弓術師テイマー少女の異世界旅 ~なぜか動物系の魔物たちにめちゃくちゃ好かれるんですけど!?~

妖精 美瑠

文字の大きさ
19 / 20
第2章 エルフの里と紅牙編

第16話 魔力と選択

しおりを挟む
 エルフの里の朝は静かだった。大樹の枝に組まれた住居の隙間を、澄んだ風が抜けていく。葉擦れの音が、まるで里そのものの呼吸のように穏やかに続いていた。

 ユミは里の一角、ミルフィーの家の縁側に腰を下ろし、湯気の立つ木杯を両手で包んでいた。少し離れた場所では、ルナがモコを膝に乗せて座っている。モコは尻尾をふわりと揺らし、満足そうに丸まっていた。

『落ち着いてるな。』

 雪の声が、頭の中に静かに響く。

『この里は、森よりずっと安心できる。』

 雪風の声も続く。

 ユミは小さく息を吐き、二匹の様子を視線の端で確認した。

(雪も雪風も、警戒してない……)

 その一方で、ミルフィーはどこか考え込むような表情をしていた。視線は自然と、ルナとモコへ向かっている。

「……やっぱり、魔力が高いわ。」

 その呟きに、ユミが頷く。

「うん。モコがここまで懐くの、普通じゃないよね。」

 テイムしたのはユミだが、モコが自分よりもルナのそばにいる時間の方が明らかに長い。それは偶然ではないと、ユミも感じていた。

 ミルフィーは少し考え込むように視線を落とし、それからルナに向き直る。

「ねえ、ルナ。ひとつ聞いてもいい?」

 ルナは顔を上げ、少しだけ身構えた様子で答える。

「……なに?」

「あなた、今いくつ?」

 一瞬、間が空いた。ルナは自分の指を見つめ、それから静かに答えた。

「……八歳。」

 その言葉に、ミルフィーは小さく息を吐いた。

「……やっぱり。」

 ユミが首を傾げる。

「やっぱり、って?」

 ミルフィーは里の奥、木々の向こうを見つめながら説明を始めた。

「エルフの里では、本来は魔力量の正式な測定は十歳からなの。」

 ルナの視線が、少しだけ揺れる。

「成長途中の子は、魔力が安定しないことが多い。だから、早い段階では測らない。」

 ユミは静かに言葉を継いだ。

「でも……」

「ええ。でも、例外もあるわ。」

 ミルフィーはきっぱりと言った。

「魔力が高すぎる場合は、話が別。制御の仕方を知らないままだと、無意識のうちに魔力が溢れて、魔力暴走を起こす危険がある。」

 ルナは外套の裾を、ぎゅっと掴んだ。

(……わたしが、そんなこと……)

 その様子を見て、ユミはすぐに声を和らげる。

「今すぐ何か起きるって話じゃないよ。ただ、何も知らないままより、早めに把握しておいた方が安心だから。」

 ミルフィーも頷く。

「あなたを守るためよ。だから……」

 一拍置いて、はっきりと告げる。

「里長に、私から魔力量測定をお願いする。」

 ルナは少し考えた後、小さく頷いた。

「……わかった。」

 その返事を聞き、ミルフィーは立ち上がった。


 里長の家は、里の中心にそびえる大樹の根元にあった。中へ通されると、ユミたちは自然と膝をつく。

「ミルフィー、話があるそうだな。」

 里長の穏やかな声に、ミルフィーは一歩前へ出る。

「里長。お願いがあります。」

 家族ではなく、里の長として向き合う場。ミルフィーははっきりとした口調で続けた。

「この子の魔力量を、特例として測定していただきたいのです。」

 里の空気が、わずかに張り詰める。

「……たしか十にみたないはずだ。」

「承知しています。」

 ミルフィーは視線を逸らさない。

「ですが、魔力が高すぎる場合、制御法を知らないことは危険です。この子自身が、知らぬ間に傷つく可能性があります。」

 ユミも一歩前に出て頭を下げた。

「モコが強く懐いていることからも、魔力の多さは明らかです。早めに把握すれば、守れる未来があります。」

 里長はしばらく黙考した後、ゆっくりと頷いた。

「……理由は理解した。特例として、測定を許可しよう。」



 測定は、里の奥にある静かな広場で行われた。地面には古い魔法陣が刻まれ、数名の長老が位置につく。

「中央に立つだけでよい。力を流す必要はない。」

 ルナは言われた通り、魔法陣の中心へ進んだ。モコは名残惜しそうに離れ、ユミの肩へ移る。

 詠唱が始まると、空気が震えた。淡い光が魔法陣を巡り、次第に安定した輝きを放つ。ざわめきが起こる。

「……これは。」

「結界を張れるほどの魔力量……」

 ミルフィーは小さく息を吐いた。

「やはり……」

 里長は静かに告げる。

「この子は極めて高い魔力を持つ。適切な制御を学ばねば、危険となる。」

 ユミはルナを見て、穏やかに言った。

「大丈夫。ここから、ちゃんと教わればいい。」

 ルナは小さく頷いた。モコが軽く鳴き、再びルナの元へ戻る。里に、新たな決意が静かに根を下ろしていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari@七柚カリン
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

処理中です...