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第二章
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しおりを挟むウーレイ家に対しては、お父様とアレクシスお兄様が直接男爵邸に乗り込んで証拠を叩きつけました。その上で、私財を我がアシュラン家に没収されたのです。そして『主家への裏切り行為』『寄子娘の主家令嬢に対しての不敬の数々』の慰謝料も含まれています。さらに『不正の恩恵を受けていた』として、ウーレイ家の親族および妻の親族も同罪。私財没収の上、全員が犯罪奴隷に堕とされました。
ソレイユによる私への様々な不敬は『本人自身に償わせる』事となりました。平民による貴族、それも寄子による主家への反逆行為は、立場が平民ならどの国でも公開処刑となります。妻の親族は全員が平民。公開処刑の対象です。それを犯罪奴隷とはいえ処刑から免れるためなら、すべての元凶であるソレイユに罪を着せて喜んで差し出したのでしょう。
それで生命拾いしたと思っているようです。
『岩山排除計画』で岩山が予定よりも早く全てなくなったとしても、彼らの罪は消えません。だってこれは『横領による罰』であって、『主家に対する反逆罪』の罰ではないのですから。
頑張れば頑張るほど早まるのです。─── 公開処刑が。
「商家が軌道に乗り、私は家族を王都に呼び寄せることが出来ました。しかし、そこで発覚した父と妻の関係。二人の不貞を知っただけでなく、私の預かり知らぬうちに生まれた子は『私の娘』として届けがだされていたのです。─── 目の前に立つ娘が汚らわしかった。『父』と呼ばれる度に吐き気がした。だからこそ、私は自棄になり、さらに仕事に打ち込むようになりました。気付いた時には主家を裏切る行為に走っていました」
捕らわれて頭が冷えたウーレイは、そう言ってお父様へ謝罪したそうです。もちろん、そんな言い訳は一切認められませんが。
「だったら何故、叙爵の打診を受けた時に主家に申し出なかった? 商品の横流しに金銭の横領。商家の管理がウーレイ家だけだと思っていたか?」
ウーレイはお父様の言葉に驚きの表情を見せて、自分以外の誰が管理を任されていたのかを必死に聞き出そうとしたそうです。
「聞き出してどうするつもりだったのでしょう?」
「簡単さ。罪をその誰かになすりつけるつもりだったんだ」
「そのようなことが可能なのでしょうか?」
「自分の罪を父上に訴えたのがその誰かだと信じたようだからね。─── そんな者はいないというのに」
「アレクシスの言う通りだ。ウーレイはまだ表面化していない罪をその相手に背負わせて、一緒に地獄へ落とす気のようだ。これがリリィの指摘から調べたことだとは知らずにな」
私の指摘から七日後、領都に撤収した商家の荷物から帳簿をすべて調査した結果、不可解な金銭の流れが見つかりました。
ちゃんと会計士が出納帳をつけていたため、仕入れ値と売却単価も記載されています。それと、毎月届けられる取引先の出納帳の写しをチェックしました。取引先や生産者の出納帳に記載された売却単価が商家の出納帳より低く、決められた金額以上で販売されていました。
例えば粒胡椒。一粒を砕くことで、だいたい五グラムの粉末になります。それだけで一般家庭では二、三ヶ月は使えます。貴族ではひと月分でしょうか。そのため、一粒から購入が可能です。
粒胡椒を始めとした香辛料はサンジェルス国内では貴重なため、高額で取引されています。アーシュレイ領がサンジェルス国の属領になる前からの金額ですわ。モーリトス国など、自国栽培が可能な国では安価で流通しています。
生産者の記録では、売却単価が一粒で一千ルーベット、銀貨一枚の価値となります。それが、商家の出納帳の仕入れ値は、一粒が一千二百ルーベット。銀貨一枚と銅貨二百枚です。もちろん少量の取引ではございません。一度の取引で三万粒、麻袋で三十袋を仕入れます。この時点で六百万ルーベット、金貨六枚の横領です。
そして我が領では、一律で販売価格は購入単価の百二十パーセントと決められています。それは王都に置かれた商家でも同様です。特例として不作などの自然災害で販売価格は変わりますが、その場合は事前に申告が必要となります。
本来の販売価格は、一粒一千二百ルーベットになります。それが一粒一千四百四十ルーベット。差額は二百四十ルーベットです。仕入れた三十袋を完売すれば、差額の七百二十万ルーベットがウーレイの懐に入ることになります。
つまり、一度の取引で一千三百二十万ルーベット、金貨十三枚と銀貨二百枚をウーレイが横領していました。
元々は八年前の自然災害の時に金額が変更されたのです。もちろん、生産が安定した二年後には元の価格に戻されているはずでした。それが六年前の価格変更が実行されていなかったのです。
ウーレイは定期的に販売実績の報告を領都へ送ってきました。その時の仕入れ値と販売価格は従来の金額が記載されていたようです。それには会計士の確認済みの印章も押されていました。─── 会計士もグルだったのです。
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