【完結】「ラヴェラルタ辺境伯令嬢は病弱」ってことにしておいてください

平田加津実

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第8章 舞踏会の対策会議

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 話を切り出せないロランを見かねて、ヴィルジールが説明を始めた。

「実はさっき、ロランに、私がベレニスの生まれ変わりではないかと疑われたんだ」
「は? なんで殿下がベレニスなんだ?」

 マルクがきょとんとなった。
 ロランの疑念のどこに奇妙な点があるのか、すぐには気づかない。

「私の剣の型がベレニスと全く同じなのだそうだ」
「そりゃあ、そうだろうけど…………って、あれ?」

 それって、ロランがベレニスを知ってるってこと?
 そうじゃなきゃ、ヴィルジール殿下をベレニスの生まれ変わりだと間違えるはずがない。

「まさか……」
「そう。彼も生まれ変わりだったんだ。名は……エドモン」
「エドモン! 本当に?」

 マルクは会議テーブルの向こうから身を乗り出した。

 ベレニスの仲間は、一緒に魔王を討伐した魔導師チェスラフ以外はあまり知られていない。
 『死の森』の英雄の碑に名前があった弓師ラウルと魔術師のアンナは、この場にいる皆も認識しているが、残りの一人であるエドモンの名にぴんと来る者はいなかった。

 マルク以外は——。

 もし、この場にアロイスがいれば、同じような反応をしただろうが。

「うっわーっ! ほんとかっ!」

 マルクは慌てて駆け寄ると、オリヴィエを押しのけてロランの前に立った。
 そして彼の両手を取って、上下にぶんぶん振る。

「すごいっっ! ロランがエドモンだったなんて! こんな偶然あるかよ!」

 周りの者たちはマルクの嬉しそうな様子を見て、ようやくエドモンが何者か気づいたらしく、どよめきが起こる。

「え? え? え? な、なんでマルクが?」

 ロランの方は、なぜマルクが、歴史上有名でもないエドモンという名に、これほど興奮しているのかが分からない。
 混乱したような顔で、隣に立つヴィルジールを見上げる。

「だから、言っただろう。私はベレニスの生まれ変わりではないと」
「じゃあ、ま……さか、マルクが……?」

 ヴィルジールが頷くと同時に、マルクが叫ぶように言う。

「そうだよっ! ベレニスは俺だ」

 てっきり、ロランも四百年越しの再会を喜んでくれるかと思ったのに、彼はマルクの手を振り払うと、頭を抱えた。

「うそだーっ! どうしてヴィルジール殿下じゃないんだよ!」
「悪かったな、俺で。なんだよ、せっかく会えたのに喜んでくれないのかよ!」

 ロランは納得がいかないのか、うつむいたまま呻く。

「それはもちろん嬉しいよ。うれしいけど、俺はずっと殿下がそうだって思い込んでいたんだ。……だって、マルクは全然違うじゃないか。だいたい、ベレニスはそんなチビじゃなかった」
「はぁ? それを言うなら、お前だってそうだろ? 今のお前の身長は、俺とさほど変わらないじゃないか!」

 言い返されたロランがむっとして顔を上げると、真正面からマルクと目が合った。
 その高さはロランの方がわずかに高いものの、ほぼ同じだ。
 四百年前、二人の体格はヴィルジールと同じくらいだった。
 その頃も向かい合ったときの目の高さは同じだった。
 今は互いに瞳の色が全く違うが、どこか懐かしい思いがする。

 二人はぷっと吹き出した。

「まぁ……、それならそれで、納得できるかな。戦闘スタイルは違うけど、マルクの規格外の強さはベレニスと同じだもんな。とんでもない魔力量も確かにそうだ」
「同じ時代で会えてよかったよ。エドモン」
「ああ、そうだな。ベレニス」

 二人は昔の名前で呼び合うと、固い握手を交わした。

「今日はここにいないけど、ラウルの生まれ変わりもいるんだぜ」
「ええっ! まじか? 誰だ」

 ロランはかつての仲間であった弓師を思い出すと同時にピンとくる。

「……まさか、アロイス?」
「うん。彼も『死の森』で突然思い出したんだよ」
「そっか……。でも、アロイスなら体格と酒が飲めないこと以外は全く違和感ないな」

 ロランが苦笑する。
 腕の立つ剣士でありながら弓の名手でもある彼は、気質もラウルに似ている。

「だろぉ。もしかしたら、アンナとチェスラフもどこかにいるかも……」
「だったらいいな」

 どこか同窓会のような雰囲気になっていると、団長がストップをかける。

「おい、お前たち。感動の再会で積もる話もあるかもしれんが、これだけのメンバーを集めているんだから時間は無駄にできない。会議を続けるぞ」
「はーい」

 マルクは渋々自席に戻る。

「ロラン。マルクの秘密を知ったからには、お前にも今回の計画に加わってもらう。とりあえず、部屋の隅で話を聞いていてくれ。かなり衝撃的な内容だと思うが、会議中は質問禁止だ。会議が終わってからまとめて説明するから黙っていてくれ」
「了解です」

 ロラン緊張した面持ちで答えると、予備の椅子を持って来て部屋の隅に置いた。
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