弓術師テイマー少女の異世界旅 ~なぜか動物系の魔物たちにめちゃくちゃ好かれるんですけど!?~

妖精 美瑠

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第1章 異世界 出会い編

第12話 紅牙と決戦 後編

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 紅牙の拠点、最奥。
 深紅の衣をまとった女――紅牙幹部カリナが、冷たい視線で私たちを見据えていた。その隣には、太った体を揺らす奴隷商ギルデアの姿。

「ふふ……よくここまで来たわね。でも、ここがあなたたちの終点よ。」

「ふざけないでっ! これ以上……仲間を傷つけさせない!」

 ミルフィーが矢を構え、雪と雪風が唸り声を上げる。私も弓を握りしめ、息を整えた。


---


「いっけぇぇぇっ!!」

 私の掛け声で雪と雪風が同時に飛び出した。その動きに呼応するように、ミルフィーが矢を放つ。

「甘いわ!」

 カリナが短剣を抜き、同時に呪文を唱えると、紫色の魔法陣が宙に浮かび上がった。次の瞬間、鋭い光が雪に向かって放たれる。

「雪っ!!」

 雪は間一髪でかわすが、その威力は凄まじく、岩壁を大きくえぐり取った。

「っ……あれ、まともに食らったら絶対やばいよ!」

「ユミ、集中して! 気を抜かないで!」

 ミルフィーの叫びが響き渡る。矢が次々とカリナを狙うが、彼女は軽やかにかわし、逆に短剣で反撃してきた。


---


 昼間から続く戦闘で、私の体はもう限界に近づいていた。
 足がふらつき、呼吸が荒くなる。

「はぁっ……はぁっ……!」

「狙い目ね!」

 カリナが炎の魔法陣を発動。避ける間もなく、炎が一直線に私を襲った。

「きゃああああっ!!」

「ユミッ!!」

 ミルフィーの悲鳴と同時に、熱が全身を焼くように襲いかかる。雪と雪風が前に飛び出し、必死に炎をかき消す。

「うぅ……うぅっ……!」

 私は震える手を伸ばし、必死で回復スキルを唱えようとする。

「……回復……回復っ!」

 しかし、スキルは発動しない。焦りと恐怖で胸が締め付けられた。

「ユミ! しっかりして!」

 ミルフィーが慌てて腰のポーチからポーションを取り出し、私の唇にそっとあてがう。

「飲んで……お願いだから!」

 喉を通る冷たい液体が、体に広がっていく。痛みが少しずつ和らぎ、私は震える声で呟いた。

「ありがとう……ミルフィー……もう少しだけ……頑張れる……!」


---


「ククク……面白い見世物だったな。さて、私はここで退散させてもらう。」

 混乱に乗じて、ギルデアが通路を抜けて逃げ出そうとする。

「逃がすと思ってるのっ!?」

 ミルフィーが矢を放つ。
 鋭い矢は一直線にギルデアの足を貫き、男は悲鳴を上げて膝から崩れ落ちた。

「ぎゃああああっ!!」

「……あなたのせいで、どれだけの仲間が苦しんだと思ってるの。」

 怒りに震えるミルフィーを横目に、カリナは冷淡に言い放った。

「ギルデアなんて、ただの使い捨ての駒よ。消えようがどうでもいいわ。」

 その冷酷さに、背筋が凍る思いがした。


---


「さあ、あなたたちもここで終わりにしてあげる!」

 カリナが本気を出し、魔法と短剣を同時に繰り出してくる。嵐のような攻撃に、雪と雪風も必死に食らいついた。

「みんな……今だよっ!」

 私の掛け声に、雪と雪風が吠えながらカリナへ飛びかかる。その隙を狙い、ミルフィーが矢を連射して敵の動きを封じる。

「これで……終わりにする!」

 私はアイテムボックスから取り出した特製の矢を、渾身の力で引き絞り放った。矢と牙が同時にカリナを貫き、轟音と共に彼女は床に倒れ込む。

「ぐっ……はぁ……っ……!」

 深紅の衣を血に染めながらも、カリナは不気味に笑った。

「ふふふ……この私がここで終わるとでも思ったの……?」


---


 カリナの足元に複雑な魔法陣が展開され、紫色の光が強く輝き始める。

「紅牙は……魔王復活の……序章にすぎない……。次に会う時こそ……あなたたちを――」

 眩い光が爆発するように広がり、カリナの姿は完全に消え去った。

「ま、待てっ!!」

 ミルフィーが叫び、追いかけようとするが、その場に残ったのは焦げ跡だけ。

「……転移魔法……っ!」

 ミルフィーは呆然と呟き、拳を握りしめた。


---


「……終わった……の……?」

 私の声は震えていた。拠点内は静まり返り、紅牙の気配は完全に消えている。

「ユミ、無理しないで。」

 ミルフィーが私を支えながら言った。

「うん……でも、まだやることがあるよね。」

 私たちは拠点を探索し、地下牢を発見する。牢の中には、衰弱しきった女性のエルフたちが震えていた。

「みんな……!」

 ミルフィーが駆け寄り、涙を滲ませて声をかける。

「もう大丈夫。私たちが助けに来たわ。」

 牢を開けると、エルフたちはミルフィーに縋りつき、泣きながら感謝を伝えた。

「これで……本当に終わったんだね。」

 私は深く息を吐き、心の底から安堵した。


---


 救出したエルフたちを連れて夜明けの街道を歩く。東の空が赤く染まり、長い夜が終わろうとしていた。

「みんな、もう少しで街に着くよ。頑張って!」

 街の大きな門が見えた時、エルフの仲間たちが駆け寄ってきた。

「ミルフィー! そして……みんな無事でよかった!」

「この子たちはお願い。安全な場所に保護して。」

「任せてくれ。お前たちは……本当にありがとう。」

 女性エルフたちは仲間に託され、涙ながらに別れを告げた。


---


 私たちはギルドに向かい、拠点制圧の報告と証拠を提出した。ユミ達の行動に感づいてギルド長グラントが真剣な表情で頷く。

「お前たちは、無茶するなぁ。だが感謝する。紅牙については我々も引き続き調査する……今は休め。」

「はい……。」

 ミルフィーが疲労を滲ませながら返事をした。気付かれていたことには、驚いたがギルドを後にした。


---


 宿に戻ると、入り口に小柄な影が待っていた。以前救った元奴隷のエルフ少女だ。

「……おかえりなさい、ユミさん、ミルフィーさん!」

「あなた……待っててくれたんだね。」

 少女は頷き、涙を浮かべながら笑顔を見せた。

「ずっと……無事に帰ってくるって信じてました。」

「ありがとう……心配かけちゃったね。」

 少女の言葉に胸が温かくなり、自然と笑みがこぼれる。


---


 部屋に戻った途端、私たちはベッドに倒れ込んだ。体中が重く、もう指一本すら動かせない。

「もう……眠くて、動けない……。」

 まぶたが重くなり、視界が暗く沈んでいく。

「みんな……お疲れさま……。」

 その言葉を最後に、私たちは深い眠りに落ちた。朝日が街を照らし、新たな一日が静かに始まろうとしていた――。


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第一章 異世界 出会い編 完
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