追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

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第6章 新たな秩序の確立 & 世界の支配へ!

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 朝の光を浴びながら外に出ると、アインハルト自由都市の空気はますます活気に満ちている。以前なら「大騒ぎだな」と思った光景も、いまや当たり前になってきた。人の往来は絶えず、遠方から来たらしい使節団や移住者が行き交い、外国語が飛び交う。貨物を積んだ飛行艇まで浮かんでいるのが見えるのは、ルカが開発した“空中輸送システム”の試作品だろうか。
 もうどこを見ても、昔の“ただの辺境の村”とはまるで別物だ。

「おはようございます、レオン様! 今日も朝から大使が来てますよ」 

 門番の青年が挨拶と同時にそう知らせてくれる。どうやら、最近外交の窓口が忙しすぎるため、エリシアが「早い時間から対応しよう」と段取りを組んでいるらしい。
 各国の要人がアインハルトに詰めかけており、“新たな秩序”だの“世界同盟”だの、いよいよ話が大げさになってきた感があるけど……まあ、これが今の現実だ。

「なるほど、相変わらずエリシアは朝から飛ばしてるな。オレは呼ばれてないけど、とりあえず行ってみるか」

 門番に手を振って通り過ぎると、ずらりと並ぶ商人たちが笑顔で挨拶をしてくる。会うたびに「レオン様のおかげで儲かってますよ!」とか「新しい温泉通貨で世界が動いてますね!」なんて興奮気味に話されると、こっちまでうれしくなる反面、ちょっと気恥ずかしい。
 ほんの少し口にした“紙幣のアイデア”がここまで大規模に広がるとは、やっぱり想像を超えすぎている。

「レオン、ちょうどいいところに!」 

 不意に背中をドンッと叩かれ、振り向くとグラハムが陽気に笑っている。彼の後ろには屈強な兵士たち——もはや“連邦軍”と呼ぶほうが正しいかもしれない——が控え、全員が新調された鎧を身につけている。まるで“国軍”そのものだ。

「お前たち、随分と装備が豪華になったな。どこか新しい傭兵団でも編成したのか?」 
「はは、まあ似たようなもんだ。世界各地から強者が集まってきてな、こっちへ寝返る帝国兵もいれば、王国から逃げてきた元騎士も加わってる。腕の立つ連中ばかりで、毎日が軍事演習だぜ」 
「何その血の気の多い話……。あんまり過激にならないでくれよ。うちは平和がウリなんだから」 
「わかってるって。強大な軍事力があるからこそ、他国も手出しできないんだろ? 兵士たちも今は“平和を守る”って理念で一致団結してる。むしろ意識が高いんだよ」

 グラハムは腕を組んで胸を張る。その向こうでは、兵士たちが行儀よく列を作り、街に入ってくる外国の使者に警戒の目を向けている。攻撃態勢というより警護態勢に近く、もし不審者がいれば即座に対応できるようにしているのだろう。
 実際、この連邦軍がいるおかげで、街での大きな揉め事はほとんど起きない。治安維持の観点で言えば、圧倒的に有能な連中だ。

「確かに助かるな。王国が崩壊して人の流れが激しいだけじゃなく、帝国だって内部でいろいろあるって聞くし……スパイなんかが潜り込まないように警戒してくれてるんだろ?」 
「おうとも。あと、このままアインハルト連邦が世界をリードする流れなら、軍があるに越したことはない。俺としては、やるなら最強を目指したいしな」 
「最強志向なのは変わらないのか。ま、頼もしいけどほどほどにな」 

 グラハムが笑うと、部下たちも軽く敬礼して散っていく。誰もがキビキビ動きながらも、表情は楽しげだ。強い奴らが集まるのはいいが、どこかで暴走しないように祈るばかり。
 もっとも、グラハムの人望があれば大丈夫だと思うが。

 エリシアは市街地の一角にある大きな建物で、各国の要人たちと話し込んでいた。昔の農倉庫を改装した“暫定議事堂”らしいが、中は豪華な椅子やテーブルが並び、まるで国際会議の場みたいになっている。帝国からの大使や、小国の領主代理、さらに商業連合の代表らしき人が勢揃いで、何やら協定書のようなものを取り交わしている。

「……では、この条約に基づき、アインハルト連邦との相互協力体制を強化することを、ここに宣言いたします!」 

 最前列にいた帝国の大使が声を張り上げ、一同が拍手で応じる。どうやら“温泉平和条約”をさらに拡大し、軍事や経済面でも協調していく流れをまとめているらしい。世界各国がアインハルトにすり寄ってくる理由は簡単だ。ここに関われば儲かるし安全が保障され、逆らえば“最強軍団とチート領主に叩きのめされるかもしれない”という恐れがあるからだ。

「レオン、来てくれたのね!」 

 議事堂の隅にいたエリシアが駆け寄ってくる。彼女はすっかり政治家顔負けのオーラを放ち、周囲の要人たちも彼女を“ここを取り仕切る女傑”として見ているようだ。
 元帝国王女とはいえ、今はアインハルト連邦の外交の要。そう呼べる存在感がある。

「ちょっと様子を見に来ただけだよ。ここ、もう完全に国際会議場みたいだな」 
「そうよ。帝国も諸小国も、この街を『新時代の中心』と認め始めているわ。だから軍事協力や経済連携まで含めた“大陸レベルの連合”を組もうって話が出てきてるの。まだ正式には決まってないけど、もしこれが実現すれば、アインハルト連邦は事実上、世界の指導者みたいな立場になるかもしれない」 
「世界の指導者ね……オレにそんな大役は荷が重いぞ」 
「あなたはただそこにいてくれるだけでいいの。『最強領主』がいるという事実が、各国の意思をまとめてしまうんだから」

 エリシアが微笑む。その視線には「わかってるでしょ?」と言わんばかりの確信がある。
 実際、この街がここまで大きくなったのはオレの“無自覚チート”を起点にした経済革命や温泉リゾートの成功がベースにある。さらにグラハムの軍事力、ルカの技術革新、エリシアの外交力が融合した結果、“新秩序”を望む多くの人が押し寄せてきた。
 今や王国は完全に崩壊寸前、帝国もアインハルトにすり寄るしかない状況で、自然と“世界の中心”になっているのが現実だ。

「いやはや、ほんとに世界がひっくり返るなんて思いもしなかった。しかも、オレは何もリーダーシップを取ってないから困るよな」 
「困るどころか、それがかえって神秘的なのよ。『レオン様は何気ない一言で奇跡を起こす』『地形を自在に操り、作物を爆成長させる』って話が世界中に広まってるもの」 
「ふうん……噂だけどなあ。まあ否定はしないけど」

 冗談めかして笑ってみせるが、内心では「そこまでの神格化はやりすぎだろう」と思っている。
 でも、実際に畑や温泉で不可解なチート現象を起こしているのは事実だから、周囲の誤解も半ば仕方ないのかもしれない。今となっては、それを利用してより平和で豊かな世界を実現しようという流れができているなら、悪い話じゃない。

「それと、ルカが大発明を成し遂げたわ。温泉エネルギーを使った大規模発電システムの試作品を完成させたの。各国の使節がビックリしてたわよ」 
「うわ、またとんでもないことに……そんなことまで可能なのか?」 
「ルカいわく、温泉の熱や水圧、さらに魔力を掛け合わせることで『持続的なエネルギー』を起こせるそうよ。これが本格稼働すれば、工業や農業はもちろん、街のあらゆるインフラを支える強力な動力源になるわね」

 エリシアの話を聞いているだけで頭がぐるぐるする。温泉発電? 魔力を絡めた工業? 田舎の辺境でそんな施設が建ち始めるなんて、完全に想像外だ。しかも、それが次のステップとして「世界支配への基盤」になりうるというわけか……。

「じゃあアインハルト紙幣が世界経済の中心になり、軍事力もトップクラス、さらにインフラ技術でどんどん他国をリードしていく。まさしく“新時代の覇者”ってわけか」 
「ふふ、そういうこと。あなたが望む望まないにかかわらず、この街は世界支配の軸になる可能性があるのよ。少なくとも、周囲からはそう見られてるわ」

 エリシアは楽しそうに微笑みながら、さっと書類を抱え直す。どうやら次の交渉が詰まっているらしく、彼女は「また後でね」と小声で言って議事堂の中心へと戻っていく。その背筋はまるで大国の宰相のように凛と伸びていて、かつての帝国王女の面影はあまり感じない。
 むしろ“アインハルトの女王”と言ったほうがしっくりくるほどだ。

 エリシアとの会話を終え、外に出るとルカがまさに“空飛ぶ発電装置”とやらのデモンストレーションをやろうとしているのが見える。彼女は傍らに何やら巨大な装置を置き、そこからパイプやら歯車やらが伸びていて、勢いよく湯気を吐いている。周囲には見物人や外国の学者らしき人が群がっていて、興味津々に見守っている。

「ではスイッチを入れますね! 皆さん離れててください!」 
 ルカが声を上げ、助手がレバーをぐっと下げる。すると装置の内部がゴウンゴウンと唸り、温泉の湯を吸い込むように管が振動し始める。しばらくすると、上部に取り付けた魔力結晶がぱっと光を放ち、まるで魔法陣が展開されるかのような眩しい発光が広がる。

「す、すごい……何だこれは」 
「湯と魔力を組み合わせると、こんなエネルギー反応が起きるのか!」 

 見物人たちが歓声を上げる中、ルカは得意げにうなずく。 

「はい、これが“温泉魔導ハイブリッド”のプロトタイプです。この装置を拡大すれば、大規模な都市でも十分に電力や動力を賄える可能性があります。私たちが考える“新しい国づくり”には必須の技術になるはず!」

 もちろん見ただけで全部を理解するのは難しいが、どうやら“温泉エネルギー”は単なる湯治や観光だけじゃなく、産業・軍事・日常生活まで支える巨大な基盤になり得るらしい。ルカはひたすら研究が好きで作りたい放題にやってきた結果、最先端の魔法科学を形にしつつあるんだから、本当に恐れ入る。周りの学者や他国の技術者も目を輝かせているし、世界がまた大きく動かされる予感がひしひしと伝わってくる。

「ルカ、相変わらずぶっ飛んでるな」 

 オレが苦笑しつつつぶやくと、すぐそばにいた青年技術者が同調するようにうなずく。 

「ほんとですよ。でも、これが実用化したら世界のエネルギー事情が一変します。王国で苦しんでいた農家も、ここに来て工場で働けば、もっと生産性の高い仕事ができるかもしれない。そう考えると、アインハルトはもう止まらないですね!」

 青年は浮かれた口調で言うが、オレとしても同感だ。ここまでいくと、もはや“王国の再起”なんて話じゃない。周辺諸国を統合してしまうレベルの産業革命が起きつつある。どこまでいくんだ、この街は。

 夕方、街の中央にある広場に行くと、エリシアとグラハムが街の住民と一部使節団を集めて大規模な“国際集会”を開いている。何でも「温泉平和条約」を拡大させた“新世界連盟”なるものを設立しようという流れらしい。いよいよ本格的に“新秩序”が確立されようとしているのだ。
 グラハムは軍事担当、エリシアが外交担当、ルカが技術担当という形で議論が進み、住民会議と外部の使節が拍手で賛成する光景は、まるで“世界政府”でも作るかのような勢いだ。

「では、各国との条約に基づき、アインハルトを中心とする連邦体制をさらに拡大しましょう。貿易も軍事も、皆が協力し合えば戦争の心配はほとんどなくなるはずです!」 

 エリシアが声を張り上げると、周囲から大きな拍手が起こる。人々の瞳には希望が宿っている。みんな“古い支配”や“王国の圧制”にうんざりしていた。アインハルト自由都市が見せる“自由”と“豊かさ”に魅了されているのだ。
 こうして新しい秩序が生まれれば、ほとんどの国は喜んで加盟するだろう。要は“王国の残党”だけが反発するかもしれないが、今さら何ができるというのか。

「レオン、そろそろあなたも壇上にどうぞ!」 

 エリシアがこちらを手招きする。仕方なく人混みをかき分けて壇に上がると、途端に歓声が広がる。まるでどこかのアイドルか王様のような扱いだが、正直照れくさい。グラハムがニヤニヤ笑っているのが見え、ルカは興味津々な目でこっちを見つめている。

「みんな、この街を創ったのはオレじゃないぞ。オレは適当に畑をいじって温泉を掘ってただけだ。けど……今こうやって世界の流れが大きく変わろうとしてるのを見ると、悪くない気分だな」 

 そう言うと、どっと笑いが起こる。拍手と歓声が広場を包み込み、その熱気が空に昇っていくように感じる。オレは続ける。

「新しい秩序だとか世界支配だとか、難しい話は正直よくわからない。けど、みんなが笑顔で暮らせるならそれが一番だと思う。戦争もしなくて済むし、金も儲かるし、温泉でゴロゴロできる。王国みたいに人を追放して苦しめたり、帝国みたいに戦争で脅したりしなくても、なんとかなるんじゃないか?」 

 言いながら、自分でも不思議と納得する。こんな単純なことなのに、世界ではずっと紛争や貧困が絶えなかった。けれど、アインハルト連邦が示す“自由と豊かさ”が各国を引きつけ、結果として統合へ向かうなら、それはまさに“新たな秩序の確立”だろう。

 「最強領主!」「神の導きだ!」などと叫ぶ声が飛び交い、オレはまた苦笑する。何でこう大げさな呼び方をするのかと思うが、その勘違いがみんなを盛り上げ、世界を結束させる燃料になるなら構わない。

「まあ、オレとしては温泉ライフを続けたいだけだが……もし世界が平和になるなら、それに越したことはない。みんなで協力して、もっと凄い街にしていこう。スローライフだろうがメガシティだろうが、好きにやって楽しむのが一番だからな」 

 そう締めくくると、さらに大きな歓声が巻き起こる。拍手喝采の輪の中、エリシアやグラハム、ルカが嬉しそうに笑い合っている。フェンリスは遠巻きにこちらを見ていて、尻尾をふわりと振っているのが見えた。全員が“次のステージ”に進む覚悟を決めたようだ。

 集会が終わる頃には街の雰囲気がさらに熱を帯び、「よし、やるぞ!」と奮起する声が至るところで聞こえてくる。技術者や商人は新たなビジネスを考え、外交担当は次の連携国との会合を予定し、軍は広域の治安維持に乗り出す。
 そう、今やアインハルト連邦は世界の中心だ。ここから生まれる政策や技術が、周辺国を巻き込み、事実上の“世界支配”に近い影響力を持つことになる。

「すげえな、本当に“支配”するのかもな……いや、支配って言っても、強制じゃなくてみんなが求めてるからこそだろうけど」 

 ポツリとこぼすと、通りを歩いていた青年が偶然耳にしたのか笑顔で言う。 

「そうなんです。みんな“自分の意志”でここに集まって、一緒に国づくりをしてる。だから窮屈じゃないし、王国のような悲惨な圧政もない。これこそが新しい秩序ですよ、レオン様」

 なるほど。“新たな秩序の確立”というと仰々しいが、要は“この街で生まれた自由と豊かさを世界に共有しよう”というムーブメントだ。それに乗りたい人や国は自然と合流し、乗りたくない人は去るだけ……と言いたいところだが、王国みたいに崩壊寸前の国はそうもいかないだろう。
 いずれにせよ、潮流は止まらない。

 町の外れに視線を向ければ、仮設住宅に続々と人が移り住んでいるのが見える。王国や他国から逃れてきた人たちだ。以前はテント生活だったが、ルカや職人ギルドのおかげで建設が進み、もう小さな町ができつつある。時の流れは本当に早い。オレが追放されてからまだ大して日が経っていないのに、ここではすでに世界規模の変革が進んでいる。

「……まあ、決まった以上、オレも腹をくくろう。世界支配とかどうでもいいけど、みんなが笑って暮らせるように気楽にやっていくさ」

 フェンリスがこっちを見上げ、鼻をひくつかせる。まるで「当然だろう」と言わんばかりだ。
 そう、どうせオレは何をやっても“無自覚に世界を動かす”らしいなら、いっそ力いっぱい楽しんでしまえ。王国が滅びようと、帝国が併合されようと、この街には温泉と畑と、どんどん増える仲間がいる。オレのやることは変わらない。

 それにしても、追放された時に抱いた「スローライフを送りたいだけ」という夢はいまだに続行中だ。忙しいときは忙しいけど、気ままに温泉に入って好きなだけゴロゴロできるし、畑の土をいじればそこそこ楽しい。まわりの人たちが“世界の覇権”だの“新時代の指導者”だの騒いでいても、オレ自身はあまり変わっていない。それでも結果的に、みんなが喜んでくれるなら万々歳じゃないか。

「そろそろ温泉にでも浸かって、今日の疲れを取ってくるか。どうせ明日もまた大騒ぎだろ。好き勝手プロジェクトが進んでて、たぶん朝イチで誰かがオレに『こんなの作りたい』って頼みに来るに違いない」 

 フェンリスが尻尾を振りながら並走してくる。巨大な魔狼を連れて温泉街へ行くのはすっかり日常の風景だ。周囲の人々が慣れた様子で挨拶してくれるのを見ると、ああ、本当にここは“オレの国”なんだとしみじみ思う。

 遠くから爆竹のような音が聞こえる。どうやらルカがまた実験をしているのか、あるいはグラハムが軍事演習の合図をしているのか。あちこちで新しい試みが同時進行していて、驚くほど統制が取れている。そんな不可思議な“自由と結束”がアインハルト連邦の強みだ。王国や帝国のような硬直した支配構造とは真逆の、“みんなで好き勝手に協力する”あり方が、世界を揺るがすほどの力を生んでいるのだろう。

「世の中にはこういうやり方もあるんだよ、って証明しようじゃないか。せっかくここまできたんだからさ」

 思わず口に出して笑う。フェンリスは相変わらず無言だけど、その歩調からは同意が伝わってくる気がする。かくしてオレは、街がさらに大きく飛躍していくのを横目に見ながら、ひとまず温泉へ向かう。そこにこそオレの原点があり、そして今もなお、この街の核心があるのだから。

 温泉に浸かったら、うまい飯を食って、夜にはルカやグラハム、エリシアと飲む約束をしてもいい。どうせまた新しい計画の話が出るに決まってるけど、それも楽しみだ。紙幣を拡張するのか、飛行船で世界を結ぶのか、軍事力を強化するのか、街中に“温泉水道”を敷くのか……想像の斜め上をいくアイデアが山ほど飛び出すのが日常だ。

 疲れた足をほぐすようにゆっくり歩き、温泉の蒸気が漂う通りへ足を踏み入れる。周囲には旅人や住民が笑顔であいさつしてくれる。誰もが明日の繁栄を信じて疑わない。実際、その信じる力が次の奇跡を生むのだろう。――そう思うと胸が熱くなる。言葉にしなくても、この場所が大きな未来を抱えているのは明白だ。

「さて、と。新たな秩序を確立したら、どんな温泉リゾートができるんだろうな……。帝国の人も誘って、世界一豪華な大浴場を作ってみるのも面白いかも」

 浮かぶ妄想にクスリと笑いながら、オレは湯の蒸気に溶け込んでいく。街の喧騒が遠のき、夜の宴と技術の轟音がどこかから聞こえてくる。
 世界が動いているという実感の中で、オレは今日も満足そうに胸を張る。何せ、のんびりしてるだけで世界支配が手に入りそうなんだから、こんなに楽な話はないじゃないか。
 夜のアインハルト自由都市が、再び奇跡を生むのは、きっとそう遠くない。

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