弓術師テイマー少女の異世界旅 ~なぜか動物系の魔物たちにめちゃくちゃ好かれるんですけど!?~

妖精 美瑠

文字の大きさ
17 / 20
第2章 エルフの里と紅牙編

第14話 新たな契約とエルフの里

しおりを挟む
 街道を進むにつれ、風の温度が変わっていくのが分かった。どこか懐かしい、けれど張りつめた緊張感もある、そんな空気。

「……そろそろね。ここの先に“大樹の門”が見えるはず。」

 ミルフィーが耳をすませるように瞳を細める。道の両脇には、普通の森とは違う異質な木々が立ち並んでいた。幹に刻まれた自然の紋様、葉の先に残る微弱な光の粒。風が通るたび、葉が鈴のようにさらら……と澄んだ音を鳴らす。

「わぁ……普通の森じゃないね……」

「エルフの里に近づくほど、木々の魔力が濃くなるの。森そのものが結界みたいになってるのよ。」

 そのときだった。

 ――ガサッ!

 頭上から気配が落ちてくる。

「……っ!?」

 ユミは反射的に腕を広げ、小さな塊をしっかりと受け止めた。

「 な、なにこれ!? 」

 胸の中には、ふわふわの毛玉。淡い紫色の毛並みが光を受けてキラキラと輝く。

「紫毛のエーテルリス……!? すっごい珍しい個体よ。」

 ミルフィーの表情が一瞬で硬くなる。

 次の瞬間、木々が大きく揺れ、殺気が襲いかかる。

「来る! 構えて!!」

 茂みから凶暴化した魔物が飛び出し、ユミへ一直線に襲いかかった。

「ルナ!! この子お願い!」

「え!? ……うん!」

 ユミは抱いていた紫毛リスを、戦闘に巻き込まないよう急いでルナへ託す。ルナは両腕で守るように抱きしめ、後ろに下がった。

「キュイ……ッ」

 震えるリスは、ルナの胸に顔を埋めるようにしがみつく。

(怖かったんだ……わたしが守ってあげる……?)

 ルナはそっと頭を撫で、震えながらも守るように両腕を回した。

 一方、戦闘は激しさを増す。雪と雪風が魔物の前に立ちはだかり、ユミが弓で援護。

「雪! 左から来るよ!」

『任せろ!』

 最後は雪風の爪とユミの矢が同時に魔物を貫き、戦闘は決着した。




「ふぅ……やっと終わった……」

 ユミが肩で息をしながら振り返ると、ルナの胸にいた紫毛リスが、ルナの頬にすり……っと顔を寄せていた。

「キュイ……キュウ……♪」

「……すごく懐いてる……」

 ユミが近づくと、リスはユミの腕に飛び乗り肩まで登り頬にすり寄る。しかし直ぐにルナのもとに戻り、ルナにぎゅっとしがみつく。

「こりゃ完全にルナちゃんのこと大好きだね……」

「う、うれしい……」

 そんな中、雪が静かにテレパシーで告げる。

『その子はルナの魔力に強く惹かれている。しかし……契約の糸はユミへ向いている。』

「……え、わたし?」

『加護と適性の問題だ。だが“名を与える者”の想いで絆は決まる』

 ルナは紫毛のリスを見つめ、小さく息を呑んだ。

「……ユミさん。」

「ん?」

「この子の名前……わたしが付けてもいい……」

 ユミは優しく微笑む。

「もちろんだよ。ルナが一番守ってくれてたもんね。」

 ルナは胸の中のリスをそっと撫でた。リスは嬉しそうに目を細める。

「……“モコ”……どうかな?」
「キュイッ!!」

 モコは歓喜したようにぴょんっと跳ね、ルナの頬にチュッとすり寄せる。



「じゃあ……契約するね。」

 ユミが小さく呟き、契約の魔力を流し込むと、モコの額に淡い紫の紋章がふわりと浮かび、ユミへ吸い込まれるように光が流れ込んだ。

 ――契約成立。

「モコ、よろしくね。」

「キュウ♪」

 しかし次の瞬間、モコはユミの肩からするりと降り、まっすぐルナの胸元へダイブした。

「えへ……やっぱりルナちゃんがいいんだね。」

「う、うん……なんか、嬉しい……」


 ユミは、モコを鑑定し確認した。

名称:モコ(エーテルリス、特殊個体)
説明:高い魔力を持つ者に懐きやすい、森の精霊に近い魔物。
特に“紫毛”の個体は珍しく、森の守護者に選ばれやすいとされる。


 モコとの契約を済ませた一行は、再びエルフの里へ向けて歩を進めた。里が近づくにつれ、ミルフィーの表情は少しずつ曇る。

「……やっぱりおかしいわ。本来この辺りは結界の影響で魔物なんてほとんど出ないのに。」

「そんなに異常なの?」

「ええ。里に近いほど結界は強くなる。さっきの魔物が現れるなんて……何かが起きている証拠よ。」

 ミルフィーの声に緊張が混じる。
 ルナは胸のモコを抱きしめ、不安にユミの後ろへ隠れた。ミルフィーは険しい表情を隠さないまま。

「急ぎましょう。里長に報告する必要があるわ。」

 そうして一行は、歩みを早めた。



 しばらくして、絡み合う巨木が自然の門を形成し、薄い光の膜が揺らめいているのが見えた。エルフの里の結界、その境界だ。

「うわぁ……これが……」

 ユミは自然と感嘆の声を漏らす。

「さあ、行きましょう。姉さんも先に里へ――」

 ミルフィーが言い終わる前に。

――ヒュッ!!

 地面スレスレを矢がかすめ、ユミは思わず跳ねた。

「なっ……!?」

 木々の上から十数人のエルフ兵が姿を現し、ユミとフェンリル親子へ矢を向けた。

「動くな、人間。そして……その魔獣もだ!」

 雪と雪風はユミの前に立ち、低く唸る。モコはルナの胸に潜り込み震えた。

「待って! この子たちは敵じゃないわ!」

 ミルフィーが叫ぶ。

「ミルフィー!? なぜ“人間”を連れてきた!?しかも魔獣まで……!」

 兵の警戒は解けない。ユミは困ったように苦笑した。

(やっぱり……嫌われてるよね……)


 その時、静かで澄んだ声が響いた。

「矢を下ろして。その人間は……わたしたちの命の恩人です。」

 声のする方を見ると見覚えのある姿が見えた。

「……姉さん!」

 奥から現れたのは、リィナだった。以前と変わらない、穏やかで優しい眼差しを向けてくる。ミルフィーは息をつくように微笑む。

「……よかった。無事に着いてたんだね。」

 ミルフィーは胸をなでおろす。兵たちは戸惑いながらもリィナを見る。

「彼女はわたしを……そして仲間を救ってくれた恩人です。矢を向ける判断は誤りです。」

 兵たちがざわめき、矢がゆっくり下ろされていく。



 そしてもう一人。重々しい杖をついた老人がゆっくり前に進み出た。里長だ。その姿が確認された瞬間、周囲のエルフたちは一斉に膝をついた。

「里長様……!」

 緊張と敬意で場の空気が一変する。里長はユミを鋭く観察し、やがて静かに言った。

「話は聞いておる。ユミと、その魔獣たち……里へ招き入れることを許そう。」

「……ありがとうございます。」

 ユミは深く頭を下げた。雪と雪風も頭を垂れ、モコもぺこりとお辞儀のように頭を下げた。


 緊張が解けて空気が温かくなり始めた時だった。ユミはふと、里長の後ろに立つ女性に気づく。

(……誰だろう?)

 長い金髪。優しい緑の瞳。淡い森色の衣装を纏った女性エルフ。その姿を見た瞬間。

「…………っ。」

 ルナの瞳が大きく揺れた。モコが驚いたように体を起こす。そして震える声で、小さく呟いた。

「……ま……ママ……?」

 次の瞬間。

「ママぁぁぁぁぁっ!!」

 ルナは叫びながら走り出した。涙が頬をつたって零れ落ちる。女性ははっと目を見開き、すぐに両腕を広げた。

「ルナ……! ルナなの……!?無事で……生きて……!」

 ルナは母の胸に飛び込み、泣き声を上げる。母も震える手でルナを抱きしめ、涙が止まらない。

「もう……もう離さないから……っ……!」

 モコはルナの肩にちょこんと乗り、じっと母娘を見守った。

 ユミも、ミルフィーも、その光景をただ静かに見守ることしかできなかった。

(……ほんとによかった。ルナ……)

 大樹の門がゆっくり開き、彼女らはついに、エルフの里へ足を踏み入れるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari@七柚カリン
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

元・神獣の世話係 ~神獣さえいればいいと解雇されたけど、心優しいもふもふ神獣は私についてくるようです!~

草乃葉オウル ◆ 書籍発売中
ファンタジー
黒き狼の神獣ガルーと契約を交わし、魔人との戦争を勝利に導いた勇者が天寿をまっとうした。 勇者の養女セフィラは悲しみに暮れつつも、婚約者である王国の王子と幸せに生きていくことを誓う。 だが、王子にとってセフィラは勇者に取り入るための道具でしかなかった。 勇者亡き今、王子はセフィラとの婚約を破棄し、新たな神獣の契約者となって力による国民の支配を目論む。 しかし、ガルーと契約を交わしていたのは最初から勇者ではなくセフィラだったのだ! 真実を知って今さら媚びてくる王子に別れを告げ、セフィラはガルーの背に乗ってお城を飛び出す。 これは少女と世話焼き神獣の癒しとグルメに満ちた気ままな旅の物語!

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

処理中です...