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第一章
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しおりを挟む王太子殿下と私の政略結婚は、特殊な形状のこの国にとって唯一の防衛線であるアーシュレイ領と結びつきを強くするためでした。高く聳えた岩山にぐるりと囲まれたこのサンジェルス国は、ちょうど壺を上下に引っくり返して床に置いた『Ω』の形をしています。王都はその『壺の底』、奥まった場所に位置します。そして、隣国と唯一接しているのが、アーシュレイ領。壺の中ではなく『接地した床』に位置します。国の扉の位置にあるアーシュレイ領は外交の要でもあります。
そのひとり娘を王太子妃として王城で人質にすることで、今は同盟を結んでいる隣国と有事になった時にアーシュレイ領に裏切らせないためでもあったのです。
もしアーシュレイ領がサンジェルス国を裏切れば、『壺の中』から逃げられません。さらに、国の食料事情が大きく変わります。アーシュレイ領は岩山の外にあるため、領地だけでも『壺の中』と同等の広さがあります。そしてその領地の農産物だけで、国民の大半が飢えずに暮らしていけるのです。
ですが、サンジェルス国の王太子殿下によってアーシュレイ領は『必要ない』と切り捨てられました。
サンジェルス国とアーシュレイ領の間に国境が引かれて、サンジェルス国から追い出されてしまったのです。国交が一方的に断たれたので、サンジェルス国に農産物を輸出する必要はありません。外交交渉? そんな事する気はありません。他国に行きたくても、アーシュレイ領を通るしかありませんが、その街道はサンジェルス国側から封鎖されたのです。領地を拝領されている貴族は、王都から逃げ出して領地にこもるでしょう。
国全体が質素倹約で生活すれば、国内の食料だけでも二年はもつのではないでしょうか? アーシュレイ領と違い、『国を守る天然要塞』である岩山に囲まれたサンジェルス国では土地が痩せているため、小麦や豆などしか育ちません。土壌改良を提案したこともございます。ですがアーシュレイ領という『食糧庫』があることで、重鎮の方々は改良を拒んでしまったのです。
そして各種調味料は、独自の技術を持つアーシュレイ領が栽培・加工したものを『物税』として国に差し出していただけです。他にも塩はアーシュレイ領の西部と南部が海岸に接していたから国内に流通していただけですし、香辛料も、アーシュレイ領には港があるため貿易で手に入れたり自主栽培したのを物納していたのです。
あの贅沢三昧の王太子殿下とその側近候補という名の取り巻き兼男爵令嬢のお相手、そして『未来の王太子妃』こと男爵令嬢。この先も、彼らが反省し考えを改めて謝罪してくることはないでしょう。逆に、因縁を突きつけてくるでしょう。ですがアーシュレイ領はすでにサンジェルス国とは無関係になったのですから、戦争に発展するでしょうね。
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