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第二章
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しおりを挟む「わ、私たちをどうするというの」
男囚の方は完全に怯えています。私がまだ扇を持っているからでしょうか? 時々パチンと左の手のひらにあてていますが、その音が聞こえる度に怯えるのです。
女囚はそんな男囚を守るように抱きしめています。私のことはあの場で説明しました。ですが、それを男囚に説明していないようです。先ほど男囚が発した『モーリトス国の王太子』というのも、この地がモーリトス国だからでしょう。そして私に向けて繰り返した『ベアトリーチェ』。それはモーリトス国前王妃様、イリアお義姉様の母君の御名です。
これで、罪名が追加されました。貴族、それも王太子を騙ったのです。
さっきの騒ぎもこのことが原因でしょう。
「あなた方は先日の騒動で斬首刑になるはずでした」
私の言葉に、二人は無意識でしょう。首に手をあてて繋がっていることを確認して、安心したように息を吐き出しました。
「ご安心ください。お二人は夫婦です。ひとつ屋根の下、ご一緒に暮らしていただきます。引き離すようなことは致しませんわ」
「私たちをどこに連れていく気なの?」
「牧場か農場ですわ。そこで労働力として働いていただくことになります」
なぜ、この時点で笑顔が戻るのでしょう?
何か考え違いをしているのでしょうか。これは罰ですわ。ただの労働力として働けるはずがないじゃないですか。
「そりゃあ、その罪人たちは知恵がないからな」
王城でレヴィアス国王陛下へ報告してレヴィリア領に帰る前にアーシュレイ領に立ち寄り、お父様とアレクシス兄様に報告しました。兄様の言葉にお父様も頷かれます。
「情報収集も怠るような連中だ。送られる先の情報を聞き出そうとしなかったのだろう?」
「はい。ただ嬉しそうに笑っているだけでした」
「いつまで笑っていられるかな?」
「父上。それは実際に送られて、そこで労働力として契約する書類をろくに読まず魔力を込めてサインをしてからでしょう」
「─── そんなに愚かでしょうか?」
「ああ、愚かだ」
お父様が断言されます。隣で兄様も頷かれています。
たしかに、「斬首刑ではなくなった」と聞いて驚き、「労働力として働く」と言われて喜んでいました。それは『死を免れた』からではないのでしょうか?
「リリィ。連中は死刑の下が『労働力として人ではないものとなる』ことを知らぬようだ。だからこそ『労働者として雇用される』と勘違いしているのだろう」
「あ、そういうことだったのですね」
この世界では刑罰は一律です。最高刑が死刑です。その数や処刑方法は国によって様々です。貴族と平民でもわかれていたりします。貴族として一般的に知られている死刑は国王陛下から賜わる毒杯を自ら呷ることです。
斬首刑は貴族にも平民にもあります。ですが、方法は異なります。貴族はギロチンです。一見、残酷に見えますが、一瞬で確実に死ねるということで採用されました。平民の場合、柳葉刀や斧による斬首です。使用される柳葉刀や斧は目で確認できないくらい小さな刃こぼれをしていることもあります。どんなに手入れをしていても耐久性は落ちます。そして執行人の腕にも左右されます。一発で斬首されるのは稀です。二度三度と繰り返して、やっと斬首されるのです。その間、罪人は断頭台に動けないように括り付けられて、悲鳴をあげ続けるのです。それが生存確認になるのです。
「連中は貴族ではない以上、斧による斬首刑だろう」
「柳葉刀は鍛錬で首が固くなる騎士や兵士の斬首刑に用いられるからな」
「青龍刀を使う地域もあるそうですね」
「ああ、青龍偃月刀のことか。あれは薙刀の一種だからな。柄が長い分尋がある。そのため、力がなくても首を落とせる」
「ええ。その国でも、無辜の民に略奪や陵辱行為をおこなった兵士に、その被害者や家族が自らの手で斬首するために使われていると聞きました」
「そうだ。ジョルシア国のナダル国王は前王の庶子という事実を隠して村で生きていた。そのときに近隣で村同士の騒動が起きた。その平定にきた兵士たちに女性たちが蹂躙された。兵士たちは厳罰に処されたと言われたが、実際には三ヶ月から半年の配置換えで、処罰期間が終われば元の配属先に戻った。そのことがわかり、彼は自ら旗印となり反乱を起こした」
この反乱は、国に反感を持っている圧政の中で生きていた平民たちに圧倒的な支持をされて大きなうねりとなって国をうごかしました。モールドレア国は王家解体の上で消滅。そのままでは近隣に分割吸収されてしまうため、旗印として立ったナダルを新たな王に掲げて新国を宣言しました。それがジョルシア国です。
旧国の王族や貴族は、罪を犯したと真偽発見装置で認められた一定年齢以上の者は処刑されたり犯罪奴隷となりました。処刑された中に、平民に危害を加えた兵士たちが多くいました。そんな彼らの処刑に使われたのが青龍偃月刀による処刑方法でした。
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