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第二章
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しおりを挟む「────── え? ジョスカー? ─── あんた! 私のジョスカーになんてことを!」
ソレイユが私の胸ぐらに掴みかかってきました。同時に私の侍女メイベルがソレイユを床に押さえつけます。
「王太子殿下に対しての殺害未遂で身柄を拘束する!」
「王太子殺害っ! それはあの女のほう……!」
「クーデリア王太子殿下に手を出して何を言っている!」
「────── え?」
メイベルの言葉に固まったソレイユ。私の兄がモーリトスの次期国王で、兄が国王を継いだら国王夫妻に御子が誕生するまでは私が『モーリトス国の王太子』を名乗る。そのことはお二人が婚約された際に国内外に通達したため、もちろん元サンジェルス国民でも知っていることなのです。
「ウーレイ家ソレイユ。あなたがこれまで私や我がアシュラン家に対して繰り返してきた数々の罪。さらにウーレイ元男爵による、我が商家の私物化。何より『主家に対する裏切り行為』により、元サンジェルス国国王の名においてウーレイ家は爵位剥奪及び私財没収の上、お取り潰しとなりました。ウーレイ元男爵及び父と妻も連座により同等の処罰を下されました。もちろん、主犯であるあなたと婿養子であるユーレットも罪を免れることはできません」
夫婦揃って逃亡したため指名手配されたのです。もちろん、わざと逃亡させました。主犯を取り逃がすほど、イリアお義姉様を始めとした戦乙女の皆さんは愚かではございませんわ。彼らは共犯者を炙り出すために泳がされていただけです。つまり生き餌ですね。おかげで、不当に扱われてきた無辜の民を救うことができ、新領主となった私は領民の皆さんから大変感謝されました。おかげで農業から畜産業に移行してもらう計画もスムーズに進んでおりますわ。一部の地区では、果樹の栽培をお願いしました。小高い山などの領地で暮らす方々です。均等に陽が当たるため、美味しい果実が収穫できるでしょう。
そんな二人がこの祝いの席へ出てきたのも、自身たちの『王太子と王太子妃』という立場を国内外へアピールして逃走劇に終止符を打ちたいからのようです。逃走からひと月でサンジェルス国内には頼れる貴族がいなくなりました。国外、モーリトス国に別邸を持つ貴族が、その別邸を二人に提供するという形でサンジェルスから追い出しました。報告では、その別邸内に外出できないという不便さはあるものの快適に隠れ住んでいたようです。
そう都合よく、国外に別邸を持つ貴族などサンジェルスにおりません。それも、モーリトスの王都の外れに。別邸はこちらで用意したものです。そして、不自由な思いをさせてきたある日、王城で国内外の王族や貴族が招待されたパーティーが開かれると知ったのでしょう。別邸の持ち主である貴族夫妻に招待状が送られたはずですから。
本来、二人は入り口で弾かれたはずです。招待状には『サンジェルス国』という、すでにない国の名前が記載されているのですから。ですが、壇上のお二人が手を回して入れるようにされたようです。
「嘘! 嘘よ! 私たちは何も悪くない!」
メイベルに組み伏せられているソレイユが、場にふさわしくない大声で喚きます。チラリと私を見上げるメイベルの目には『お嬢様、この者を永遠に静かにしてもらってもいいですか?』という意思が多分に含まれています。それに黙ったまま左右に首を振ると、同意したように頷きました。
祝いの席を血で汚す行為は許されません。そのためユーレットの頭部に結界を張って血を流さないよう配慮しました。そのユーレットの身体はすでに片付けられました。彼の廃棄先は地下牢です。愛しいソレイユが地下牢に到着したら、移住していただく予定です。正式な移住先が決まるまで不自由な生活が続きますが、二人一緒なら退屈しないで待っていられるでしょう。
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