愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径

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第一章

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「婚約者に不貞を働かれた令嬢のご実家には、有償ですが証拠をお譲りできると伝えてあります」
「アシュラン公。その気の毒なご令嬢は何人になりますか?」
「三人です。娘と同じ歳の方がお一人。お二人は娘の一つ下の学年です」
「アシュラン公爵令嬢。あなたからご覧になって、その令嬢たちは?」
「ご本人が望まれるのでしたら、お二人の令嬢をこの王都の学院で学ばせてさしあげたく存じます。もうお一人の方は私と同じく昨日卒業いたしました。数日の内に婚家に入られて半年後に婚姻式をされると伺っております」
「その令嬢を早く救い出さなくてはなりませんね」
「その必要はなくてよ」

レヴィアス兄様の言葉の後に聞こえたのは、おばあ様の声でした。下座しもざにある扉の前におばあ様が立っています。

「おばあ様。それではマジェスタ様は」
「ええ。ご実家には写真を届けて、娘さんは預かって家に置いてきたわよ。アンタのいう通り、婚家から『卒業したのだから早く娘を差し出せ』と言ってきてたようでね。娘さんを無理矢理連れて行こうとした使者の顔面に写真をぶつけて「証拠写真はある。焼き増しして王都と領地にばら撒かれたくなければ慰謝料と口止め料を寄越せ」って脅したら写真を持って逃げ帰ったよ」
「まあ、おばあ様! そこは『一日支払いが遅れる度に慰謝料を水増し』にさせなくては」
「いやいや。そこはじゃな、イリアよ。『写真一枚につき百万』と伝えておいた。なあに、写真は焼き増しし放題だから、いくらでも慰謝料は増やせるぞ。それにこの交渉はアシュラン家に対してじゃ。娘さんのご実家へ支払う慰謝料は別じゃ」
「さすがおばあ様ですわ!」

イリアお義姉様が女性として尊敬されているおばあ様を、目を輝かせて見つめています。おばあ様は優しくて強い。腕力ではなく知力の部分で。おじい様とおばあ様が人々に好かれるのも、前国王陛下がおじい様かおばあ様に譲位しようとされたのも、すべて『思いやりと細心の配慮』を持たれているからです。
イリアお義姉様がレヴィアス兄様と婚約を結んだときに一番喜ばれたのは前国王陛下だったのです。王位継承権を放棄された皆さんも貴族の皆さんも、その譲位騒動をご存知なので、レヴィアス兄様に譲位されることに納得されたのです。

「使者に渡した証拠とは別に一式全部渡してきたわ。それを見て奥方はひっくり返ってしまわれたよ。このような男に大事な娘を嫁がせようとしていたショックでね。そこの山にもあるだろう?」
「皆様、フォンノ侯爵家ですわ」
「おお、これじゃったか」

私の言葉に皆様が山の一つに手を伸ばされました。お名前を言っただけですぐにわかるなんて驚きです。アシュラン家が存在するためサンジェルスとは直接交渉をされない皆様ですが、各家の内情に明るく、情報交換をされています。 

「たとえ他国のことであっても些細な情報であっても。このように互いの持つ情報を共有することで大きな情報になる。サンジェルスはリリィが治める領地となる」
「私が選ばれたのはこの地に住んだことがあり、王妃教育を受けたことで貴族や王国の内情に明るい。そして、お父様とは別の繋がりを持っていることにありますわね」
「そうだ。リリィが学園で築いた交友はそのまま貴族との繋がりを意味する。それはこの国のさらなる繁栄に結びつく」
「リリィのおかげで、一人の女性が不埒な男に無理矢理伴侶にされることもなく、残り二人も救われるわ。修了式が終わり次第、こちらへ保護される手筈になってるから安心しなさい」
「でもおばあ様。ご家族の方は? 相手は権力を使って来られるのではなくて?」
「大丈夫じゃ。交渉には当主たちが必要だからね。彼らは娘のために立ち向かうと決めた。覚悟を決めた親は誰よりも強くなれるもんだよ」

イリアお義姉様の疑問に答えるおばあ様。私はそんな勇気のある人たちのために少しでも手助けになりたい、盾になりたいと思いました。
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