君の戦いぶりは、すばらしかったよ。この国最強と言われるラヴェラルタ騎士団の、副団長を務めるだけのことはある」
「それはどうも」
なんとなく、嫌な雰囲気を感じて身構えていると、彼が「ところで……」と切り出した。
「先日、巨躯魔狼が出現した話は聞いているか」
ああ、やっぱり来たか。
彼は間違いなく、あの時の娘がマルクではないかと疑っている。
昨日から執拗に絡まれているのはそのせいだ。
だから、あえて自分から話を振る。
「ああ、殿下が国境付近で襲われた話だろう? 報告は受けている。茶色の髪の少女が巨躯魔狼を倒したとか」
「そうだ。あれは君じゃないのか?」
「いや。きっと殿下にそう疑われるだろうとリーヴィも言っていたけど違う。だいたい、殿下を助けたのは女の子だったんだろう? 俺じゃない」
単刀直入な問いに淡々と答える。
「そう、女の子だった。じゃあ、マルティーヌ嬢なのか?」
「あはははは。そんなはずないじゃないか! あのお嬢さまに、そんなことできるわけがない。彼女はほとんど屋敷から出たことないんだ」
自分の本名が出てきたことにぎくりとなったが、それを隠すように笑い飛ばす。
彼はまだ、辺境伯令嬢への疑いも捨てていないようだ。
「じゃあ、やっぱり君だ」
「違うって、言ってるだろう!」
「本当にそうか? 背格好や年齢は同じぐらいに見えるし、君の実力なら一人で巨躯魔狼を倒せるだろう?」
ヴィルジールがしつこく食い下がる。
昨日の丸太魔獣の訓練でのマルクの戦いぶりを見たのだから、そう思うのは当然だ。
だから、謙遜などは一切しない。
「そりゃあ、俺にかかれば巨躯魔狼くらい楽勝だけど、あの日、俺はここにいなかったんだ。急な討伐に出て、そのまましばらく『死の森』の拠点に留まっていたからな」
明け方近くまで兄二人と練った台本通りに、会話は進んでいく。
台本には真実味を持たせるために、魔獣の名前や討伐した頭数、同行した団員の名前まで事細かに決めてあったが、その部分を追求されることはなかった。
王子の興味は、あの時の少女だけに向いていた。
「では、その少女に心当たりはないか」
「全く知らないな。知っていたら、うちの騎士団にスカウトしてるよ。巨躯魔狼を一人で倒せる奴なんか、うちの騎士団でもそういないからな」
「えっ? 君以外にも、巨大魔獣を単独で倒せる者がいるのか?」
予想外の部分に、ヴィルジールが食いついた。
丸太の山は効率よく削られ、負傷者も少ない。
自然と、仲間に対しての励ましや、注意喚起の声を掛け合うようにもなっていた。
信頼関係はまだ強固ではないし、それぞれに迷いや遠慮があるため、昨日よりスピード感は落ちているが、訓練を積めば克服できるだろう。
午後からは、五、六人のチームに分けて、リーダーを指名してもいいかもしれない。
彼らに戦略を立てさせるのは……まだ早いか。
思った以上の若手の成長を満足しながら眺めていると、隣にすっと人が立った。
マルクは、その人物がこちらに近づいてくる気配を早々に察知していたのだが、気づかないふりをしていた。
隣に立たれてもなお、無視を決め込んでいた。
しばらく二人並んで無言のまま立っていたが、しびれを切らしたのかヴィルジールが話しかけてきた。
「今日は魔獣側にはならないのかい? マルク副団長。できれば間近で、君の動きを見てみたいのだが」
名前を呼ばれてしまっては、さすがに返事をしない訳にはいかない。
マルクは丸太魔獣から視線を外すことなく、必要最低限の言葉でそっけなく答える。
「状況次第だ」
つまりそれは、ヴィルジールが見ていなければという意味だ。
彼が見ているとは思ってもいなかったから、昨日は久々の丸太魔獣ではしゃぎすぎた。
もうこれ以上、自分の実力を知られたくない。
だから彼がいる限り、自ら剣を取って指導に当たるつもりはなかった。
「昨日の君の戦いぶりは、すばらしかったよ。この国最強と言われるラヴェラルタ騎士団の、副団長を務めるだけのことはある」
「それはどうも」
なんとなく、嫌な雰囲気を感じて身構えていると、彼が「ところで……」と切り出した。
「先日、巨躯魔狼が出現した話は聞いているか」
ああ、やっぱり来たか。
彼は間違いなく、あの時の娘がマルクではないかと疑っている。
昨日から執拗に絡まれているのはそのせいだ。
だから、あえて自分から話を振る。
「ああ、殿下が国境付近で襲われた話だろう? 報告は受けている。茶色の髪の少女が巨躯魔狼を倒したとか」
「そうだ。あれは君じゃないのか?」
「いや。きっと殿下にそう疑われるだろうとリーヴィも言っていたけど違う。だいたい、殿下を助けたのは女の子だったんだろう? 俺じゃない」
単刀直入な問いに淡々と答える。
「そう、女の子だった。じゃあ、マルティーヌ嬢なのか?」
「あはははは。そんなはずないじゃないか! あのお嬢さまに、そんなことできるわけがない。彼女はほとんど屋敷から出たことないんだ」
自分の本名が出てきたことにぎくりとなったが、それを隠すように笑い飛ばす。
彼はまだ、辺境伯令嬢への疑いも捨てていないようだ。
「じゃあ、やっぱり君だ」
「違うって、言ってるだろう!」
「本当にそうか? 背格好や年齢は同じぐらいに見えるし、君の実力なら一人で巨躯魔狼を倒せるだろう?」
ヴィルジールがしつこく食い下がる。
昨日の丸太魔獣の訓練でのマルクの戦いぶりを見たのだから、そう思うのは当然だ。
だから、謙遜などは一切しない。
「そりゃあ、俺にかかれば巨躯魔狼くらい楽勝だけど、あの日、俺はここにいなかったんだ。急な討伐に出て、そのまましばらく『死の森』の拠点に留まっていたからな」
明け方近くまで兄二人と練った台本通りに、会話は進んでいく。
台本には真実味を持たせるために、魔獣の名前や討伐した頭数、同行した団員の名前まで事細かに決めてあったが、その部分を追求されることはなかった。
王子の興味は、あの時の少女だけに向いていた。
「では、その少女に心当たりはないか」
「全く知らないな。知っていたら、うちの騎士団にスカウトしてるよ。巨躯魔狼を一人で倒せる奴なんか、うちの騎士団でもそういないからな」
「えっ? 君以外にも、巨大魔獣を単独で倒せる者がいるのか?」
予想外の部分に、ヴィルジールが食いついた。
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