愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

第三章

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カシャンッと制服の下に身につけているペンダントのチェーンが鳴った。先程のジョスカーへの過度なお願い、それを後押ししてくれたのがこのペンダントの存在だった。
これは元々、恋愛成就の願いが込められたという指輪だった。しかし、このつるバラをモチーフにした指輪を身につけての登校は許されていない。学院はアクセサリーの類をつけてくることが禁止されているからだ。年齢不相応な指輪やネックレスをしてきて見せびらかすような生徒が現れないようにするためらしい。─── 見せびらかすだけならいい。それを使って下位の貴族や平民学生の荷物に紛れさせて窃盗犯に仕立てようとする学生や、自らの手で壊して他者に責任をなすりつける学生が過去に現れたことで禁止事項に加えられたと入学式後に教室で行われた説明でそう聞いた。そういえば悪役令嬢が相手なら、そんな手段でヒロインをいじめることもありえるだろう。
私のようにシンプルな指輪をチェーンに通したネックレスを制服の下に隠しているのは『年相応の隠れたおしゃれ』として見逃されている。ただし、紛失しても規則違反のため訴えられずに泣き寝入りだ。

『恋愛成就の願いが込められた指輪』

そう聞いたときに眉唾物だと思った。それでも自分はヒロインとして恋を、王太子妃という最高の地位を勝ち取るためのアイテムとして購入した。

「そいつは肌身離さず持っておくがいい」
「いつもですか？」
「ああ、そうだ。指輪として身につけているのが難しいなら……ほら、このチェーンに通してネックレスにして服の中に隠せば良い」

そう言われて、その通りにしてきた。実は魅了の魔導具だった場合、持っているだけで捕まってしまう。そのため商家の鑑定士に指輪を確認してもらった。

「ええ。たしかに恋愛が叶うように、との願いが込められていますね。ですが、それ以上の効果はありません」

鑑定士は精神に作用する、あらゆる魔法を跳ね返す魔導具を身につけている。そんな彼が鑑定して魅了がついていない
と断言したことで安心し、それからずっと身につけていた。
────── 巧妙に魅了が発動するように編み込まれていたのはチェーンの方だったことに、そのときはまだ誰も気付いていなかった。


学院生活は充実などしていない。特に一年生はひたすら勉強するための日々。─── 違った。学院では『一学年生』というらしい。ジョスカーからそう指摘された。
ジョスカールートにはいったあのバラ園からひと月たった今、こうして図書館でしか会えないものの、それでもジョスカーとは変わらない良い関係が築けている。ジョスカーには週二回、図書館で勉強を教わっている。申し訳ないと思うものの「復習になっている」と微笑まれてはそれ以上言えず。
そんなある日、事務局から注意を受けた。

「入学からひと月たちましたが、いつ入寮される予定ですか？」

私の表情を読み取った事務職員が呆れた表情を一瞬見せてから説明された。学院は全寮制で、通学が許されているのは上流階級の貴族のみ。ただ、一学年生は準備が間に合わなかったりするため、入学から一ヶ月は入寮の猶予が与えられている。

「入寮後は週末以外はの外出は許されておりません。また、ご家族であっても面会は禁止されております。実家に帰られるのは二ヶ月の長期休暇のときだけですが、事前に申請して許可が得られなければ帰ることもできません」

年に二回しかない長期休暇とはいえ、離れた領地に帰らず寮に残る学生はいる。それを把握するためと、補講がある生徒が逃げ出さないように、という理由もあるそうだ。

「そんなことを急に言われても……」
「急ではありません。入学前や入学式後に行われた説明会オリエンテーションで繰り返し説明してきました。すでにご自宅に手紙が届いているはずですが直接お話ししますね。─── 入寮されない場合、学院を辞めていただきます。よくご家族と話し合ってください」

せっかくジョスカーと仲良くなれたのに学院を辞めさせられては困る！
その日はから図書館に寄らず、慌てて入寮の準備をして翌週の休みに無事入寮した。