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第8章 舞踏会の対策会議
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午前の会議の間、ロランはできる限り大人しくしていようと努力していた。
それでも、「ええっ?」とか「あっ!」などの驚きの声が漏れていたし、思わず椅子から立ち上がってしまうことも何度かあった。
それはそうだろう。
この国の王太子が魔王である可能性が高いという話だったのだから——。
そして、マルティーヌ嬢が招待されている舞踏会を利用して王都に乗り込み、調査を行うというとんでもない計画だったのだ。
実行に移さずとも、この会議が開かれたという事実だけで、反逆罪とみなされる内容だ。
会議の後半には驚く気力もなくなったのか、彼はただ青い顔をして蝋人形のように座っているだけになった。
作戦の変更点が大まかに洗い出された頃、コツコツと会議室の扉が叩かれた。
「皆様、昼食をお持ちしました」との声にオリヴィエが顔を上げる。
「ああ、もうこんな時間か。それじゃあ、昼休憩にしよう。入っていいぞ」
団長が扉の外に声をかけると、ラヴェラルタ家の執事と侍女が料理の皿や鍋、ポットなどが乗ったワゴンを押して、会議室内に入ってきた。
そして、散らばっている地図や書類などをテーブルの中央に簡単に集めると、それぞれの前に食事を配り始めた。
今日は魔猪肉のローストがたっぷり挟まれたサンドイッチと、秋野菜のミルクシチュー。
会議中の昼食のため簡単な食事ではあるが、使われている素材は上等で量もたっぷりある。
緊張で張り詰めていた室内が、一気に和らいだ。
「おい、ロラン。お前も空いた席に座れ」
バスチアンに声をかけられて、ロランははっと顔を上げた。
ついさっき、バスチアンが魔獣素材を卸しに行くという名目で王都に行く時に、ロランを見習いとして連れて行くという案が、本人の了承を得ることなく決定した。
舞踏会に先んじて王都に向かい諜報活動をするらしいのだが、ロランはまだ自分が何に巻き込まれているのか分からないでいた。
「よろしくたのむぜ、相棒! お前は身軽で腕が立つし、魔力の気配も断てる。俺がしっかりと仕込んでやるから、心配すんな」
バスチアンに背中をばしりと叩かれ、彼は戸惑いながらも「よろしくお願いします」と答えるしかなかった。
「ロラン、こっちに来いよ!」
マルクが手招きし、普段はアロイスが座っている席に誘うと、彼は憔悴した様子でよろよろとやってきた。
ベレニスとラウルの生まれ変わりの事実だけでも彼にとって重大事件だったはずなのに、その直後の情報過多な重い会議だ。
彼の理解が追いつけなくても当然だ。
彼にはこれから短期間のうちに、さらに多くの事実や計画が叩き込まれることになる。
同じ生まれ変わりでも、最初から精鋭部隊にいて全てを把握していたアロイスと違って、まっさらな状態で計画に途中から放り込まれることになったロランの負担は大きい。
少し……いや、かなり気の毒に思えてくる。
「初めて聞くことばかりで驚いただろうけど、理解できたか?」
ロランにこそっと耳打ちすると、彼は肩をすくめる。
「とりあえず、すげえやばい話をしてるってことは分かったよ」
クレマンも少年を気遣って、サンドイッチの盛られた皿を彼のすぐ目の前まで近づけてくれた。
「ロラン、大丈夫かぁ? 会議中の飯はラヴェラルタ家から届けられるから、めちゃくちゃ旨いぞ。ほら、たくさん食えよ」
「ありがとうございます」
ロランは目の前のサンドイッチを一切れつまむと、かじりついた。
「うんまっ!」
大きく目を見開いてそう言うと、あっという間に一切れを完食した。
そして、水をがぶ飲みすると、ようやく落ち着いたようだ。
「なぁ、マルク。これまでの会議のことで、聞きたいことがたくさんあるんだ。飯を食いながら聞いてもいいか?」
「えーと、そうだなぁ。内容によるかな」
何を聞かれても、そう簡単に説明できない気がして迷っていると、オリヴィエが口を挟んできた。
「ロラン。昼休憩にそんな話をしても、中途半場で終わってしまう。後で全部説明するから、もう少し待ってくれ」
「……はい」
「それより、お前がエドモンという男の生まれ変わりと気づいたきっかけは、なんだったんだ」
「それは……黒鎧猿の大群を討伐していたときで……」
ロランは手にしていた二つ目のサンドイッチを皿に戻すと、少し言いづらそうにしながらも話し始めた。
ラヴェラルタ騎士団の精鋭部隊が『魔王城』を目指していた頃、ロランが参加していた討伐部隊は、三十から四十人程度の班に分かれて、『死の森』の中にある騎士団の拠点から奥地へと討伐を進めていた。
その日、ロランが所属していた班は五十頭以上の黒鎧猿の大群に遭遇した。
討伐は順調に進んでいたが、ロランは途中で逃げた一頭を追って班から外れた。
一頭ぐらいならすぐに始末できると考えての、単独行動だった。
同じ班の仲間たちは、彼がその場から消えたことにしばらく気づかなかった。
「甘かったんです。単に臆病な個体が逃げただけだとしか、思っていませんでした。黒鎧猿の知能が高いことは知ってたけど、まさか、罠を仕掛けるほどの知恵があったなんて……。俺は奴らに、まんまとおびき出されたんです」
ロランは仲間たちからかなり離れた場所で、木の上から大きな石を両手に持った複数の猿たちに襲いかかられた。
目の前を逃げる猿に集中していたために、防御の身体強化は十分ではなく、後頭部への最初の強打で地面に崩れ落ちることとなった。
その後、石を使った容赦ない攻撃を受ける。
「もう俺、死ぬんだって思った時、妙な既視感を感じました。前にもこんなことがあった……って。それが、エドモンの記憶だった」
それでも、「ええっ?」とか「あっ!」などの驚きの声が漏れていたし、思わず椅子から立ち上がってしまうことも何度かあった。
それはそうだろう。
この国の王太子が魔王である可能性が高いという話だったのだから——。
そして、マルティーヌ嬢が招待されている舞踏会を利用して王都に乗り込み、調査を行うというとんでもない計画だったのだ。
実行に移さずとも、この会議が開かれたという事実だけで、反逆罪とみなされる内容だ。
会議の後半には驚く気力もなくなったのか、彼はただ青い顔をして蝋人形のように座っているだけになった。
作戦の変更点が大まかに洗い出された頃、コツコツと会議室の扉が叩かれた。
「皆様、昼食をお持ちしました」との声にオリヴィエが顔を上げる。
「ああ、もうこんな時間か。それじゃあ、昼休憩にしよう。入っていいぞ」
団長が扉の外に声をかけると、ラヴェラルタ家の執事と侍女が料理の皿や鍋、ポットなどが乗ったワゴンを押して、会議室内に入ってきた。
そして、散らばっている地図や書類などをテーブルの中央に簡単に集めると、それぞれの前に食事を配り始めた。
今日は魔猪肉のローストがたっぷり挟まれたサンドイッチと、秋野菜のミルクシチュー。
会議中の昼食のため簡単な食事ではあるが、使われている素材は上等で量もたっぷりある。
緊張で張り詰めていた室内が、一気に和らいだ。
「おい、ロラン。お前も空いた席に座れ」
バスチアンに声をかけられて、ロランははっと顔を上げた。
ついさっき、バスチアンが魔獣素材を卸しに行くという名目で王都に行く時に、ロランを見習いとして連れて行くという案が、本人の了承を得ることなく決定した。
舞踏会に先んじて王都に向かい諜報活動をするらしいのだが、ロランはまだ自分が何に巻き込まれているのか分からないでいた。
「よろしくたのむぜ、相棒! お前は身軽で腕が立つし、魔力の気配も断てる。俺がしっかりと仕込んでやるから、心配すんな」
バスチアンに背中をばしりと叩かれ、彼は戸惑いながらも「よろしくお願いします」と答えるしかなかった。
「ロラン、こっちに来いよ!」
マルクが手招きし、普段はアロイスが座っている席に誘うと、彼は憔悴した様子でよろよろとやってきた。
ベレニスとラウルの生まれ変わりの事実だけでも彼にとって重大事件だったはずなのに、その直後の情報過多な重い会議だ。
彼の理解が追いつけなくても当然だ。
彼にはこれから短期間のうちに、さらに多くの事実や計画が叩き込まれることになる。
同じ生まれ変わりでも、最初から精鋭部隊にいて全てを把握していたアロイスと違って、まっさらな状態で計画に途中から放り込まれることになったロランの負担は大きい。
少し……いや、かなり気の毒に思えてくる。
「初めて聞くことばかりで驚いただろうけど、理解できたか?」
ロランにこそっと耳打ちすると、彼は肩をすくめる。
「とりあえず、すげえやばい話をしてるってことは分かったよ」
クレマンも少年を気遣って、サンドイッチの盛られた皿を彼のすぐ目の前まで近づけてくれた。
「ロラン、大丈夫かぁ? 会議中の飯はラヴェラルタ家から届けられるから、めちゃくちゃ旨いぞ。ほら、たくさん食えよ」
「ありがとうございます」
ロランは目の前のサンドイッチを一切れつまむと、かじりついた。
「うんまっ!」
大きく目を見開いてそう言うと、あっという間に一切れを完食した。
そして、水をがぶ飲みすると、ようやく落ち着いたようだ。
「なぁ、マルク。これまでの会議のことで、聞きたいことがたくさんあるんだ。飯を食いながら聞いてもいいか?」
「えーと、そうだなぁ。内容によるかな」
何を聞かれても、そう簡単に説明できない気がして迷っていると、オリヴィエが口を挟んできた。
「ロラン。昼休憩にそんな話をしても、中途半場で終わってしまう。後で全部説明するから、もう少し待ってくれ」
「……はい」
「それより、お前がエドモンという男の生まれ変わりと気づいたきっかけは、なんだったんだ」
「それは……黒鎧猿の大群を討伐していたときで……」
ロランは手にしていた二つ目のサンドイッチを皿に戻すと、少し言いづらそうにしながらも話し始めた。
ラヴェラルタ騎士団の精鋭部隊が『魔王城』を目指していた頃、ロランが参加していた討伐部隊は、三十から四十人程度の班に分かれて、『死の森』の中にある騎士団の拠点から奥地へと討伐を進めていた。
その日、ロランが所属していた班は五十頭以上の黒鎧猿の大群に遭遇した。
討伐は順調に進んでいたが、ロランは途中で逃げた一頭を追って班から外れた。
一頭ぐらいならすぐに始末できると考えての、単独行動だった。
同じ班の仲間たちは、彼がその場から消えたことにしばらく気づかなかった。
「甘かったんです。単に臆病な個体が逃げただけだとしか、思っていませんでした。黒鎧猿の知能が高いことは知ってたけど、まさか、罠を仕掛けるほどの知恵があったなんて……。俺は奴らに、まんまとおびき出されたんです」
ロランは仲間たちからかなり離れた場所で、木の上から大きな石を両手に持った複数の猿たちに襲いかかられた。
目の前を逃げる猿に集中していたために、防御の身体強化は十分ではなく、後頭部への最初の強打で地面に崩れ落ちることとなった。
その後、石を使った容赦ない攻撃を受ける。
「もう俺、死ぬんだって思った時、妙な既視感を感じました。前にもこんなことがあった……って。それが、エドモンの記憶だった」
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