愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径

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第一章

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「そうであったか。アシュラン卿、クーデリア嬢、申し訳なかった」
「いえ。頭をお上げください、陛下」

お父様から卒業パーティー前に行われた冤罪を含めた婚約破棄騒動を聞いて、私相手にも頭を下げて謝罪してくれる陛下。お父様の言葉にも頭をあげようとされません。その点でサンジェルス国の王族とはまったく違います。あの人たちは王太子の不貞行為が公になっても謝罪も何もしませんでした。
─── だから、お父様はサンジェルス国を見捨てたのです。
そして我がアシュラン家は、正式にモーリトス国に帰属したことにより公爵位に戻りました。ちなみに、今まではおじい様がアシュラン公爵を名乗っていました。サンジェルス国で『辺境伯』だったことから考えても、アシュラン家は軽く見られていたようです。

「陛下。こちらがアシュラン公爵より提出いただいた、サンジェルス国王太子との婚約破棄に関する証拠にございます」

宰相のアライアン・ブラン・サナーセット公爵が、お父様経由で渡した婚約破棄に関する証拠の数々が円卓の上に置かれました。写真に映像を記録した魔導具。ウーレイ男爵による不正が行われた可能性があることを簡単にまとめた報告書。こちらは後ほど商会の荷物が届いてから調査をして、正式な報告書を提出します。
写真は同席された上位貴族の当主様が分けあってご覧になっています。控えの間で聞いていたお相手ごとに山にされたため、九つの山ができました。一番大きな山は王太子。それは当然でしょう。ですが、その次に大きな山を作ったのは……

「この男はコリン士爵の……」
「嫡子、ではありませんか?」
「いや、嫡子は心優しき子だったため騎士に向かず、遠戚の養子に出されたと聞き及んでおります」
「向上心の強い庶子を騎士にしたという話だったかと」
「ああ、たしか子爵家のご令嬢と縁続きになられるというお話がありましたな。士爵は一代限り。せっかく貴族の末端に席を置けたのだ。それを永続させたいがための政略結婚だと」

さすが上級貴族のご当主様。隣国とはいえ情報収集に抜かりはありません。そういうアシュラン家も、商家を使って王都の情報収集をしてきました。商家は貴族と深く繋がっています。それこそ台所ウラ事情でも情報を手にできます。いいえ、違いますね。そんな表に出ない情報ほど、その貴族の内部事情が把握できるのです。

「コリン士爵家は現在身代しんだいが大きく傾いているそうですわ」
「それはそうだろう。歴代騎士の出であるコリン家で、貴族同然の出費を繰り返しておれば、士爵とはいえ身代が傾くのは当然というものだ」
「父である士爵はそのことを存じておるのだろうか」
「出入りしている商人の話ですと、薄々存じあげているそうです。そのため華美な商品を買われず、実用的なものを好まれております」
我が商家は貴族相手の商談も取り扱っており、野菜や肉、調味料などは厨房のある裏口から。貴金属など高価なものは表の玄関からという形で商人は出入りしておりました。そして、その家にあった商品をお届けするのです。中には見栄を張るために、高価な箱に入れたリーズナブルな商品を希望される方もいらっしゃいます。

「ああ、そういえばコリン士爵家の庶子ですが、実際はコリン士爵とは血の繋がりのない子だとご存知ですか?」
「ええ。たしかご学友の妹君の遺児だとか」
「そうです。令嬢は父親の不明な子を生み、母子ともに家を追い出された。令嬢はすでに婚約していたが、相手から婚約破棄をされたらしい。見るに見かねたコリン士爵が子供を自身の庶子として引き取り、令嬢は修道院に入ったと聞く」
「そうか。どこかで聞いたと思ったら、ブレックス子爵の元令嬢の話か」
「ああ、あの悲劇の令嬢か。ユルッグナード子爵家の息子が市井で遊ぶ子の声が甲高くて気に触るとの理由で斬ったが、市井の子と思ったその子は侯爵家の嫡男で、一命を取り留めたものの多額の慰謝料を支払うことになった。その慰謝料を作るために、破落戸ならずものたちに自身の婚約者を襲わせて婚約破棄に仕向けて法外な慰謝料を巻き上げた、という話だったな」

─── すごく近くから冷気が漏れてきます。そうっと視線を向けると、イリアお義姉様……ではなく、そのお隣のレヴィアス兄様から冷気が……。ですが、その冷気よりはるかに大きな冷気がこの円卓の部屋を覆っています。

「陛下。冷気をコントロールなさいませ」

サナーセット宰相の指摘に「う……む」と小さく声を出されると冷気が消えて暖かくなりました。そういえば、レヴィアス兄様が仰っていましたね。陛下が激高している、と。

「クーデリア嬢。そなたにサンジェルスを与えるにあたり、イリアを中心に『清掃活動』をしてもらおうと思う。イリア、よいかね?」
「はい、陛下。ご期待以上の成果をお見せ致します」

陛下の仰る清掃活動とは、此度の件に対しての事後処理を指しているのでしょう。そして、その権限をアシュラン家のレヴィアス兄様ではなくモーリトス国王女イリアお義姉様が持つことで、この一件はサンジェルス国内の問題ではなく国家間の問題として取り扱うことを決定されたのです。
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