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第7章 『死の森』の奥地に残されたもの
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どうしたらいい。
あの魔力を止められない限り、僕らには破滅しかない。
以前、ヴィルジールは「魔王の体に魔力が限界まで溜まって放出されると、目の前に黒い穴が現れ、魔獣が這い出してくる」と説明していた。
「魔王の魔力が尽きると穴は閉じる」のだとも。
つまり、外部からの魔力の注入が必要なのだ。
しかし、この場に魔王はいない。
何らかの役割を果たしていた可能性のある石造りの椅子も、何者かに持ち出されている。
残っているのは、円形に敷き詰められた石の床だけだ。
「ヴィルは、石の縁に沿って見えない壁があったと言っていた。四百年経っても、床の上は風化した様子はみられない。だから、これも重要な要素の一つのはず」
魔力を研ぎ澄まし、舞台のようにも見える石の床に何か異状がないかと探ってみる。
それは、この場に到着してから、何度も繰り返して試してみたことだった。
石の円の中央に、凄まじい魔力が渦巻いている。
その周囲に、魔虫が発散するおぞましい魔力が吹き荒れ、奮闘する仲間たちの魔力も混ざり合う。
どんな悪条件でも、不穏なものがあれば必ず探し出せる自信があった——のに。
セレスタンは自分の能力不足に打ちひしがれる。
見た目には怪しさしかないこの円形の場所そのものからは、何の魔力も感じ取れないのだ。
「どうして何もみつからないんだよ! なぜなんだ!」
悩んでいる僅かな時間に、速度を上げて這い出してくる大針百足は、大きな山なりになった。
そして、「だめだ、戻れ!」という団長の悲痛な叫びを無視して、小さな人影が魔虫の陰から飛び出した。
「マティ! 嘘だろ? 多分、誰かを助けに行ったんだ!」
最強魔術師を自認しているのに、何もできない。
明らかに危険な場所に率先して出て行く妹を、ただ見ているだけだなんて——。
「……ああ! もういいっ! 無駄でも何でもやってみなきゃ分からない!」
「セレス?」
セレスタンは立ち上がると、人差し指を伸ばした右手を前に突き出した。
石の床の縁に照準を定め、極小に凝縮させた魔力の塊を打ち込む。
しかし、着弾したはずの魔力は何も起こさなかった。
石を貫通するでも、跳ね返されるでもなく、消滅したのだ。
魔力攻撃が効かない——?
そういえば。
ここに着いた時に最初に放った魔力も……消えていた?
あの時は魔力を受けた時の周囲の反応だけを気にして、放った魔力そのものの行方を意識していなかった。
「うわあぁぁぁー! こんなの、ありえないっ!」
絶叫したセレスタンは、近くに置かれていた予備の長剣を手に取ると駆け出した。
普段、武器を手にすることはほとんどないし、身体強化も得意ではない。
しかし、大事な妹を救うには物理攻撃しかなかった。
それすら、正解かどうかは分からない。
「うおぉぉぉ!」
石の床に必死に剣を打ちおろしたが、その硬さにあっさり弾き返され、土の上に無様に尻餅をついた。
たった一撃で、腕から肩へと伝わった衝撃でじんじんする。
その痛みを治癒術で瞬時に消して立ち上がる。
「くそっ! こいつっ! くそっ!」
非力なセレスタンであっても、普通の石なら少しぐらい欠けてもおかしくないのだが、傷一つつかなかった。
それでも必死に剣を打ちおろしていると、追いかけて来たジョエルが隣に並んだ。
「セレスっ! この石を割ればいいんですか。僕も手伝います!」
「多分、この石の円は魔道具の一部なんだ! だから、叩き壊せ!」
「はいっ!」
彼はセレスタンより武器の扱いや強化術に慣れているものの、さすがに長剣で石を叩き壊した経験はない。
二人で並んで剣を振るっても、全く成果を出せなかった。
「あたしも、やるよ!」
パメラや他の魔術師たちが武器を手に取り、次々と石の床への攻撃に加わった。
しかし、戦闘職ではない彼らでは結果は同じだった。
石に弾き返され土に倒れても、すぐさま立ち上がり石の床に挑む。
それでも、皆、少しでもこの危機に役立ちたいと必死だった。
「皆どいてろ! 俺がやる! この石を割ればいいんだな?」
退却してきたクレマンが、魔術師たちの必死の行動を見て何をすべきか察した。
「うりゃあ!」
ラヴェラルタ騎士団きっての力自慢のクレマンが強化術を使っても、強固な石は一撃だけでは欠片すら飛ばなかった。
彼は、同じ場所に何度も剣を振り下ろす。
「くっそぉ! まだまだっ!」
「俺も手伝うぜ!」
クレマンの剣の攻撃の延長上を、後から駆けつけたバスチアンが槍でがつがつと突く。
「二人に回復術をかけろ! 全開にだっ!」
「虫を近づけるな! 叩き切れ!」
魔術師たちは彼らに治癒術と回復術を施し、他の騎士たちはこちらに向かってくる魔虫から防御する。
クレマンが全力で十回ほど剣を振り落とした時、小さな石の欠片が飛び散った。
バスチアンの槍の先には小さな窪みができている。
「いけるぞ! あと少しだ!」
「バスチアン、次で決めるぞ! せーのっ!」
「はあっ!」
気合の入った剣と槍が、同時に石に振り下ろされた。
ぴしりと音を立てて生まれたひび割れが、剣先から槍の穂先へ繋がる。
そして、その先へと伸びていった。
あの魔力を止められない限り、僕らには破滅しかない。
以前、ヴィルジールは「魔王の体に魔力が限界まで溜まって放出されると、目の前に黒い穴が現れ、魔獣が這い出してくる」と説明していた。
「魔王の魔力が尽きると穴は閉じる」のだとも。
つまり、外部からの魔力の注入が必要なのだ。
しかし、この場に魔王はいない。
何らかの役割を果たしていた可能性のある石造りの椅子も、何者かに持ち出されている。
残っているのは、円形に敷き詰められた石の床だけだ。
「ヴィルは、石の縁に沿って見えない壁があったと言っていた。四百年経っても、床の上は風化した様子はみられない。だから、これも重要な要素の一つのはず」
魔力を研ぎ澄まし、舞台のようにも見える石の床に何か異状がないかと探ってみる。
それは、この場に到着してから、何度も繰り返して試してみたことだった。
石の円の中央に、凄まじい魔力が渦巻いている。
その周囲に、魔虫が発散するおぞましい魔力が吹き荒れ、奮闘する仲間たちの魔力も混ざり合う。
どんな悪条件でも、不穏なものがあれば必ず探し出せる自信があった——のに。
セレスタンは自分の能力不足に打ちひしがれる。
見た目には怪しさしかないこの円形の場所そのものからは、何の魔力も感じ取れないのだ。
「どうして何もみつからないんだよ! なぜなんだ!」
悩んでいる僅かな時間に、速度を上げて這い出してくる大針百足は、大きな山なりになった。
そして、「だめだ、戻れ!」という団長の悲痛な叫びを無視して、小さな人影が魔虫の陰から飛び出した。
「マティ! 嘘だろ? 多分、誰かを助けに行ったんだ!」
最強魔術師を自認しているのに、何もできない。
明らかに危険な場所に率先して出て行く妹を、ただ見ているだけだなんて——。
「……ああ! もういいっ! 無駄でも何でもやってみなきゃ分からない!」
「セレス?」
セレスタンは立ち上がると、人差し指を伸ばした右手を前に突き出した。
石の床の縁に照準を定め、極小に凝縮させた魔力の塊を打ち込む。
しかし、着弾したはずの魔力は何も起こさなかった。
石を貫通するでも、跳ね返されるでもなく、消滅したのだ。
魔力攻撃が効かない——?
そういえば。
ここに着いた時に最初に放った魔力も……消えていた?
あの時は魔力を受けた時の周囲の反応だけを気にして、放った魔力そのものの行方を意識していなかった。
「うわあぁぁぁー! こんなの、ありえないっ!」
絶叫したセレスタンは、近くに置かれていた予備の長剣を手に取ると駆け出した。
普段、武器を手にすることはほとんどないし、身体強化も得意ではない。
しかし、大事な妹を救うには物理攻撃しかなかった。
それすら、正解かどうかは分からない。
「うおぉぉぉ!」
石の床に必死に剣を打ちおろしたが、その硬さにあっさり弾き返され、土の上に無様に尻餅をついた。
たった一撃で、腕から肩へと伝わった衝撃でじんじんする。
その痛みを治癒術で瞬時に消して立ち上がる。
「くそっ! こいつっ! くそっ!」
非力なセレスタンであっても、普通の石なら少しぐらい欠けてもおかしくないのだが、傷一つつかなかった。
それでも必死に剣を打ちおろしていると、追いかけて来たジョエルが隣に並んだ。
「セレスっ! この石を割ればいいんですか。僕も手伝います!」
「多分、この石の円は魔道具の一部なんだ! だから、叩き壊せ!」
「はいっ!」
彼はセレスタンより武器の扱いや強化術に慣れているものの、さすがに長剣で石を叩き壊した経験はない。
二人で並んで剣を振るっても、全く成果を出せなかった。
「あたしも、やるよ!」
パメラや他の魔術師たちが武器を手に取り、次々と石の床への攻撃に加わった。
しかし、戦闘職ではない彼らでは結果は同じだった。
石に弾き返され土に倒れても、すぐさま立ち上がり石の床に挑む。
それでも、皆、少しでもこの危機に役立ちたいと必死だった。
「皆どいてろ! 俺がやる! この石を割ればいいんだな?」
退却してきたクレマンが、魔術師たちの必死の行動を見て何をすべきか察した。
「うりゃあ!」
ラヴェラルタ騎士団きっての力自慢のクレマンが強化術を使っても、強固な石は一撃だけでは欠片すら飛ばなかった。
彼は、同じ場所に何度も剣を振り下ろす。
「くっそぉ! まだまだっ!」
「俺も手伝うぜ!」
クレマンの剣の攻撃の延長上を、後から駆けつけたバスチアンが槍でがつがつと突く。
「二人に回復術をかけろ! 全開にだっ!」
「虫を近づけるな! 叩き切れ!」
魔術師たちは彼らに治癒術と回復術を施し、他の騎士たちはこちらに向かってくる魔虫から防御する。
クレマンが全力で十回ほど剣を振り落とした時、小さな石の欠片が飛び散った。
バスチアンの槍の先には小さな窪みができている。
「いけるぞ! あと少しだ!」
「バスチアン、次で決めるぞ! せーのっ!」
「はあっ!」
気合の入った剣と槍が、同時に石に振り下ろされた。
ぴしりと音を立てて生まれたひび割れが、剣先から槍の穂先へ繋がる。
そして、その先へと伸びていった。
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