弓術師テイマー少女の異世界旅 ~なぜか動物系の魔物たちにめちゃくちゃ好かれるんですけど!?~

妖精 美瑠

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第2章 エルフの里と紅牙編

第13話 旅立ちと新たな目的

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 紅牙との激闘から数日――。
 私たちはギルドにて、拠点制圧の正式な報告を終えた。ギルド職員たちは深く頭を下げ、感謝の言葉と共に「紅牙残党が街や森に潜んでいる可能性がある」と警告をくれた。

 ギルドを出ると、ミルフィーの仲間であるエルフ戦士たちが待っていた。その中には、ミルフィーの姉――リィナの姿もある。

「ミルフィー! 無事でよかった……」

「姉さん……!」

 ミルフィーが駆け寄り、二人は強く抱き合った。その光景を見て、私の胸もじんわりと温かくなる。


---


 安堵のひとときも束の間、仲間の一人が険しい表情で告げた。

「実は……最近、里の様子が少しおかしいんだ。魔物の異常発生や、一部住民の失踪が相次いでいる。何かが起きているのは間違いない。」

「そんな……」

 ミルフィーが顔を曇らせ、リィナが心配そうに妹の肩に手を置いた。

「ミルフィー、帰らないと……でも、あなたは戦いで傷ついているのだから無理はしないで。……みんな、あなたが帰ってくるのを待っているわ。」

「……わかってるわ。でも、このまま何もしないわけにはいかない。」


---


 私は元奴隷だった小さなエルフ少女をエルフたちに託そうとした。安全な里に連れて行くほうが、この子のためになる――そう思って。

「この子を……お願いできるかな?私たちと一緒に行くより、安全なはずだから。」

 しかし、少女は私の服をギュッと握りしめ、黙って首を横に振った。

(えっ……どうして!?)

 私が困惑していると、雪が落ち着いた声でテレパシーで語りかける。

『ユミ、この子はきっと……お前から離れたくないのだろう。恐怖と安心、その両方をお前に見出している。』

(でも、この子が一緒に来たら危険に巻き込むかもしれないよ……)

『わかっている。だが、無理やり引き離すのもまた、この子を傷つけることになるだろう。』

 ミルフィーが少女の目線に合わせてしゃがみ込み、優しく声をかける。

「ねえ、どうしてそんなに首を振るの? 気持ちをちゃんと教えて。」

 少女は涙を浮かべ、震える声で答えた。

「……ユミさんたちと、一緒にいたいの……!離れたくない……!」

 その必死な言葉に、私の胸が締め付けられる。雪風が少女の足元に身を寄せ、まるで「一緒に行こう」と言うように優しく鳴いた。

『わふ……。ユミ、この子、私たちと一緒がいいって言ってる。』

(……雪風……)

 ミルフィーは短く考え、そして決断した。

「わかったわ。みんなで守ればいい……ユミ、あなたはどうする?」

 私は少女の小さな手を握り、強く頷いた。

「一緒に行こう。絶対に私が守るから!」

 少女は泣き笑いの顔で頷き、私に抱きつく。

「ありがとう、ユミさん……!」


---


 そのやり取りを見ていた仲間たちは頷き、出発の準備を整える。

「俺たちは先に戻る。……ミルフィーたちは後から追ってきてくれ。」

「わかったわ。すぐに準備して、私たちも向かうわ。」

 ミルフィーは力強く頷き、リィナを真っ直ぐに見つめる。

「姉さん、先に帰ってみんなを安心させてあげて。……必ず後を追うから。」

「……気を付けて。あなたは一人じゃないから、大丈夫よね。」

「ええ、ユミや雪たちが一緒にいるわ。」

 少し笑みを浮かべるミルフィーに、リィナも安心したように頷いた。

「……無理だけはしないでね。」

 リィナたちは街を出発し、私たちはその後ろ姿を静かに見送った。その背中には、不安と決意が入り混じっていた。


---


 私たちは街で数日かけて旅の準備を整えた。保存食や治療薬、衣服など、長旅に必要な物資を集めるのは想像以上に大変だった。

「ふぅ……やっと準備終わったね。」

『ユミ、忘れ物はないな?』

(うん、雪。これで全部だよ。)

『わふっ! 早く行こうよ、ユミ!』

(はいはい、焦らないで雪風。)

 準備が整い、私たちはようやく街を出発した。


---

 しばらく街道を進んでいたとき、ふと私は大事なことを思い出す。

(あれ……そういえば、この子の名前……聞いてない!?)

「ねえ、そういえば……あなたの名前、まだ聞いてなかったよね?」

 少女は少し驚いたように目を丸くし、照れくさそうに微笑んだ。

「……わ、私……ルナです。」

「ルナちゃん……いい名前だね。」

『ルナ……覚えたぞ。』
『ルナ! わふっ、よろしくね!』

「ふふっ……雪風がよろしくって言ってるよ。」

 ルナは小さく頷き、雪風の頭を優しく撫でた。


---


 歩きながら、ミルフィーが私のほうを振り返る。

「そうだユミ、そろそろ初級魔法に挑戦してみましょう。前に基礎は教えたけど、実戦はまだだったわね?」

「うん……ちょっと緊張するかも。」

『ユミならできる。落ち着いてやるのだぞ。』

『がんばれー!』

 私は深呼吸をして魔法陣を思い浮かべる。

「……“フレイム・アロー”!」

 ボッと炎の矢が現れるが、すぐに暴れ出す。

「きゃああっ!? あっつーーーいっ!」

 雪が飛び出して前足で炎を叩き消し、私を助ける。

『力を込めすぎたな、ユミ。少しずつ流すのだ。』

「うう……ありがとう、雪……」

 何度も挑戦を繰り返すうちに、ようやく小さな炎が安定して飛ぶようになった。

「やった……成功したよ!」

『ふふっ、よくやったな、ユミ。』

『わふっ! ユミすごい!』

 私は喜びながら、もっと強くなろうと心に誓った。


---


 その時、街道横の森から強烈な気配が押し寄せてきた。
 雪と雪風が同時に毛を逆立て、低く唸る。

『ユミ……来るぞ!』

(えっ……なに、この嫌な気配!?)

 バキバキと木々が折れる音が響き、巨大な獣型の魔物が飛び出してきた。その目は血走り、理性を完全に失っている。

「な、なにあれ!? 普通の魔物じゃない!」

「紅牙が関わっている可能性が高いわ……!」

 ミルフィーが弓を構え、私も必死に矢を番える。

(落ち着け……! 雪、雪風、連携していくよ!)

『了解だ! 私が正面を引きつける。雪風は回り込め!』

『わふっ! 任せて!』

 雪が突進して注意を引き、その隙に雪風が横から飛びかかる。私は新しく覚えたフレイム・アローを放ち、魔物の脚を焼く。

「今だよ、ミルフィー!」

「はっ!」

 ミルフィーの矢が魔物の喉を貫き、ついに巨体が崩れ落ちた。

「……はぁっ、はぁっ……なんとか、倒せた……」

『ユミ、大丈夫か?』

(うん……ありがとう、二人とも。)

 ルナは震えながらも、私たちを見て小さく「ありがとう……」と呟いた。


---


「この凶暴化……やっぱり普通じゃないわね。」

 ミルフィーが険しい表情を浮かべる。

「紅牙が関わってるかもしれないね……一刻も早く里に行ったほうが良いかも!」

『そうだな、立ち止まっている場合ではない。』

『わふっ! 急ごう急ごう!』

 私たちは気を引き締め直し、足早に街道を進み始めた。


---


 その様子を遠くから眺める、一人の女――セリア。赤い瞳を細め、妖艶な笑みを浮かべる。

「フフ……あれが“御使い様”ね。遊びがいがありそうだわ。」

 彼女の姿は、森の闇に溶けるように消えた。


---


 沈みゆく夕日を背に、私たちは再び走り出す。

「絶対に守るからね、ルナ。」

『ユミ、私たちもいる。安心して進めばいい。』

『わふっ! 一緒にがんばろう!』

 不穏な影を胸に抱きつつ、私たちはエルフの里を目指して進んでいった――。


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