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第5章 魔王の目
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「そんなことができるほどの魔術の使い手なら、教会の作った街道の聖結界に穴をあけて魔獣を通し、すぐに塞ぐことだって可能だよな。完全に痕跡を隠すためには、元の結界と全く同質にする必要があるから、魔術師ならかなりの上級者じゃないと無理。でも、教会の魔導師なら簡単だ」
「なるほど! 俺たちも、教会側が結界の瑕疵を隠蔽したんじゃないかって、疑ったくらいだもんな。教会は否定していたが」
「じゃあ、教会が絡んでるの?」
白熱した議論となっている子どもたちに、グラシアンが「決めつけはよくない」と口を挟んだ。
ラヴェラルタ騎士団と教会との関係は良好とは言えないため、どうしても教会側を疑いがちになるのだ。
たしなめられた三人は顔を見合わせた後、おとなしく椅子に戻った。
「レベルの高い魔術師にも可能な方法なのだろう? となれば、この国だけでも十人以上はいるだろうし、隣国にもいる。それに、もしかすると魔王自身でも……」
グラシアンは視線でヴィルジールに見解を求める。
「いや、魔獣を寄せ付けない聖結界は、魔獣を召喚する魔王の能力とは相反する。魔王自身には魔獣が寄り付かなかったが、それは恐れからくるものだ。結界とは別物だろう」
「じゃあ、聖結界を扱う人間が、魔王に付き従っているということ?」
マルティーヌが問うと、彼は首をひねった。
「魔王と人間が協力しているなど、ちょっと考えづらいが、可能性としてはありえるか……? 昔の魔王と同じ能力を持つかどうかも分からないから、何とも言えない」
彼の知る魔王は、運命にもてあそばれた哀れな犠牲者だった。
人間に対して害意を持ったことはなく、自分が森に放ってしまった魔獣の餌食となった人間に、罪悪感を感じていたほどだ。
しかし、現在の魔王は、ヴィルジールという一人の人間に対して、計画的に刺客を送ってきていると思われる。
魔王の生まれ変わりである彼に危機感を持っているのかもしれないが、何か腑に落ちない。
魔王の目的がまったく分からない。
もちろん、正体も——。
しばらく考え込んでいたヴィルジールが思い切ったように口を開いた。
「オリヴィエ団長。ラヴェラルタ騎士団は、半月後に『死の森』への大規模遠征を予定しているのだろう?」
「ああ」
「私をその遠征に同行させてもらえないだろうか」
「殿下を? いや、しかしそれは……」
突然の申し出に困惑したオリヴィエは、同席する他の者たちの顔を見回した。
そこにいるのは元団長と、魔術師と騎士をそれぞれ束ねる二人の副団長だ。
この場での結論は騎士団の総意とすることができる。
中でも、ラヴェラルタ騎士団の戦力の要であるマルティーヌ……副団長のマルクの意向が最重要であるが、彼女は顎の下で指を組んでうつむき、じっと考え込んでいた。
元団長のグラシアンは厳しい表情で腕を組む。
もう一人の副団長のセレスタンは嫌悪感を露わにしているが、これは妹にヴィルジールを近づけたくないからだろう。
ヴィルジールもまた周囲の反応をうかがっていた。
即座に拒否されなかったことを確認した上で、話を続ける。
「そして私を、四百年前の魔王が閉じ込められていた場所まで、連れて行って欲しい」
「まさか、『魔王城』まで行くのか!」
オリヴィエが驚きの声を上げた。
ベレニスが魔王を討伐した後、その場に足を踏み入れた者はいない。
魔王が消えた後も、彼が召喚した凶暴な魔獣たちは子孫を残し、壮絶な生存争いを続けながら、森の奥地を支配している。
ラヴェラルタ騎士団も、魔獣が人間の居住エリアを脅かすことがなければ良いというスタンスだったため、危険を冒してまで巨大魔獣が巣食う森の奥地に入ることはなかった。
今回の大規模遠征も『死の森』の異変の調査と、魔獣を間引いて生態系を整えることが目的だったため、『魔王城』まで騎士団を進めることは全く考えていなかった。
しかし、遠征の計画を立てた当時と今とでは状況が違う。
「新たな魔王が出現した可能性がある以上、そこまで行かないと意味がないだろう」
「確かにそうだが……」
団長という立場にあっても、彼の一存では決められない。
しかし、どういう結論になるかは、もう分かっていた。
「マティ」
隣に座る妹に決断を促すと、彼女は両手でテーブルを強く叩いて、勢いよく立ち上がった。
「なるほど! 俺たちも、教会側が結界の瑕疵を隠蔽したんじゃないかって、疑ったくらいだもんな。教会は否定していたが」
「じゃあ、教会が絡んでるの?」
白熱した議論となっている子どもたちに、グラシアンが「決めつけはよくない」と口を挟んだ。
ラヴェラルタ騎士団と教会との関係は良好とは言えないため、どうしても教会側を疑いがちになるのだ。
たしなめられた三人は顔を見合わせた後、おとなしく椅子に戻った。
「レベルの高い魔術師にも可能な方法なのだろう? となれば、この国だけでも十人以上はいるだろうし、隣国にもいる。それに、もしかすると魔王自身でも……」
グラシアンは視線でヴィルジールに見解を求める。
「いや、魔獣を寄せ付けない聖結界は、魔獣を召喚する魔王の能力とは相反する。魔王自身には魔獣が寄り付かなかったが、それは恐れからくるものだ。結界とは別物だろう」
「じゃあ、聖結界を扱う人間が、魔王に付き従っているということ?」
マルティーヌが問うと、彼は首をひねった。
「魔王と人間が協力しているなど、ちょっと考えづらいが、可能性としてはありえるか……? 昔の魔王と同じ能力を持つかどうかも分からないから、何とも言えない」
彼の知る魔王は、運命にもてあそばれた哀れな犠牲者だった。
人間に対して害意を持ったことはなく、自分が森に放ってしまった魔獣の餌食となった人間に、罪悪感を感じていたほどだ。
しかし、現在の魔王は、ヴィルジールという一人の人間に対して、計画的に刺客を送ってきていると思われる。
魔王の生まれ変わりである彼に危機感を持っているのかもしれないが、何か腑に落ちない。
魔王の目的がまったく分からない。
もちろん、正体も——。
しばらく考え込んでいたヴィルジールが思い切ったように口を開いた。
「オリヴィエ団長。ラヴェラルタ騎士団は、半月後に『死の森』への大規模遠征を予定しているのだろう?」
「ああ」
「私をその遠征に同行させてもらえないだろうか」
「殿下を? いや、しかしそれは……」
突然の申し出に困惑したオリヴィエは、同席する他の者たちの顔を見回した。
そこにいるのは元団長と、魔術師と騎士をそれぞれ束ねる二人の副団長だ。
この場での結論は騎士団の総意とすることができる。
中でも、ラヴェラルタ騎士団の戦力の要であるマルティーヌ……副団長のマルクの意向が最重要であるが、彼女は顎の下で指を組んでうつむき、じっと考え込んでいた。
元団長のグラシアンは厳しい表情で腕を組む。
もう一人の副団長のセレスタンは嫌悪感を露わにしているが、これは妹にヴィルジールを近づけたくないからだろう。
ヴィルジールもまた周囲の反応をうかがっていた。
即座に拒否されなかったことを確認した上で、話を続ける。
「そして私を、四百年前の魔王が閉じ込められていた場所まで、連れて行って欲しい」
「まさか、『魔王城』まで行くのか!」
オリヴィエが驚きの声を上げた。
ベレニスが魔王を討伐した後、その場に足を踏み入れた者はいない。
魔王が消えた後も、彼が召喚した凶暴な魔獣たちは子孫を残し、壮絶な生存争いを続けながら、森の奥地を支配している。
ラヴェラルタ騎士団も、魔獣が人間の居住エリアを脅かすことがなければ良いというスタンスだったため、危険を冒してまで巨大魔獣が巣食う森の奥地に入ることはなかった。
今回の大規模遠征も『死の森』の異変の調査と、魔獣を間引いて生態系を整えることが目的だったため、『魔王城』まで騎士団を進めることは全く考えていなかった。
しかし、遠征の計画を立てた当時と今とでは状況が違う。
「新たな魔王が出現した可能性がある以上、そこまで行かないと意味がないだろう」
「確かにそうだが……」
団長という立場にあっても、彼の一存では決められない。
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「マティ」
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