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第二章
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しおりを挟む「いいえ、現実よ。それに、あなたのお父上が働いている商家はどこの領の所有で、取り扱っている商品はどこの領の製品か。娘のあなたがご存じなかったのかしら?」
「え? ────── まさか」
「そう。あなたが見下し続けたアーシュレイ領です。そして商家で働く者はどこから来たのかも、ご存知ないのかしら?」
私の言葉に青ざめながらも上目遣いに睨みつけるソレイユ。床に倒されて、上からメイベルに押さえつけられているため、逃げることも出来ません。せいぜい返事をしないことで抵抗しているつもりでしょう。
「あなたが散々田舎者とバカにしてきたアーシュレイ領です。商家の主人は我がアシュラン家当主。売り子で王都の方を雇う商家もございます。ですがアーシュレイ領は特殊な立場ですから、すべてアーシュレイ領の方たちですわ。ですから、あなたを含めたウーレイ家もアシュラン家に仕える寄子ですわ」
商家は領地の特産物を取り扱っています。農産物でも『領と同じ値段で購入できる』というメリットがあります。そして、あまり流通していない農産物もあります。その場合、どんな味でどのように料理すれば良いかなどのアドバイスも必要となります。そのため、商家で働く者のほとんどは自領から派遣されるのです。
さらに我が領の場合、次期モーリトス国国王に言い寄ろう、という不届き者が現れないとは限りません。目の前で床に伏せられているソレイユのように。次期領主目当てで商家で働きたいという者はいます。お父様は外務大臣として国外と太いパイプがございます。アーシュレイ領はそのパイプの拠点として国外と流通しているため、他領では手に入らない商品が店頭に並んでいます。
「商家で働けば安く手に入る」
そう考える不届き者も間違いなくいます。ですが、商家で働く者はその領の顔です。認められるはずがありません。
─── それを破ったのがソレイユとウーレイだったのです。揃いも揃って、親娘で主家を裏切ったのです。
「─── 私は王都の生まれだわ」
「いいえ。あなたが生まれたのはアーシュレイ領にあるあなたの父の実家よ。商家が軌道に乗るまでずっとアーシュレイ領にいたの。三歳までだったかしら?」
「うそ……だわ」
「真実よ。そうそう。私たちアーシュレイ領では有名な『あなたの真実』を教えてほしいかしら? でも、それを知ったらあなたはどう思うかしらね」
「私はアンタの嘘なんか信じない!」
「あらそう? でも周りの皆様は興味がお有りのようだから教えてあげるわ。─── あなたのお父上が叙爵されたのに、あなたや母親が平民のままなのはおかしいって思わなかったかしら?」
「私は男爵令嬢よ!」
「いいえ。あなたの父親はウーレイではない。だからこそあなたに爵位が継承されない『一代貴族』だったのよ」
「ちが、私のお父様は……」
「あなたの父はウーレイの父、あなたが祖父と呼んでいた方よ」
「嘘よ!」
「本当。だったら何故、王都と領地に離れていたウーレイ家の嫁が妊娠したの?」
「それはお父様が……」
「商用馬車で片道五日。往復十日。一泊もしないで帰ったなんてありえないわよね。でも、それだけ長く王都を離れた記録はないわ。もし離れていたのが事実と言うなら『記録改竄』の罪が追加されますわね」
残念……ではありませんね。
ウーレイも領主よりお預かりした商家を私物化し、資金や商品の横領および商品の横流しや融通をしていた証拠を突きつけられました。先に申しました通り、ウーレイは爵位剥奪及び私財没収の上でお取り潰し。犯罪奴隷へとその身を堕としました。以前にイリア王妃がお話ししてくださった『岩山排除計画』のために、慣れない道具を手に肉体労働を課せられています。
アシュラン家への不当な扱いに対して、モーリトス国が正式にサンジェルス国に抗議した一年前。ソレイユはユーレットと共に責任から逃れるために王都から逃げ出したため、祖国が消えたことを知らないのでしょう。わざと逃したのです。そうじゃなければ、『アシュラン家はモーリトス国に帰属した。そのことで王太子殿下とウーレイ男爵令嬢に身柄の引き渡しを求めてきた。二人はモーリトス国の法に倣い、重罰が与えられる』と広める必要はありません。さらに、二人を逃したとして国王に責任を負わせてサンジェルス国を廃国にさせたのです。
一応、サンジェルス国を属領とする正当な理由を残すためです。王族がその身を差し出すことで、国民は大きな被害もなくモーリトス国に属することができます。貴族は爵位を取り上げられるものの、領地預かりとして領地を運営することが許されます。ただし、いくつもの制限はされます。
そして、すべての権限は領主である私にあります。
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