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第三章
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しおりを挟む入学初日は最悪だった。
クラス分けの試験は散々。一年生だけ学力で決められるクラスは一番下のランク。そして一年生の教室は一階。これでは二年生のユーレットとは直接会えそうもない。それでも来週のバラ園イベントを心の支えにして、つまらない授業に必死についていった。
学院に入って初めての休日に、私は学院内の地図を開いてバラ園を探した。
「え? こんなに離れているの?」
教室のある学習棟から距離にして約一キロ。─── ゲームではこの場所に噴水があり、隣に木陰をつくる大樹とベンチがあった。しかし、地図に描かれていたのは四阿だけ。大樹がないから小鳥のイベントはなく、木陰のベンチがないから攻略対象者たちと私の手作り弁当を一緒に食べるイベントもない。
「お嬢様、どちらへ?」
廊下を急ぎ足で歩いていたら使用人に呼び止められた。貴族になってから自由に外出もさせてもらえなくてイライラするわ。
「学院よ」
「今日はお休みでございますよ」
「そうだけど……地図を見ていたら迷いそうだから、直接見て回りたいの」
「そうでございますか。それでしたらすぐに馬車の支度をします。その間にお召し物を替えられてはいかがでしょう」
そう言われると、すぐに侍女が現れた。どこにいたというか隠れていたんだ?
「学院に参られるのでしたら制服をお召しになられた方がよろしいかと」
その話をしていたとき、そばにいなかったのに……どこから聞いていたのよ。
「そうね。制服なら学生の証明だもの」
「はい。教室と名前を確認すれば入れていただけます」
「わかったわ」
制服に着替えるのを手伝わせて、その間に用意された馬車に乗り込んだ。学院内に馬車を入れられるのは王族と、上級貴族と呼ばれる公爵と侯爵、そして伯爵。悪役令嬢の親は辺境伯。馬車で学院内にはいれる。
「─── 悪役令嬢のくせに」
私の呟きは、馬車の音で誰にも聞かれなかった。
王都内に住んでいても、学院までは馬車で三十分。貴族エリアなら馬車でも十五分で着く。せっかく貴族になったのだから貴族エリアで住みたいと訴えたが、父だけでなく祖父や母にまで反対された。私はヒロインなんだから、悪役令嬢よりいい家に住みたいのに……。なんでわかってくれないのかなぁ。
悪役令嬢の情報を聞き出そうとすると途端に不機嫌になるし。
きっと悪役令嬢の父親も悪役で、みんなから嫌われているんだわ。だから口にするのも嫌なのよ。
────── 私は本当にそう思っていた。まさか父が『雇われ店長』で、私たちの方が悪役だったなんて本当に知らなかった。だって、誰も教えてくれなかったんだもん。そうよ、教えなかったみんなが悪いの。知らなかった私は悪くないのよ。
「お嬢様、学院前に到着いたしました」
馬車が止まると、外側からドアを開けられる。御者の言葉に礼を言うと、差し出された手に私の手を乗せて踏み台を降りる。この時に相手の手に体重をかけてはいけない。そんなことを知らないから馬車から落ちたの……入学式当日に。みんなに笑われたんだから! その日から『見せかけの貴族』だの『成り上がり』なんて聞こえるような陰口を叩かれている。これだって、悪役令嬢の仕業だわ。そうよ、絶対間違いない!
本当の貴族なら「大丈夫ですか?」と聞いて手を差し出してくれるわ。だって私はヒロインなんだから!
門の守衛にクラスと名前を告げると通らせてもらえた。日本の学校みたいにクラブ活動があるのではなく、友人たちとサロンでお茶会を開いたり、散歩に来ているらしい。
私はバラ園へ向かった。ちなみにこの学院は西側に正門があって、中央に巨大な円形の学習棟。バラ園は南側に広がっている。学習棟に寄る気もないから、そのままバラ園へ。私、このバラの匂いって強すぎて嫌いなのよね。
「……! おい! 止まれと言ってるのが聞こえないのか、そこのバカ女!」
突然聞こえた罵声。同時に強く後ろに引っ張られて尻餅をついてしまった。
「何するのよ!」
「ここはいま立ち入り禁止だ! どこから入ってきた!」
「知らないわよ! 立ち入り禁止⁉︎ だったらそう書いておきなさいよ!」
私の言葉に目の前の男子生徒は「はあ?」と素っ頓狂な声をあげた。
「お前、どこから入ってきたんだ」
「お前? それが人にものを聞く態度なの⁉︎」
自分が礼を欠いた言動をしたことに気付いた男子生徒は、私に手を差し出した状態で名前を名乗る。
「すまなかった。俺はユーレット・ジョスカー・サンジェルス。この学院の生徒会長だ」
これが私とジョスカーの出会いだった。
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