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第2章 エルフの里と紅牙編
第14話 新たな契約とエルフの里
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街道を進むにつれ、風の温度が変わっていくのが分かった。どこか懐かしい、けれど張りつめた緊張感もある、そんな空気。
「……そろそろね。ここの先に“大樹の門”が見えるはず。」
ミルフィーが耳をすませるように瞳を細める。道の両脇には、普通の森とは違う異質な木々が立ち並んでいた。幹に刻まれた自然の紋様、葉の先に残る微弱な光の粒。風が通るたび、葉が鈴のようにさらら……と澄んだ音を鳴らす。
「わぁ……普通の森じゃないね……」
「エルフの里に近づくほど、木々の魔力が濃くなるの。森そのものが結界みたいになってるのよ。」
そのときだった。
――ガサッ!
頭上から気配が落ちてくる。
「……っ!?」
ユミは反射的に腕を広げ、小さな塊をしっかりと受け止めた。
「 な、なにこれ!? 」
胸の中には、ふわふわの毛玉。淡い紫色の毛並みが光を受けてキラキラと輝く。
「紫毛のエーテルリス……!? すっごい珍しい個体よ。」
ミルフィーの表情が一瞬で硬くなる。
次の瞬間、木々が大きく揺れ、殺気が襲いかかる。
「来る! 構えて!!」
茂みから凶暴化した魔物が飛び出し、ユミへ一直線に襲いかかった。
「ルナ!! この子お願い!」
「え!? ……うん!」
ユミは抱いていた紫毛リスを、戦闘に巻き込まないよう急いでルナへ託す。ルナは両腕で守るように抱きしめ、後ろに下がった。
「キュイ……ッ」
震えるリスは、ルナの胸に顔を埋めるようにしがみつく。
(怖かったんだ……わたしが守ってあげる……?)
ルナはそっと頭を撫で、震えながらも守るように両腕を回した。
一方、戦闘は激しさを増す。雪と雪風が魔物の前に立ちはだかり、ユミが弓で援護。
「雪! 左から来るよ!」
『任せろ!』
最後は雪風の爪とユミの矢が同時に魔物を貫き、戦闘は決着した。
「ふぅ……やっと終わった……」
ユミが肩で息をしながら振り返ると、ルナの胸にいた紫毛リスが、ルナの頬にすり……っと顔を寄せていた。
「キュイ……キュウ……♪」
「……すごく懐いてる……」
ユミが近づくと、リスはユミの腕に飛び乗り肩まで登り頬にすり寄る。しかし直ぐにルナのもとに戻り、ルナにぎゅっとしがみつく。
「こりゃ完全にルナちゃんのこと大好きだね……」
「う、うれしい……」
そんな中、雪が静かにテレパシーで告げる。
『その子はルナの魔力に強く惹かれている。しかし……契約の糸はユミへ向いている。』
「……え、わたし?」
『加護と適性の問題だ。だが“名を与える者”の想いで絆は決まる』
ルナは紫毛のリスを見つめ、小さく息を呑んだ。
「……ユミさん。」
「ん?」
「この子の名前……わたしが付けてもいい……」
ユミは優しく微笑む。
「もちろんだよ。ルナが一番守ってくれてたもんね。」
ルナは胸の中のリスをそっと撫でた。リスは嬉しそうに目を細める。
「……“モコ”……どうかな?」
「キュイッ!!」
モコは歓喜したようにぴょんっと跳ね、ルナの頬にチュッとすり寄せる。
「じゃあ……契約するね。」
ユミが小さく呟き、契約の魔力を流し込むと、モコの額に淡い紫の紋章がふわりと浮かび、ユミへ吸い込まれるように光が流れ込んだ。
――契約成立。
「モコ、よろしくね。」
「キュウ♪」
しかし次の瞬間、モコはユミの肩からするりと降り、まっすぐルナの胸元へダイブした。
「えへ……やっぱりルナちゃんがいいんだね。」
「う、うん……なんか、嬉しい……」
ユミは、モコを鑑定し確認した。
名称:モコ(エーテルリス、特殊個体)
説明:高い魔力を持つ者に懐きやすい、森の精霊に近い魔物。
特に“紫毛”の個体は珍しく、森の守護者に選ばれやすいとされる。
モコとの契約を済ませた一行は、再びエルフの里へ向けて歩を進めた。里が近づくにつれ、ミルフィーの表情は少しずつ曇る。
「……やっぱりおかしいわ。本来この辺りは結界の影響で魔物なんてほとんど出ないのに。」
「そんなに異常なの?」
「ええ。里に近いほど結界は強くなる。さっきの魔物が現れるなんて……何かが起きている証拠よ。」
ミルフィーの声に緊張が混じる。
ルナは胸のモコを抱きしめ、不安にユミの後ろへ隠れた。ミルフィーは険しい表情を隠さないまま。
「急ぎましょう。里長に報告する必要があるわ。」
そうして一行は、歩みを早めた。
しばらくして、絡み合う巨木が自然の門を形成し、薄い光の膜が揺らめいているのが見えた。エルフの里の結界、その境界だ。
「うわぁ……これが……」
ユミは自然と感嘆の声を漏らす。
「さあ、行きましょう。姉さんも先に里へ――」
ミルフィーが言い終わる前に。
――ヒュッ!!
地面スレスレを矢がかすめ、ユミは思わず跳ねた。
「なっ……!?」
木々の上から十数人のエルフ兵が姿を現し、ユミとフェンリル親子へ矢を向けた。
「動くな、人間。そして……その魔獣もだ!」
雪と雪風はユミの前に立ち、低く唸る。モコはルナの胸に潜り込み震えた。
「待って! この子たちは敵じゃないわ!」
ミルフィーが叫ぶ。
「ミルフィー!? なぜ“人間”を連れてきた!?しかも魔獣まで……!」
兵の警戒は解けない。ユミは困ったように苦笑した。
(やっぱり……嫌われてるよね……)
その時、静かで澄んだ声が響いた。
「矢を下ろして。その人間は……わたしたちの命の恩人です。」
声のする方を見ると見覚えのある姿が見えた。
「……姉さん!」
奥から現れたのは、リィナだった。以前と変わらない、穏やかで優しい眼差しを向けてくる。ミルフィーは息をつくように微笑む。
「……よかった。無事に着いてたんだね。」
ミルフィーは胸をなでおろす。兵たちは戸惑いながらもリィナを見る。
「彼女はわたしを……そして仲間を救ってくれた恩人です。矢を向ける判断は誤りです。」
兵たちがざわめき、矢がゆっくり下ろされていく。
そしてもう一人。重々しい杖をついた老人がゆっくり前に進み出た。里長だ。その姿が確認された瞬間、周囲のエルフたちは一斉に膝をついた。
「里長様……!」
緊張と敬意で場の空気が一変する。里長はユミを鋭く観察し、やがて静かに言った。
「話は聞いておる。ユミと、その魔獣たち……里へ招き入れることを許そう。」
「……ありがとうございます。」
ユミは深く頭を下げた。雪と雪風も頭を垂れ、モコもぺこりとお辞儀のように頭を下げた。
緊張が解けて空気が温かくなり始めた時だった。ユミはふと、里長の後ろに立つ女性に気づく。
(……誰だろう?)
長い金髪。優しい緑の瞳。淡い森色の衣装を纏った女性エルフ。その姿を見た瞬間。
「…………っ。」
ルナの瞳が大きく揺れた。モコが驚いたように体を起こす。そして震える声で、小さく呟いた。
「……ま……ママ……?」
次の瞬間。
「ママぁぁぁぁぁっ!!」
ルナは叫びながら走り出した。涙が頬をつたって零れ落ちる。女性ははっと目を見開き、すぐに両腕を広げた。
「ルナ……! ルナなの……!?無事で……生きて……!」
ルナは母の胸に飛び込み、泣き声を上げる。母も震える手でルナを抱きしめ、涙が止まらない。
「もう……もう離さないから……っ……!」
モコはルナの肩にちょこんと乗り、じっと母娘を見守った。
ユミも、ミルフィーも、その光景をただ静かに見守ることしかできなかった。
(……ほんとによかった。ルナ……)
大樹の門がゆっくり開き、彼女らはついに、エルフの里へ足を踏み入れるのだった。
「……そろそろね。ここの先に“大樹の門”が見えるはず。」
ミルフィーが耳をすませるように瞳を細める。道の両脇には、普通の森とは違う異質な木々が立ち並んでいた。幹に刻まれた自然の紋様、葉の先に残る微弱な光の粒。風が通るたび、葉が鈴のようにさらら……と澄んだ音を鳴らす。
「わぁ……普通の森じゃないね……」
「エルフの里に近づくほど、木々の魔力が濃くなるの。森そのものが結界みたいになってるのよ。」
そのときだった。
――ガサッ!
頭上から気配が落ちてくる。
「……っ!?」
ユミは反射的に腕を広げ、小さな塊をしっかりと受け止めた。
「 な、なにこれ!? 」
胸の中には、ふわふわの毛玉。淡い紫色の毛並みが光を受けてキラキラと輝く。
「紫毛のエーテルリス……!? すっごい珍しい個体よ。」
ミルフィーの表情が一瞬で硬くなる。
次の瞬間、木々が大きく揺れ、殺気が襲いかかる。
「来る! 構えて!!」
茂みから凶暴化した魔物が飛び出し、ユミへ一直線に襲いかかった。
「ルナ!! この子お願い!」
「え!? ……うん!」
ユミは抱いていた紫毛リスを、戦闘に巻き込まないよう急いでルナへ託す。ルナは両腕で守るように抱きしめ、後ろに下がった。
「キュイ……ッ」
震えるリスは、ルナの胸に顔を埋めるようにしがみつく。
(怖かったんだ……わたしが守ってあげる……?)
ルナはそっと頭を撫で、震えながらも守るように両腕を回した。
一方、戦闘は激しさを増す。雪と雪風が魔物の前に立ちはだかり、ユミが弓で援護。
「雪! 左から来るよ!」
『任せろ!』
最後は雪風の爪とユミの矢が同時に魔物を貫き、戦闘は決着した。
「ふぅ……やっと終わった……」
ユミが肩で息をしながら振り返ると、ルナの胸にいた紫毛リスが、ルナの頬にすり……っと顔を寄せていた。
「キュイ……キュウ……♪」
「……すごく懐いてる……」
ユミが近づくと、リスはユミの腕に飛び乗り肩まで登り頬にすり寄る。しかし直ぐにルナのもとに戻り、ルナにぎゅっとしがみつく。
「こりゃ完全にルナちゃんのこと大好きだね……」
「う、うれしい……」
そんな中、雪が静かにテレパシーで告げる。
『その子はルナの魔力に強く惹かれている。しかし……契約の糸はユミへ向いている。』
「……え、わたし?」
『加護と適性の問題だ。だが“名を与える者”の想いで絆は決まる』
ルナは紫毛のリスを見つめ、小さく息を呑んだ。
「……ユミさん。」
「ん?」
「この子の名前……わたしが付けてもいい……」
ユミは優しく微笑む。
「もちろんだよ。ルナが一番守ってくれてたもんね。」
ルナは胸の中のリスをそっと撫でた。リスは嬉しそうに目を細める。
「……“モコ”……どうかな?」
「キュイッ!!」
モコは歓喜したようにぴょんっと跳ね、ルナの頬にチュッとすり寄せる。
「じゃあ……契約するね。」
ユミが小さく呟き、契約の魔力を流し込むと、モコの額に淡い紫の紋章がふわりと浮かび、ユミへ吸い込まれるように光が流れ込んだ。
――契約成立。
「モコ、よろしくね。」
「キュウ♪」
しかし次の瞬間、モコはユミの肩からするりと降り、まっすぐルナの胸元へダイブした。
「えへ……やっぱりルナちゃんがいいんだね。」
「う、うん……なんか、嬉しい……」
ユミは、モコを鑑定し確認した。
名称:モコ(エーテルリス、特殊個体)
説明:高い魔力を持つ者に懐きやすい、森の精霊に近い魔物。
特に“紫毛”の個体は珍しく、森の守護者に選ばれやすいとされる。
モコとの契約を済ませた一行は、再びエルフの里へ向けて歩を進めた。里が近づくにつれ、ミルフィーの表情は少しずつ曇る。
「……やっぱりおかしいわ。本来この辺りは結界の影響で魔物なんてほとんど出ないのに。」
「そんなに異常なの?」
「ええ。里に近いほど結界は強くなる。さっきの魔物が現れるなんて……何かが起きている証拠よ。」
ミルフィーの声に緊張が混じる。
ルナは胸のモコを抱きしめ、不安にユミの後ろへ隠れた。ミルフィーは険しい表情を隠さないまま。
「急ぎましょう。里長に報告する必要があるわ。」
そうして一行は、歩みを早めた。
しばらくして、絡み合う巨木が自然の門を形成し、薄い光の膜が揺らめいているのが見えた。エルフの里の結界、その境界だ。
「うわぁ……これが……」
ユミは自然と感嘆の声を漏らす。
「さあ、行きましょう。姉さんも先に里へ――」
ミルフィーが言い終わる前に。
――ヒュッ!!
地面スレスレを矢がかすめ、ユミは思わず跳ねた。
「なっ……!?」
木々の上から十数人のエルフ兵が姿を現し、ユミとフェンリル親子へ矢を向けた。
「動くな、人間。そして……その魔獣もだ!」
雪と雪風はユミの前に立ち、低く唸る。モコはルナの胸に潜り込み震えた。
「待って! この子たちは敵じゃないわ!」
ミルフィーが叫ぶ。
「ミルフィー!? なぜ“人間”を連れてきた!?しかも魔獣まで……!」
兵の警戒は解けない。ユミは困ったように苦笑した。
(やっぱり……嫌われてるよね……)
その時、静かで澄んだ声が響いた。
「矢を下ろして。その人間は……わたしたちの命の恩人です。」
声のする方を見ると見覚えのある姿が見えた。
「……姉さん!」
奥から現れたのは、リィナだった。以前と変わらない、穏やかで優しい眼差しを向けてくる。ミルフィーは息をつくように微笑む。
「……よかった。無事に着いてたんだね。」
ミルフィーは胸をなでおろす。兵たちは戸惑いながらもリィナを見る。
「彼女はわたしを……そして仲間を救ってくれた恩人です。矢を向ける判断は誤りです。」
兵たちがざわめき、矢がゆっくり下ろされていく。
そしてもう一人。重々しい杖をついた老人がゆっくり前に進み出た。里長だ。その姿が確認された瞬間、周囲のエルフたちは一斉に膝をついた。
「里長様……!」
緊張と敬意で場の空気が一変する。里長はユミを鋭く観察し、やがて静かに言った。
「話は聞いておる。ユミと、その魔獣たち……里へ招き入れることを許そう。」
「……ありがとうございます。」
ユミは深く頭を下げた。雪と雪風も頭を垂れ、モコもぺこりとお辞儀のように頭を下げた。
緊張が解けて空気が温かくなり始めた時だった。ユミはふと、里長の後ろに立つ女性に気づく。
(……誰だろう?)
長い金髪。優しい緑の瞳。淡い森色の衣装を纏った女性エルフ。その姿を見た瞬間。
「…………っ。」
ルナの瞳が大きく揺れた。モコが驚いたように体を起こす。そして震える声で、小さく呟いた。
「……ま……ママ……?」
次の瞬間。
「ママぁぁぁぁぁっ!!」
ルナは叫びながら走り出した。涙が頬をつたって零れ落ちる。女性ははっと目を見開き、すぐに両腕を広げた。
「ルナ……! ルナなの……!?無事で……生きて……!」
ルナは母の胸に飛び込み、泣き声を上げる。母も震える手でルナを抱きしめ、涙が止まらない。
「もう……もう離さないから……っ……!」
モコはルナの肩にちょこんと乗り、じっと母娘を見守った。
ユミも、ミルフィーも、その光景をただ静かに見守ることしかできなかった。
(……ほんとによかった。ルナ……)
大樹の門がゆっくり開き、彼女らはついに、エルフの里へ足を踏み入れるのだった。
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