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第7章 『死の森』の奥地に残されたもの
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「マルク! だめだ、戻れ! お前も巻き込まれるぞ!」
オリヴィエがとっさに叫んだが、止まらなかった。
「あの山を斬るから、みんなを早く避難させて!」
そう言い残すと、次々と魔虫の体に飛び移り、毒のある脚を薙ぎ払いながら、ヴィルジールの元へと向かう。
途中、同じように身動きが取れなくなっていたバスチアンを発見し、彼の背後を塞いでいた胴体を真っ二つにする。
胴体の隙間から林へと抜けられるルートが見えた。
「そこから早く逃げろ!」
そう言い捨て、別の胴体へと飛び移る。
「待て! 行くな!」
「マルク、来るんじゃない! 早く逃げろ!」
バスチアンとヴィルジールが同時に叫んだが、全く聞く気がないから、速度を落とすことすらしなかった。
今も吐き出され続けている魔虫の背に一気に飛び乗ると、そのまま、うねうねと動く背を逆走する。
そして、ヴィルジールがいる場所を少し過ぎてから体の向きを変えて軽く跳ね、長剣を頭上に振り上げる。
「やあぁぁぁーっ!」
節の間をめがけて剣を振り下ろし、自重をかけて足元を切断する。
切断された魔虫の両方の切り口は、一旦、下へ押し込まれた直後、反動で高く跳ね上がる。
そして、巨大な鞭のようにしなった後、凄まじい地響きを立てて石の床に叩きつけられた。
刻まれた魔虫の胴体の多くが押しつぶされ、あるいは弾き飛ばされて大惨事となる。
ヴィルジールの足元もあちこちから激しい振動が伝わり、地震が起きたかのように大きく揺れた。
マルクは彼の目の前に難なく着地すると、左の掌を見つめて呻いた。
「うええぇぇぇ。気持ちわるぅ」
右手は皮の手袋をつけているのに、左手にはない。
白くて華奢ではあるが豆だらけの掌に、緑色の体液がべったりついていた。
「どうしたんだ、それは?」
ヴィルジールが手を覗き込むと、マルクはにっと笑った。
「大針百足には魔術が効かないけど、切り口に触れて体内の魔力をめちゃくちゃにしてやれば効くと思ったんだ。ほら、見てみろよ」
マルクが指差した先には、足が全く動かなくなった魔虫が、力なく穴からぶら下がるように落ちている。
しかし、穴からは依然として、胴体が押し出され続けていた。
マルクが手についた体液を、足元の魔虫の背中に塗りつけながら言う。
「あいつ、どれくらい長いんだろうか。多分、俺の術は尻尾までは届いていないよね」
「そうだな」
今の所、押し出されてくる胴体に生えている脚はぴくりとも動かないが、おそらく、途中から正常な胴体が出て来るだろう。
魔力を壊した部分も、すぐに復活するかもしれない。
「すぐにここを離れよう。俺が道を開けるからついてきて」
足元でじたばたと動く脚を切り落とし、先に行こうとすると、後ろで呻き声が聞こえた。
「ヴィル?」
振り返ると、彼の体がぐらりと傾いた。
それを立て直そうとした足元もおぼつかない。
まさか。
「……いや、大丈夫だ!」
「大丈夫じゃないだろ! 毒か? 毒にやられたのか!」
「……くっ」
がくりと片膝を立ててしゃがみこんだ彼は、右の太腿を押さえている。
ズボンが大きく裂けたり、血が滲んだりしている様子は見られないが、足元の胴体に生えた脚がわずかにかすめたのかもしれない。
「いつ、やられたんだ」
「お前が来る……少し前だ」
「な……っ!」
俺が「逃げろ」と叫んだ時には、すでに傷を負っていたということ?
なのに彼は、「大丈夫だ」と言い張り、「先に逃げろ」と言った。
自力で逃げられる可能性は限りなく低いと分かっていたはずなのに……。
「何やってんだよ! なんで早く助けを呼ばなかったんだ!」
かっとなって叫んだものの、今、ここは最も危険な場所だ。
仲間を巻き添えにしかえない場所に、助けを呼ぶことなんてできない。
犠牲者は自分一人だけでいい——。
自分が同じ状況でも、間違いなく彼と同じ判断をする。
彼のことを責められない。
「あーっ、もう!」
マルクは両手で頭をくしゃくしゃと掻きむしって気持ちを入れ替える。
「いいから早く逃げるぞ! 立てるか?」
「ああ……。お前に、魔力を乱された時よりはマシ……だよ」
彼に肩を貸してなんとか立たせたものの、足元がふらついている。
軽口を叩く口元だけは笑っているが、顔色がみるみるうちに悪くなっていく。
これからさらに悪化することを考えると、自力での脱出は困難だ。
「いや、無理そうだな。担いでいくよ」
「な……にを、言ってるんだ。そんな……」
強がっているが、明らかに悪化が早い。
息が荒くなり、話すことも辛そうだ。
「…………う」
貸した肩にずしりと体重がかかった。
背後の大針百足の様子をちらりと確認すると、押し出されてくる胴体は屍のようで動く気配はない。
逃げるなら今だ。
早く逃げて治療を受けさせないと、彼の命が危ない。
「身体強化を使うから問題ない。ほら、俺に乗って」
肩に回されていた腕をぐいと引いて、彼の体の下に入り込もうとしたとき。
「ベレニス! 左にかわせ!」
突然、背後から聞こえてきた叫び声に、自然と身体が反応した。
ヴィルジールを半分肩に担いだ状態で、左側に身体を寄せて屈み込むと、風を鋭く切る音が右耳をかすめていった。
オリヴィエがとっさに叫んだが、止まらなかった。
「あの山を斬るから、みんなを早く避難させて!」
そう言い残すと、次々と魔虫の体に飛び移り、毒のある脚を薙ぎ払いながら、ヴィルジールの元へと向かう。
途中、同じように身動きが取れなくなっていたバスチアンを発見し、彼の背後を塞いでいた胴体を真っ二つにする。
胴体の隙間から林へと抜けられるルートが見えた。
「そこから早く逃げろ!」
そう言い捨て、別の胴体へと飛び移る。
「待て! 行くな!」
「マルク、来るんじゃない! 早く逃げろ!」
バスチアンとヴィルジールが同時に叫んだが、全く聞く気がないから、速度を落とすことすらしなかった。
今も吐き出され続けている魔虫の背に一気に飛び乗ると、そのまま、うねうねと動く背を逆走する。
そして、ヴィルジールがいる場所を少し過ぎてから体の向きを変えて軽く跳ね、長剣を頭上に振り上げる。
「やあぁぁぁーっ!」
節の間をめがけて剣を振り下ろし、自重をかけて足元を切断する。
切断された魔虫の両方の切り口は、一旦、下へ押し込まれた直後、反動で高く跳ね上がる。
そして、巨大な鞭のようにしなった後、凄まじい地響きを立てて石の床に叩きつけられた。
刻まれた魔虫の胴体の多くが押しつぶされ、あるいは弾き飛ばされて大惨事となる。
ヴィルジールの足元もあちこちから激しい振動が伝わり、地震が起きたかのように大きく揺れた。
マルクは彼の目の前に難なく着地すると、左の掌を見つめて呻いた。
「うええぇぇぇ。気持ちわるぅ」
右手は皮の手袋をつけているのに、左手にはない。
白くて華奢ではあるが豆だらけの掌に、緑色の体液がべったりついていた。
「どうしたんだ、それは?」
ヴィルジールが手を覗き込むと、マルクはにっと笑った。
「大針百足には魔術が効かないけど、切り口に触れて体内の魔力をめちゃくちゃにしてやれば効くと思ったんだ。ほら、見てみろよ」
マルクが指差した先には、足が全く動かなくなった魔虫が、力なく穴からぶら下がるように落ちている。
しかし、穴からは依然として、胴体が押し出され続けていた。
マルクが手についた体液を、足元の魔虫の背中に塗りつけながら言う。
「あいつ、どれくらい長いんだろうか。多分、俺の術は尻尾までは届いていないよね」
「そうだな」
今の所、押し出されてくる胴体に生えている脚はぴくりとも動かないが、おそらく、途中から正常な胴体が出て来るだろう。
魔力を壊した部分も、すぐに復活するかもしれない。
「すぐにここを離れよう。俺が道を開けるからついてきて」
足元でじたばたと動く脚を切り落とし、先に行こうとすると、後ろで呻き声が聞こえた。
「ヴィル?」
振り返ると、彼の体がぐらりと傾いた。
それを立て直そうとした足元もおぼつかない。
まさか。
「……いや、大丈夫だ!」
「大丈夫じゃないだろ! 毒か? 毒にやられたのか!」
「……くっ」
がくりと片膝を立ててしゃがみこんだ彼は、右の太腿を押さえている。
ズボンが大きく裂けたり、血が滲んだりしている様子は見られないが、足元の胴体に生えた脚がわずかにかすめたのかもしれない。
「いつ、やられたんだ」
「お前が来る……少し前だ」
「な……っ!」
俺が「逃げろ」と叫んだ時には、すでに傷を負っていたということ?
なのに彼は、「大丈夫だ」と言い張り、「先に逃げろ」と言った。
自力で逃げられる可能性は限りなく低いと分かっていたはずなのに……。
「何やってんだよ! なんで早く助けを呼ばなかったんだ!」
かっとなって叫んだものの、今、ここは最も危険な場所だ。
仲間を巻き添えにしかえない場所に、助けを呼ぶことなんてできない。
犠牲者は自分一人だけでいい——。
自分が同じ状況でも、間違いなく彼と同じ判断をする。
彼のことを責められない。
「あーっ、もう!」
マルクは両手で頭をくしゃくしゃと掻きむしって気持ちを入れ替える。
「いいから早く逃げるぞ! 立てるか?」
「ああ……。お前に、魔力を乱された時よりはマシ……だよ」
彼に肩を貸してなんとか立たせたものの、足元がふらついている。
軽口を叩く口元だけは笑っているが、顔色がみるみるうちに悪くなっていく。
これからさらに悪化することを考えると、自力での脱出は困難だ。
「いや、無理そうだな。担いでいくよ」
「な……にを、言ってるんだ。そんな……」
強がっているが、明らかに悪化が早い。
息が荒くなり、話すことも辛そうだ。
「…………う」
貸した肩にずしりと体重がかかった。
背後の大針百足の様子をちらりと確認すると、押し出されてくる胴体は屍のようで動く気配はない。
逃げるなら今だ。
早く逃げて治療を受けさせないと、彼の命が危ない。
「身体強化を使うから問題ない。ほら、俺に乗って」
肩に回されていた腕をぐいと引いて、彼の体の下に入り込もうとしたとき。
「ベレニス! 左にかわせ!」
突然、背後から聞こえてきた叫び声に、自然と身体が反応した。
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